喰らう
「ゼン! 目を開けて! お願いだから目を開けて!」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
なんだ……? 俺はどうなった……?
目が霞んでしまって……でも微かにリラの涙ぐんだ顔が見えたんだ。
意識朦朧としてる中で思わずニヤニヤしてしまった。
「ちょっとゼン!! ねぇってば!! 笑うならちゃんと笑いなさいよ……!!」
「無駄だ、心臓を貫いたからな。人間にしては頑張った方だぜ」
「ゼンたんをよくもぉ……」
この震えてる声はレエナか? ダメだ目が開かない。
「お前もフェアリーにしては随分と高い魔力を秘めてやがるな。興味はあるがお前らはラアダルーア神族の産物だったか。だったら生かしておくわけにはいかねえか」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
さっきから脈打つ音が聞こえるんだが……しかも、目の前で鳴ってる感覚がする。
ドクン……ドクン…………ド…………。
「ゼン! あぁ……そんな……ゼン!! ゼェェン!?」
俺の意識がまさに閉じようとした時だった。
脈打つ音が聞こえなくなったと同時に俺の目が開いたんだ。
あれ……意識がはっきりしてる。
{ゼン←【神喰モード】を発動した}
ムクッと起き上がり、立ち上がった。
体が勝手に動いてるんだよ。
【神喰モード】を発動した?
直ぐ近くのリラと目が合うと、次にレエナ、そしてリューエルを見る。
「どう言う事だ……お前は心臓を貫かれて瀕死状態だったはず。なのに何で立ち上がれるんだよ」
俺もまったくお前と同意見だよ。
心臓が止まったみたいだけど、俺は立ち上がってる。
「ゼン……? 大丈……夫……?」
「ゼンたん、なんか様子が変なのです」
分かってる。
そう言えばさっきはめちゃくちゃ体が痛かったのに今は痛みが無いんだよ。俺もしかしてゾンビになった!?
さっきの【神喰モード】と関係あるのか?
「天使…………くくく。なんの階位もないただの雑魚か」
「なに!?」
「え!?」
「ぜ、ぜぜ、ゼンたん……どうしちゃったのですか!? 声が……」
か、勝手に喋ったぞ俺!!!?
今喋ったの間違いなく俺……だよな? でも俺の声じゃないような……随分低かったな。
え? 俺、もしかして誰かに憑依したのか? いやそれはないか。
違う逆か! 誰かに憑依されたのか!?
「この不気味な波動……なんなんだお前は!?」
「ゼンが言ったと思うけど? 〝天使達が恐れてるものだ〟ってね」
「ふざけるな! 俺達天使に恐れるものなどない! 人間ごときが調子に乗るなよ!」
「ふ〜ん。僕がなにか、まだ分かんないんだ。君は本能的に感じてるはずだけどね」
その時、視界が急に変わった。
本当に一瞬だった。次に気がついた時にはリューエルが驚いて苦痛に歪んでいく瞬間。
【アーディライズ】とか言うめちゃくちゃ分厚い鎧モードのその鎧の胸の部分を素手で割って解除させたんだよ。
俺がやったのか? マジでこれ何かに憑依されてる!?
「な……なにぃ……!?」
ブチィ! ベキバキバキ……ブチィィィ!
「あがぁぁぁぁ!!」
「翼は天使にとって凄く重要なものだよね。翼の数が増えれば増える程、より多くのアーディルを使い熟せる。つまり、これで力が大幅に減っちゃった」
翼を……毟り取りやがった……。
お、おい……ちょっといくらなんでもやりすぎなんじゃないか。
「やりすぎ? 何言ってるのゼン。こいつは君達人間の敵なんだよ? 放っておいたら人間を殺してアーディルを奪い取るよ? いいの?」
「ゼ、ゼン? あんたどうしちゃったのよ……」
俺が聞きたいですよリラちゃん。
ほんと、俺どうしちゃったの?
