あなたはしにました
あれ? ここはどこだ?
何もない果てしなく続く真っ白な空間の中にぽつんと俺だけがいる。
え、なに? なんなの? もしかして夢か? 夢なのか?
おい……だとしたらつまらなすぎるぞ……。もっと可愛い女の子に囲まれてあんな事やこんな事出来る夢を見せろ!
って、うおぉい! いつまで真っ白なんだよ! だったら早く目覚めろよ俺! 何にもない空間だが、とりあえず空に向かって叫んでみた。
「迷える魂よ、貴方は死にました」
「あぇぇ!?」
「天霧 全、突然で混乱していると思いますが、さあ、死を受け入れて下さい。そして貴方の人生を振り返りましょう」
び、、びっくりした……いきなり足だけが見えたと思ったら体、顔の順に姿が現れたんだ。お、女キタァァ!
綺麗な金髪巻き巻きツインテに、透けそうなぐらい薄い羽衣から伸びるシミ一つない真っ白で細い腕。そしてくりんくりんの碧眼。俺の大好物ちゃんじゃないかぁ〜♪
背中にはバサバサと翼が……まるで天使だ。
ご、くん……。
よ、よっしゃ! 可愛い子を願ったら本当に天使の様な可愛い子が出て来たぞ!
どうやらこれって自由に出来る夢みたいだ!
そんじゃ遠慮なく……まずは……。
「はあ? バカ! ヘンタイ! 脱ぐわけないでしょエロガッパ! あたしの話聞いてなかったの?」
「え……?」
さっきまで優しさと愛に満ち溢れた雰囲気が一変して口の悪いJKに……と言うか、もしかして心読まれ……た?
「あんた死んだのよ。天霧 全」
「な、なんで、、俺の名前を……しかも、フルネームで……」
「知ってるに決まってるじゃない。あんた担当の天使なんだもん」
あらやっぱりあなた天使……。
ま、まあ確かにその様なお姿をなされてますね。
そして彼女の合図と共に、何処からともなく両手で抱えなきゃいけないぐらい大きな辞書みたいな分厚い本をパッと出して、何かを調べ出した。
「え……あ? え? え? 俺死んだんすか!?」
って聞いたんだけど、な、なんか睨まれてる?
暫く沈黙の後、天使ちゃんが口を開いた。
「突然の死は記憶が無くなる人間が多いから」
凄く冷めた言い方。やっぱ俺のエロ妄想が原因なんだろうか。
突然の死……俺突然死んだんだ。まじか。
「天霧 全。22歳。性格は楽観的でドスケベ。小学4年から何かと仮病を使って休む。(主にゲームの為)」
かっこ……。そこまで分かるのか。
な、なんか……この後聞くのが怖くなってきたんだが。
「中学2年で初めて親友と呼べる友人が出来るが、絶対に守らなきゃいけなかった秘密をみんなにバラして絶好される。それがキッカケで中学時代は周りと深い仲にはなれなかった。(尚、本人の楽観的思考により、イジメをじゃれ合い程度にしか思わなかった為、精神的なダメージは皆無)」
またカッコゥ!!
と言うかこの天使ちゃん、今凄い事言ったよ?
え? 俺って中学時代イジメられてたの?
腹痛くてトイレにこもってる時、ドアをガンガン蹴られたり、水の入ったバケツがバケツごと降って来たり、弁当が食べ荒らされてたり、他にも色々あったが、あれはイジメだったのか……。
じゃあ俺って悲劇の少年だったんだー!
「んとに、あんたポジティブね……」
目線を再び本へと戻した天使ちゃんは高校時代の話に。
授業中にエロ動画を観てる事が先生にバレたり、女子生徒のスカートの中を覗こうとして不審に階段下で待っていたりとか……。
保健室の新人で若い先生に手足が痺れて全く動かせなくなったと嘘をついて一日中看病してもらった事まで……。
その本に俺の全てが!?
「お得意の仮病を使って、自分で立てるのに先生に手伝ってもらった時、あんたドサクサに紛れて先生のおっぱい触ったでしょ……ほんとに最低」
はい。当然それもご存じでしたか。
天使ちゃんがパチンと指を鳴らすと空中にモニターがパッと出て来て画面にその場面が映る。
まるで万引き犯が監視カメラで犯行に及んだ事実を確認する為に、1つずつ俺の黒歴史が紐解かれていく。
そして天使ちゃんは何の躊躇もなく暴露して下さる。
顔が燃えておるよ……黒焦げで消し炭になりそうだよパトラッシュ。
「最低最悪でドスケベでどうしようもないゲスな人生を送ってきたあんたが、死に際でたった一つだけ良い行いをしたの。これはあたしも認めたげる」
パチンッ。
モニターには横断歩道が映ってるんだが、ここって俺がバイトに行く時によく通る道だわ。
そうだ思い出した! この日確か朝のバイトが入っててサボろうとしてその言い訳を考える為にちょっと外に出たんだ。腹も減ってたしコンビニでも行こうかなと。
そんで、途中にあるこの横断歩道を赤信号で渡ろうとするお婆ちゃんを見つけたんだよ。
まだその時は車は通って無かったけど、通り過ぎる時に一応「お婆ちゃん危ないよー」って注意したんだよな。
でもそこに猛スピードでタクシーが突っ込んで来た。で、その突っ込んで来た映像が流れる。
そうか、俺はこのお婆ちゃんを庇って身代わりになったんだ。
「まあ、あんたが助けなくてもこのお婆ちゃんは助かったんだけどね」
「……………………………………はい?」
今なんと仰った?
