失敗は成功のもと?
「嘘……で、でも私は誰かを癒したりしたことなんてないわよ?」
光属性の魔法と聞いて一番に思いつくのは癒しの魔法だ。
「俺がさっきこの時期に収穫できない野菜があると言っただろう? おそらくそれは癒しの効果によるものだ。君は水に光属性の魔法を無意識のうちに混ぜ込むことで植物が枯れるのを防ぎ、異常な速度で成長させていたのだろう」
「そ、そんなことができるものなの?」
「俺も驚いたが……先ほどの光景を見るとそういうことなのだろう。きっと魔法を訓練すれば人を癒すこともできるはずだ」
まさか自分にそんな力があるとはと驚きながら、レナはじっと手を見つめる。
ルークは考え込むように俯くと、小さく呟いた。
「しかし好都合だな。レナが光属性の魔法を完璧に習得できれば俺も……」
ルークはレナの足元に座り込み、まだ不思議そうに自分の手を見つめているレナに向かって呼びかける。
「レナ! 俺と魔法の訓練をしてみないか?」
「訓練? ルークは光属性の魔法が使えるの?」
「いや、光属性の魔法は使えないが、獣人族には番の魔法という特有の魔法があるんだ。魔力の流し方なら教えることができる」
「そうなの? もし光属性の魔法が使えたら、怪我した人を治したりもできるんだよね?」
「ああ。そうだな」
(光属性の魔法を使いこなせたら、叔父様や叔母様、そしてこの町の人がもし怪我をしても私が助けられるってことよね……お父さんとお母さんが亡くなってからたくさんの人にお世話になってきたもの。私にそんな力があるなら……)
「ルーク、お願い! 私に魔法の扱い方を教えてちょうだい!」
レナのやる気に満ちた目にルークはニッと口角を上げると、力強く頷いた。
「わかった! お願いされたからにはしっかり教える。コツを掴めればあとは慣れだ。頑張ろう!」
「魔法って意外と簡単なんだね!!…………なんて言えると思っていた自分が恥ずかしい……」
レナは机に突っ伏し、ぐったりとため息をこぼす。
「レ、レナ、元気を出せ! まだ始めて1週間も経っていないじゃないか!」
ルークの励ましに、レナは机に頭を乗せたまま、ルークのほうに視線を向ける。
「でも……ジョウロと水がないと力を出せないなんて……しかもあんな大惨事まで……」
「あ、あれはまぁ……怪我人も出なかったし、いいじゃないか!」
ルークが慌ててフォローを入れるが、レナはしょんぼりと大きなため息をついた。
この数日、レナはルークに魔法を学び、魔力の流れやその力の放出を習っていた。
魔力の流れを掴むことはできたが、どうしても放出がうまくできなかった。手先に力を溜めても、そのまま放出されずに消えてしまうのだ。
それならばといつものようにジョウロを持つと、ジョウロに入った水には力を流すことができた。
しかしジョウロを手放すとそれもできなくなってしまう。
そうして何度も練習しているうちにジョウロの水に魔力を溶かすことはメキメキと上達した。仕方がなくジョウロで練習を続けていたレナだが、思っていた以上に水に溶け出してしまった光属性の魔法により、ついに昨日事件が起こった。
感覚を掴もうと一人で練習しながら、ついでに庭の植物に水を撒いている時だった。
レナとしては今までと同じように水を撒いていたのだが、今まで以上に力が溶けた水は植物の成長を異常なまでに促した。
レナは魔力操作に夢中になっていて、メキメキと植物が異常な成長をとげていることに気付けず、外からの悲鳴を聞いてやっと大変なことになっていることに気づいた。
「え!? 何? 今の声?」
「た、助けてくれーーー!!」
レナがすぐさま声の方へと向かうと、庭の外を歩いていた人に大きく成長した蔦が巻きつき、あろうことか逆さ吊りにするという大事件が起きていた。
小さな町ではすぐに噂は広がるもので、レナの庭の植物は前の通りを歩く人を捕食するなどというホラーな話が出回り、今日は朝から植物をどうにかして欲しいという町の人から対応に追われていた。
「まぁ失敗することもある。でもジョウロを使った魔力操作はだいぶ上達したじゃないか! 植物にあの量の力を与えるのは危険だが、それでもあの魔力量があれば怪我人を癒すこともできるはずだぞ」
「それはそうかもだけど……ジョウロの水にしか魔力を放出できないんじゃ、人を癒すことなんてできないじゃない」
「ジョウロの水ごと怪我人にかければ傷は治ると思うぞ!」
「怪我人に水を被せるなんて無体なことできないわよ! どう考えても怪我人に水ぶち撒けるなんてやばい人じゃない! 即刻その場から連れ出されるわ」
植物ホラーの騒ぎが広まった状態で、そんなことをすれば間違いなく衛兵に突き出されるだろう。
「まぁ……その内うまく放出できるようになるだろう。魔力の流れの操作はだいぶ上達してきてるんだ」
ルークの優しい励ましに、レナは小さく頷く。
(こうしていても仕方ないもの……とりあえず練習あるのみね)
レナは気持ちを切り替えて、夕食を作るために立ち上がった。