「とてつもなく邪悪な波動……レエナの魔導力を遥かに超えてるのです」
「僕は神喰だよ。そろそろ気づけよバーカ」
「か、かか、かみぐらいだとぉぉ!?」
リューエルの発狂音が洞窟内に反響する。
確かに神を喰らう者ってヤバそうなアビリティだとは思ってたけど、そんなに驚く?
「…………はは、ははは! あの伝説の神喰? お前が? そんな事がある訳がない! 嘘つきめが! この俺は騙されんぞ!」
「嘘? ならもう片方の翼も折っちゃおっか?」
「ぐぅ……! こ、こんなガキが神喰な訳がない!! お前はただの人間!! 家畜なんだよぉぉぉぉ〜!!」
ドォォォン!
リューエルのやつ、また【アーディライズ】ってのを使ったな。
翼が片方しか無いからだと思うが、半分ぐらいは生身のまま。
その表情は完全に冷静さを失ってて、ほんと狂気だよ。
大剣に稲妻を纏わせ、突進して来るリューエル。
ん? なんか、やけにスロー過ぎないか?
「消えろぉぉぉ!! ウォーライトブリッツ!!」
おもっきり振り下ろして来たけど、ふざけてるのかってツッコミ入れたくなるぐらい、鼻くそほじりながらでも簡単に回避出来るぞ。
あら? 神喰モードの俺は受け止めるみたいだな。
パシ。
「な……ぬぁんだとぉぉぉ!?」
ゆ、指2本で受け止めた……。
パキンッ。
そしてそのまま大剣をへし折る。
「そ、そそ……んな……馬鹿な」
「くくく、怖い? あ〜残念。もっと怖がらせたかったけど、そろそろ時間だから君を食べちゃおっと」
バッキィィィィィィィィィーー!!
拳で顔面を殴ったら面白いぐらい吹き飛んで行ったんだが、その時白いリューエルの残像みたいなのが飛び出した。
小さな子供の手で白いリューエルの首を掴んで持ち上げてるんだが、なんだこの白いのは。
「ゼンよく見ててよ。これが、神喰の霊属性破壊スキル【喰らう】さ!」
俺の体から黒い塊が出て来たと思ったら、白いリューエルを覆うぐらいの大きさの巨大な獣の口に!?
ま、まさか本当に食べるのか……!!
ガブリ。
食べたぁぁぁぁぁ!!?
キューーーーーン。
そして小さい黒い塊になって俺の体に入った。
{ゼン←Bp10}
あ! ずっと謎だったBpが10に増えた!
リューエルの魂を食べたって事なのか? 食べたから増えたのか?
そう考えてた流れで洞窟の端の壁まで吹っ飛んで行ったリューエルに目を向けると、姿はなく灰と化していたんだ。
やっぱりあれは魂だったんだな。
「さて……と」
ん?
「ゼン? ……あんたなの?」
「天使は人間の敵。君も食べちゃお」
「リラたん! 逃げ」
お、おい! リラは仲間だぞ!?
やめろ!! ダメだ……体が勝手に……!!
「くくく、怖い?」
こいつ……リラの前に。
やめろ、リラは天使だけど仲間なんだよ!!
「あぁ……あぁ」
リラ! やばい、腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
動けなさそうだ……くそ!
おぉぉぉい! リラに手を出すなよ!!
「……くくく、あはははははは! 冗談だよリラ」
ドサ。
{ゼン←【神喰モード】を解除した}
∟{Hp0→1}
ん……あれ。
俺、何で倒れてるの?
「ゼン……? ゼン!? ゼンなの!?」
「リ……ラ……?」
「いつものゼンたんなのですぅ! 良かったのですぅ!」
気がついたら俺は、リラとレエナに抱きつかれていた。
「う……うほ……ぉ。や……わ……ら……」
そしてぇ〜よいにほいがしゅるるぅぅ♪
「もう……こんな時に何言ってんのよ。バカ、ヘンタイ」
なんだよ、いつもみたくギャンギャンつっこんでコイヨー。
まあ、と言うわけで。
神喰……俺の中の、もう1人の俺が目覚めた日であった。