バレました……
「ねぇルーク、本当にお店の手伝いするの?」
「もちろんだ。家にも泊めてもらってタダ飯食らいなど申し訳ないからな。それにレナは俺の呪いも解いてくれてるんだから」
「別に気にしなくていいのに……それにその姿じゃ目立っちゃうよ?」
「これを被っていれば大丈夫だろう?」
ルークの耳と尻尾はローゼンタール国ではとても目立つ。尻尾は緩いズボンを履けばなんとか隠せるが、耳は帽子などを被らなくては隠せない。
しかし店内で帽子を被るのも変なので、バンダナで前髪をあげて一緒に耳も隠してる状態だ。
だが、ルークはまごうことなき美少年なのだ。
これだけはっきり美しい顔が見えると、別の問題も予想できて、レナは小さくため息をついた。
そしてそんなレナの嫌な予想は見事的中した。
今現在店は女性客で賑わっている。
ただ賑わっているだけならとてもありがたいことだ。
しかし残念ながらただ賑わっているだけではなかった。
「ねぇ、ルークくん! この花とこの花どちらが私に似合うかしら?」
「ちょっと次は私の番でしょう? 引っ込んでなさいよ!!」
「あんたもよ! さっき私を押し退けて前に来たでしょう? ちゃんと順番に並びなさいよ!!」
「あっ! ルークくん、この花が欲しいのだけど……」
「ちょっとあんた抜け駆けしてんじゃないわよ!!」
女性客たちの白熱したバトルにレナは顔を引き攣らせながら、チラリとルークを見る。
ルークがこの姿になり店に立つようになったのは1週間前からだ。
来店したお客さんから次々と噂が広がり、どうやら一気に町中に噂が広まったようだ。
この小さな町に住むほとんどの女性が来ているのではないかというほど、店の中はごった返している。
(確かにあの見た目であの態度じゃね……)
これだけ壮絶なバトルが繰り広げられているというのにルークは全く気にした様子もなく、店番を続けている。
「きゃっあ!!」
ついに押し合いが始まり、一人の女性客が倒れそうになったところで、ルークがさっと手を出し受け止める。
「大丈夫ですか?」
まだ幼さの残る少年で華奢な体であるのに、獣人族であるためか力が強いのだ。
綺麗な見た目で紳士的な仕草、そして優しげに微笑む姿に一部の女性客たちから熱のこもったため息が漏れる。
受け止めてもらった女性も真っ赤に顔を染めながら、なんとか頷くと、潤んだ瞳でルークを見つめている。
謎に色気のある美少年に店中の女性たちが熱視線を向けるなか、レナだけはジト目でルークを見つめる。
(あんな風に愛想を振り撒くから、こんなことになるのよ……)
レナと二人の時とは全く違う態度に、レナは大きなため息をついた。
「ルーク、やっぱり店に出るのはやめてちょうだい」
午前の営業をなんとか終えて、昼ごはんを作りながら、レナがため息をつく。
「でも最近売り上げが伸びているって言ってたじゃないか」
「あのね……このままじゃ怪我人が出ちゃうわよ」
レナの呆れたような視線にルークは苦笑する。
ルーク自身も自分の見た目の良さをしっかり理解しているようだ。
その時バタンとドアが開き、大きな声が響く。
「レナ! レナー!!」
「レナちゃん? レナちゃーん!!」
「叔父様と叔母様だわ」
レナが急いで玄関に向かうと、焦った表情の二人がレナにずいっと詰め寄った。
「レナ、町で変な噂を聞いたんだ」
「変な噂?」
「ええ。レナちゃんの店に男の子の店員がいて、その子が住み込みで働いているって……レナちゃんが拾ってきたって本当なの?」
「えっと……それは〜……」
何かあれば親代わりの二人に連絡するように常々言われていたが、この話は黙っていたのだ。
子虎が少年に姿を変えたと事実を言おうものなら、レナは疲れているのだと無理にでも二人の屋敷に連れて行っただろう。
だからと言って知り合いの少年を預かることになったと言えば、絶対にどこの誰かという詮索が始まる。他の人には遠い親戚と言えば騙せるが、本当の親戚である二人には通じない。
レナが答えあぐねていると、ルークがひょっこり玄関に現れた。
「な、なんてこと……」
「ああ……やっぱり……」
二人は顔を見合わせると、真剣な表情でレナを諭す。
「レナ、彼は子虎や動物ではないんだよ? 人間を拾ってきてはダメだよ。彼にもきっとご家族がいるはずだよ?」
「そうよレナちゃん。いくら子虎がいなくなって寂しかろうと、たとえどんなに可愛らしい子であっても人を連れてきてはいけないわ。元いたところに戻してらっしゃい。きっと彼の家族も心配してるわ」
まるでレナが無理矢理連れ帰ったような物言いにレナはヒクヒクと頬を引き攣らせる。
「大丈夫今ならまだ間に合う!」
「ええ。まだ間に合うわ!!」
まるで犯罪に手を染めようとしてる人間を止めるかのような二人の言葉にレナは頭が痛くなり、大きく息を吐き出した。
「待って叔父様、叔母様。別に私、彼を無理矢理連れてきたわけではないわ」
「じゃあ彼はいったいどうしてここに? やましいところが無いなら何故すぐ私たちに話してくれなかったんだい?」
「そ、それは……」
レナがどう答えたものかとチラリとルークを見つめると、ルークが二人の目の前へと進み出る。
「レナの叔父様と叔母様ですよね? あの……驚かずにこれを見ていただけますか?」
ルークは頭に巻いていたバンダナを外した。
するとピンと立った丸い耳がピクっと小さく動く。
二人は驚いたように目を見開くと、じっとルークを見つめる。
「じゅ、獣人族……」
「はい。俺は獣人族なんです」
ローゼンタールの人にとって獣人族というのは得体の知れない種族という印象が強い。さらには獣の特性があるとなれば凶暴であったり乱暴であったり危険だというを偏見を持つ人もいる。
「叔父様、叔母様、ルークは危険では無いし、とってもいい子よ!」
レナが庇うようにルークの前に出るが、ルークはレナの肩にそっと手を置くと、大丈夫だというように微笑んだ。
そして二人に向かって頭を下げた。
「すみません。実は怪我をしていたところをレナが助けてくれたんです。そのままレナの優しさに甘えて留まり続けてしまいました。お二人にもレナにもこれ以上迷惑はかけられません。すぐ出て行きます」
「ちょっと待って、ルーク! だってあなた……」
ルークの呪いはまだ完璧に解けていない。
呪いを解けるのはレナの光属性の魔力だけだと言っていたはずだ。
レナがぎゅっとルークの腕を掴むが、ルークはその手を優しくそっと外す。
「ありがとう。レナに甘え過ぎた」
レナが獣人族に対して偏見がなかったから、ルーク自身も忘れていたのだ。
人間が獣人族に対して持つ印象を……二人の反応でそれを思い出した。
もしレナの店に獣人族がいるとなれば、どんな噂を立てられるかわからない。
「今まで本当にありがとう。無事戻れたら必ず礼に来る」
ルークの無理矢理貼り付けたような笑みに、レナはぎゅっと手を握り込むと、決意したように二人のほうを見つめた。
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