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び、美少年!?

「ルーク!! 朝ごはんできたよ!」


 いつもなら呼ぶとすぐに現れるルークがなかなかやって来ない。

 レナは首を傾げながら、いつもルークが寝床として使っているソファーを覗き込む。


「え?…………」


 その光景にしばらく固まったレナは、人差し指をすっと立てると、ツンツンと突いてみた。


「ん…………」



(こ、この子誰!? 鍵もかけていたのにどうやって中に入ってきたの!?)


 いつもルークが寝ているはずのソファーには、見知らぬ少年が寝息を立てていた。

 レナは混乱しながらも、穏やかに眠っている少年を凝視する。


(でもこの子よく見ると……)


 窓から入る陽の光を美しい白銀の髪がキラキラと反射している。伏せた目を囲む長いまつ毛、そしてそれぞれのパーツはとても綺麗に整い、配置まで完璧だ。その顔立ちはまるで天使のように愛らしい。興奮のあまりレナから本音が漏れ出る。


「うっ!!……か、可愛い!!」


 思いの外大きな声に、少年がビクッと体を揺らす。


「レ、レナ……?」


 眠たそうに目を擦りながら起き上がった少年にレナはギョッとして目を見開いた。


 顔の愛らしさに気を取られ気づかなかったが、少年の頭には人間の耳とは違う獣のような耳がついている。さらにお尻の方から長い尻尾が垂れていた。


(あれ? 待って……この耳にこの尻尾……それに聞き馴染みのある声……も、もしかして……)



「あ、あなたもしかして……ルークなの?」


「何を言っているんだ? ふぁー……レナの家にいる子虎なんて俺だけだろ?」


 まだ寝ぼけているような声で、あくびをしながら答えたルークはもう一度目を擦り、はっとする。


「えっ……手、手だ!! 虎の手じゃない!! 俺の手だ!! 戻った!? 戻ったのか!?」


 一気に覚醒したルークは興奮して、全身を確認する。そしてレナに向かってキラキラと輝く目を向ける。


「俺人間のような体に戻ってるよな?」


「えっ? ええ……そうね……」


 目の前の少年がルークであるのだという事実にレナは驚きながらなんとか相槌(あいづち)を打つ。


 獣人族は人間と似たような見た目に獣の特徴の耳や尻尾があることは噂には聞いていたが、こうして目の前の少年があの子虎のルークだと思うと、とても不思議な感覚だ。


 だがしかし、確かに綺麗な子虎だったが、ルークがここまで見目麗しい美少年だとは夢にも思わなかった。

 興奮で若干頬を染めながら満面の笑みを浮かべる美少年のなんと愛らしいことか。レナはその様子にほっこりと笑みを浮かべる。


(本当に可愛らしいわ……それに興奮しているからかしら? ピンと立ってピクピク動いている耳もかわいい!! これだけ可愛いと男の子の服も女の子の服もなんでも似合いそう!!)


 ルークの着替えを考えて、一人心の中で身悶えていると、ばっとルークがレナを見つめる。

 その真っ直ぐな瞳に慌てたようにレナが背筋を伸ばす。


「べ、別に変なことは考えてないわよ!」


 レナの慌てた様子にルークは怪訝(けげん)な顔になる。


「変なことってなんだよ? それよりレナ鏡を見せてくれないか? しっかり確認したいんだ!」


「ええ、もちろんいいわよ。ちょっと待ってね」



 レナが用意した鏡で自身を確認したルークは一瞬でビシッと固まった。

 先ほどまであれほど嬉しそうに興奮していたというのに、今は(しお)れたように元気を無くし、項垂れている。そんなルークにレナは(うかが)うように声をかける。


「えっと……あの……ルーク? 大丈夫?」


「違う…………」


「え? 違うって?」


「まだ戻ってない!!」


 レナは獣人族を見たのは初めてだが、噂に聞いていたとおりの見た目だと思った。

 しかしルークによると、どうやら本来の姿ではないらしい。


「戻ってないってどういうこと? 本当のルークとどう違うの?」


「だから、本当の俺は⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎……」


「え? なんて?」


 まただ。

 また音を無理やりかき消されたような違和感にレナが首を傾げる。

 前回もそうだったがこの音が聞き取れない時、とても嫌なゾッとするような気配がするのだ。



「くそっ!! また呪いだ!」


「呪い?」


 ルークははっと驚いたようにレナを見つめる。


「き、聞こえたのか? この前は伝わらなかったのに……じゃあこれは? 俺は⚫︎⚫︎に呪いをかけられた」


「えっと……ごめんなさい。一部聞き取れないわ」


「そうか……だが、わかったぞ」


「わかったって何が?」


「俺の姿が変わると、呪いも解けてきているってことだ。呪いが解けるにつれて呪いによって縛られていた言葉も話せるようになったんだ」


 呪いなど言い伝えや幻想だと思っていたが、子虎から人型に姿が変わったり、最初はにゃーとしか鳴けなかったルークが言葉を話せるようになったのを見ていると呪いは実際にあるのだと確信する。



「だがやはりレナの力はすごいな……まだ力を使いこなせていないというのに、あの強力な呪いを少しずつ解いてしまうのだから」


 純粋に褒めてくれているのはわかるが、こうもはっきりと力を使いこなせていないと断言されると、毎日頑張っている身としては悲しくなる。


「あははは……できるだけ早く力を使いこなせるように頑張るわ……」


「ああ! 一緒に頑張ろう! レナが力をうまく扱えるようになれば、俺の呪いが完全に解けるのも時間の問題だ」


 先程までと真逆で、元気なルークと落ち込んだレナ

は朝食を取るためテーブルについた。

 そしてふと、レナはルークを見つめる。


(そういえばルークの本当の姿ってどんな姿なのかしら?)


 レナの準備した食事を美味しそうに食べる可愛らしいルークの表情に、ふふっとレナは笑みを浮かべた。



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