「車はギリギリでお婆ちゃんをかわして、行っちゃうハズだったのよ。間一髪って感じにね」
「え……とぉ……。と言う事は……これって」
「そ、無駄。ほんっっっとぉ〜に無駄。超絶な無駄死に」
ちょ、超絶な、むだ……じに……。
「もっと言うと、あんたの死は予定してなかったから天界側としても大迷惑なのよ! ぐすん……ここんとこ連勤でやっとの公休日だったのにぃ! あんたのせいで振替しなきゃなんないんだから! バカ! ヘンタイ!」
今何かがグサっと刺さった気がしたんですケド……。
死ぬ前も必要とされない人生で、そして死んでからも迷惑って言われる俺って……。
規格Guyってやつですかい? 天使ちゃん!!
「全然面白くないっ! それとさっきから天使ちゃん天使ちゃんって、あたし、リラフィエルって名前があるんだけど!」
「おぉー⭐︎ リラフィエルちゃん♪」
お名前教えてくれたぁぁ! う〜んまさに天使なネームだねぇ⭐︎
って事はオイラとお友達にぃ!?
ぐふふ……怒った顔もかぁいいですねぇぇ⭐︎
「勘違いしないで! あんたみたいな超絶ドスケベ野郎とは天地がひっくり返っても仲良くしないから!」
大きな溜め息を吐いた後、「とは言え」と話を続ける。
「お婆ちゃんを助けようとした、あの時のあんたの気持ちは誇っても良いと思うわ。と言う事で! 徳点を発表します!」
「と……得点?」
「天霧 全、貴方の徳点は2点。転生してやり直して来い!」
に、2点……。
「人の命を救ったのに!? たったの2点しかもらえないの!?」
「それまでの行いが最低なの。−492点。マイナスだったのよ」
俺……そんな悪い事した?
「バイト先で事務所に置いてある豚の貯金箱を盗んだり、マッチングアプリでやっと1人だけ会ってくれる女性が現れたのに、実際待ち合わせに行かず遠くから好みかどうかチェックして、好みじゃないからって何も言わずに帰ったり。1つ1つのエピソードは大した事ないんだけど、こんなのがまだまだあるから。全部言いましょうか?」
「いえ!! な、……なっとくしました」
「こんなゴミみたいな徳で天界にいけるかっつーの」
「あ、あの……リラフィエルちゃん、さらに口が悪くなったね」
「誰のせいよ! バカ! ヘンタイ!」
うぅ〜って怒りながら涙ぐむ顔も可愛い過ぎるんだが。
って、ふざけてる場合じゃない雰囲気が漂って来たな。
「そう言う事で天霧 全、あんたは転生して次の人生で良い行いを心がけて徳を積みなさい」
「ぜ、善処します」
すると景色がガラッと変わって市役所のようなフロアに。
いつの間にか机を挟んで椅子に座ってたんだ。
忙殺的に事務処理を熟す彼女の手からパラッと紙が1枚落ちる。
「あ、落ち……」
言おうとしたんだが、何も話しかけるなオーラが凄過ぎる……。
「メルティシアか……地球出身のあんたがメルティシアでやって行くのは超絶に過酷過ぎる。きっと秒で死ぬわね。また死なれたらそれこそあたしの休暇が本当に無くなっちゃう……もう少しマイナーな次元で探そう……っと」
雰囲気的にどうやら俺は天国には行けないみたいだ。
転生か……。と言えば〝勇者転生〟って有名な漫画があったな。あの漫画の主人公も異世界に勇者として召喚されて世界を救うって話だったはず。
え!? あの話ってノンフィクションだったのか!?
じゃあもしかして俺も!? まさか漫画の様にチート能力をもらって異世界で最強になれるのか!? なのか!?
これは来てるのか!? 地球じゃパッとしない人生だった俺が、異世界で!? うおぉぉぉぉー!!!!!
「も〜うるさい! 集中できな……あ、、、」
ん? あら? 俺の体が光り始めたぞ。
「あれ? あれれ!? み、ミスっちゃった……」
「え?」
「ま、間違ってメルティシアに転生登録したままで、実行プロセスに移しちゃったぁ〜!?」
「メルティシア……ってめちゃくちゃ過酷だって仰ったあの?」
「はい……あのメルティシアです……」
え、ちょっとリラフィエルちゃん? どうしたの土下座なんかして……。
物凄く引き攣った顔を見せながら何度も土下座してるんだが。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いやぁ……そんなに謝られると本当に深刻な問題だと思っちゃうからさ……あはは……」
「深刻なの! 超絶深刻です! あぁ〜もうどうしよう……」
「え……」
「だってだってあたしってまだ見習い天使だも〜ん! 予定外の死と予定外の転生の処理なんて経験してないんだも〜ん!」
「見習いだったのかリラフィエルちゃん……」
「ダメだぁ……もう時間がない〜! こうなったら仕方がない! 天霧 全! 死なずに待ってなさい!」
と言う言葉を最後に、俺の視界は眩しい光で埋め尽くされた。
目を閉じているはずなのに何なんだこの眩しいのは。
その眩しさが落ち着いて来ると俺は別世界にいたのだった。