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まさかの魔法使い

「白虎獣人? あなたは獣人族なの? でも獣人族は人間に近い見た目をしているのでしょう? あなたは虎にしか見えないけど……」


「それにはまぁ……いろいろ事情があって……初めから説明するとだな。俺は⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎……」


「え? なんて?」


「だから俺は⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎で⚫︎⚫︎に⚫︎⚫︎⚫︎されて」


「だから何? なんて言っているのかわからないわ」


「どういうことだ? 俺の言葉がわかるのではないのか?」


「ええ。今の言葉はわかったけど、さっきのあなたが話した言葉は聞き取れなかったわ」


 不思議なことにそれまで普通に話していたのに、たまにブチブチと途切れるように聞こえなくなるのだ。

 レナが困ったように首を傾げると、ルークは考え込むように眉間に皺を寄せる。


「これも⚫︎⚫︎か……全てを話すことはできないのか……」


 ルークは小声で呟くと、諦めたようにため息を吐き、レナを見つめる。


「とにかく俺のことはルークと呼んでくれ。訳あってこんな姿をしているが、獣人族で間違いない。レナ、図々しい願いではあるのだが、もう少しここにおいてくれないか? このままでは帰れないんだ。もちろん俺が獣王国に無事帰れたら礼はする!」


 ルークの必死な様子にレナにっこり微笑む。


「別にお礼なんていいわよ! 何か事情があるのでしょう?」


 両親が亡くなってからレナは一人でこの家に住んでいたが、子虎が家にいると思うと、どこか一人じゃないとほっとする部分があった。

 レナとしても、もう少し一緒に過ごしたいと思っていたのだ。


 レナの言葉にルークは深々と頭を下げる。

 虎が綺麗に頭を下げている光景に違和感を感じつつも、もうしばらく一緒にいられるという安心感からレナはふっと小さく笑う。


「もういいから、頭を上げて食事の続きをしましょう! ルークはおかわりはいらない?」


「ありがとう……もう大丈夫だ」


 ほっとしたようなルークの仕草に、レナは笑顔で頷き食事を再開しようとしたところで、ルークがふと思い出したように尋ねた。



「そういえば……聞きたいことがあるのだが……レナ、君はもしかして光属性の魔法が使えるのか?」


「光属性の魔法? まさか! 私は魔法なんて使えないわ。ローゼンタールではほとんどの人が魔法なんて使えないわよ」



 多くの魔法使いを保有している国もあるが、ローゼンタールでは魔法使いは滅多にいない。

 レナも今まで魔法使いに会ったこともなければ、魔法を使った記憶もない。珍しい光属性の魔法など使えるわけがない。


 レナの笑い飛ばすような口調にルークは不思議そうに自分の体を見回す。



「しかしそれならばなぜ俺は言葉を取り戻せたのだ? ここに来てからみるみる体調も良くなったし、話せるようにもなった。それ以外に考えられないと思っていたんだが……」


 ルークは首を傾げ、ふと目の前にあるスープの皿を見つめる。


「そういえばレナの料理を食べるほどに回復していた気がするな……ん? レナ、スープに入っている野菜だが、この時期には普通収穫できないものが入っているだろう? あれはどうやって手に入れたんだ?」


「どうやってって……普通に庭で収穫したのよ?」


「まさか夏に収穫したものをずっと置いていたのか? そんなに長持ちするものでもないだろう?」


「いいえ。今日の朝収穫したのよ。それにどれも年中収穫できる野菜よ?」


「年中? いや! そんなわけないだろう。この時期になど収穫できるわけがない」


 噛み合わない二人の会話にレナはすっと立ち上がると庭へと続く扉に手をかける。


「それならその目で見てみる? ルークはまだ庭は見ていなかったわよね?」


 レナが扉を開け庭へと出ると、ルークもレナに続く。

 そして外の光景にルークはポカンと口を開けて、しばらく固まり、目を見開いて呟いた。


「なんだこれは?」


「私が庭で育てている野菜よ。まぁ家庭菜園程度だから、そんなに種類は多くないけどね」


「いや! おかしいだろ!」


「何が?」


 庭には所狭しと食べ頃の野菜がたくさん植っている。どの野菜も大きく、鮮やかな色合いで店で売られている物と遜色ないほど美味しそうに見える。

 しかし問題はそこではなく、この時期には決して収穫できるはずのない野菜まで大きく育っている。


「手前は野菜を育てているんだけど、奥はお花も育てているのよ。ここで育てたお花もお店で売ってるの。全ての種類は流石に育てられないから一部だけだけどね」


 レナの満面の笑みに、ルークは頭が痛いとで言うように一つ深呼吸した。


「レナにとっての常識と俺の常識が噛み合っていないことがよくわかった。しかしどうしてこの気候でこれほど大きく育つんだ? もしかして土が特殊なのか?」


 ルークが不思議そうに鼻先を土に近づけたり、前足でツンツンと土をつつく。

 その様子が可愛らしく、レナはふふっと笑うと、庭の奥からジョウロを持って来た。


「まさかローゼンタールではこれが普通なのか?」


「さぁ? どうかしら? 私にとっては昔から花も野菜も年中収穫できるものだけど……そういえば以前、常連さんにうちの店では年中買える花だけど他の店ではこの時期には売ってないって言われたことがあったわ」


「ということはレナの庭が特殊なのか? 何か他とは違う特殊な養分や土を使っているのか?」


「いいえ。特に特殊な物は使ってないわよ? 養分は普通に町で買って使ってるもの。土は両親が準備したものだからわからないけど……」


「そうか。レナの両親は亡くなっているのだったな?」


「ええ。だから細かいことまではよくわからないわ。でも特殊な土なんて使っていないと思うんだけど」



 レナはジョウロに水をためると、庭全体に撒いていく。


「さぁ、みんな元気に育ってね」


 レナがニコッと笑いながら水を撒くと、周囲がふわりと温かな光に包まれ、今まで小さな実だった野菜が一回り二回り大きくなる。


「お、おい! レナ、待ってくれ! その水だ! 水!」


「水? 水がどうしたの?」


「そのジョウロの中を見せてくれ!!」


 レナが不思議そうにジョウロをルークの前に置くと、ルークが中を覗き込む。


「あれ? 普通の水だな……ということは……」


 ルークがじっとレナを見つめる。


「どうしたの?」


 レナが首を傾げると、ルークはやれやれというように息を吐く。


「本人も自覚なしに光属性の魔法を使っているということか……」


「え? 何?」


「レナ、やはり君は光属性の魔法が使えるんだ」


「え? まさか……だって魔法使いの中でも光属性の魔法使いは希少なのでしょう?」


「そうだな。しかし先ほどの光といい、あの異常な植物の成長速度は間違いない。君は光属性の魔法使いだ」



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