一方その頃③
ーーミュティア視点ーー
「これはすごい……とんでもない力が漲ってくるぞ……あははは!」
黄金色のオーラに包まれたリーベルト様がそう言ったのですが、私はこの言葉に違和感を覚えました。
しかし、流石大勇者と言う名の通り、とてつもない聖なる力を感じます。
勇者にしか扱えない力、破邪の力です。
「ブレイブフラァァァッシュ!!」
リーベルト様の声と共に1ヶ所、これまた黄金色にピカッと一瞬だけ強く光りました。バジリスクです。
【ブレイブフラッシュ】と言うスキルは、索敵スキルの様ですね。
と言うよりも、先導術士のスキル【エネミーサーチ】そのものでした。
リーベルト様は先導術が使える?
「そこか! 勇者の秘剣! ブレェェェェイブソォォード!!」
強く光った所にスタタと駆け出し、輝く剣で斬りつけました。
バジリスクはササッとその攻撃を回避したかに見えましたが、尻尾は間に合わず【ブレイブソード】が命中。
ズバッ!!
「キシェェェェェェ!!」
「おぉ!! リーベルト殿の攻撃で尻尾を切り落としたぞ!! 流石は大勇者じゃ!!」
「リーベルト様♡ 素敵♡」
「今度は確実に仕留めて見せますよ! 陛下!」
リーベルト様は再び強く力を溜めようと、【スーパーブレイブ】による黄金のオーラを纏います。
「うぉぉぉぉ!! もっとだ!! もっといけるぞ!!」
先程よりもさらに凄い力の波動を感じます。
…………これは、何だか。
いえ、気のせいでしょう。広範囲の浄化を続けたせいで少し疲れた様ですね。
さあ、私は【絶死の猛毒】をどうにかしなければ。
「グニシス、女神の光翼を使います。分かっていると思うけれど、皆さんに結界を張る事が出来ません。詠唱中はよろしくお願いしますね」
「つい5日程前に使ったばかりじゃないですか!? 多用すると貴方様のお身体が持ちません!!」
「分かっています。しかし放っておくとこの者は助かりません。私の信念は知っていますね?」
「関わった者は全力を持って力を使う。ミュティア様…………。分かりました!! このグニシスにお任せ下さいっ!」
私などが救える命なんて限られてます。到底世界の全ての者を救えるなんて思えません。
ただ、私の目の前にいる救える命は全力で救う。それが私の信念。
ふぅぅ……。
ゆっくりと深く息を吐いて深呼吸した後、言葉を紡ぎます。
「天上の三女神ミレイネスよ、神聖なる輝ける白翼で穢れし存在を浄化し給え。女神の光翼!」
魔力の風に乗って宙に浮き上がり、私の背中には光輝く翼が。
ヒュイィィィィィィン!
「なんじゃ……光った翼がミュティア殿の背中に、なんとも神々しい……。これが大聖女と呼ばれる所以か」
「美しい……まるで天使のようだ……」
「ふ、ふん! 何が大聖女!? 何が天使よ!! ただ光ってるだけじゃない!! あんたクビよ! お父様も! 惑わされすぎよ!」
胸に手を組んで祈ると、汚れた灰色の毒が兵士から取り出され翼に吸収されて行きます。
更にこの洞窟のエリア内全ての瘴気まで吸い取ってしまいました。余りにも術の効果が高い為、最小限に抑えていてもこの効果です。
シュウゥゥゥゥゥゥゥワァァァァァァァン。
「な、なんと!? 瘴気まで吸い取ったと言うのか!? このエリア内全て!?」
「お、お父様! こんなのなんて事ないわよ! 演出よ演出! きっとリーベルト様に振り向いてもらう為の……あぁムカつくぅ!!」
演出ではないですよアイリーン様。
「おお!! 顔色が戻ったぞ!!」
「あ……ありがとう……ござい……ます。ミュティア……さま」
間に合って良かった。
「……ぅ…………」
「ミュティア様!!」
倒れそうになった私を抱き抱えてくれたのはグニシス。
グニシスはいつも私の事を気遣い、そして我儘に付き合ってくれる。
「グニシス……ごめんなさい。私…………また我儘を言ってしまいましたね」
「良いのです!! とにかくバジリスクを倒したらロゼルスに戻りましょう! 休息が必要です!」
「グニシス…………私……」
「はい?」
「私…………貴方の事……が、ずっと……ずっと前から」
「ふふ、そんな冗談が言えるのなら一安心です。さあ、もう喋らないで。少しでも体力を温存しましょう」
「けれど……」
「ミュティア様!」
私はそれにコクっとゆっくりと頷いて返しました。
やはり、休息の期間内に使うと体が言う事を聞かなくなるのですね。
とてつもない魔力を要するし、女神ミレイネス様のお力を人間の私が行使するのは無理があるのでしょう。
こんな風に私はこれまでに【女神の光翼】を数十回使っていると思います。
恐らく、【女神の光翼】とは穢れをこの身に吸収し、体内で浄化する術なのでしょう。
私程度の魔力では、体内浄化し切れていないのです。
その影響なのか分かりませんが、私の体は原因不明の何かに蝕まれてしまっているのです。
う……。
体が重い。やはり毒の浄化が上手くいっていないのかも。
「お父様! こんな女よりもリーベルト様よ! ご覧になって! ほら! 私の旦那様になる人なんですから!」
そうじゃな、と陛下はバジリスクと戦うリーベルト様に目線を移します。
「……おぉ! バジリスクに凄まじい連撃を浴びせとるぞ〜! 聞けばランクAの魔物と言うではないか! たった1人で大したもんじゃよ! ぐわっはっはっは!」
「リーベルトさま〜♡」
ズバッ! ズバッ! ズバシュ!!
「瘴気が消えてはもう隠れられないだろ? くくく、とどめだ! そらぁ!!」
ヒョイ。
「ちっ! ちょこまか動きやがってこのトカゲ!!」
「ムグググググ……」
いけません! あの動きは……。
「石化ブレスです! リーベルト様、離れて間合いを取って下さい!!」
と、グニシスが警告しますが離れようとしません。
早く離れないとブレスが……。
「なんだって? 何で善戦してるこの僕が離れなきゃいけない? 僕は大勇」
「ブッハァァァァァァ」
ダメ……間に合わない。
「リーベルト様!!」
グニシス!?
グニシスがリーベルト様目掛けて体当たりを。
嘘……。
灰色の煙をまともに浴びてしまいました。
「あ……ぁ……う……ミュ……ティ……」
「グニシス……!」