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喋る虎?


「レナちゃん、ありがとう! また来るわね」


「はい、お待ちしてますね! ありがとうございました!」


 レナが店の扉を開けて常連のおばあさんの見送りをすると、その後に子虎もトコトコとレナの隣についてくる。


「あら? あなたもお見送りしてくれるの?」


「ミャー」


 そして見送りの挨拶とばかりにおばあさんに向けて鳴き声をあげる。


「本当に賢い子ね」


 レナとおばあさんは顔を見合わせると、ふふっと笑い合った。




「でも不思議だわ……虎ってあんなに賢いものなのかしら? 本当にこちらの言ってることを理解しているみたいなのよね」


 レナは鍋をかき混ぜながら、ふと呟く。

 午前の営業を終え、昼休憩に入ったレナは料理をしながら例の子虎の行動を思い出し、うーんと唸った。



 レナが子虎を拾った時は大きな傷はないものの、擦り傷だらけで、長時間雨に降られたせいか体温も下がり弱っていた。

 しかしそれも3日ほどで家の中を自由に動き回れるほどに回復し、レナについて回るようになった。

 レナが店に出ている時は看板犬ならぬ看板虎のように店の一角に陣取っている。


 最初は心細く、人の声がする賑やかな場所にいたいからなのかと思っていたのだが、その後の行動にもまた驚かされた。



 常連さんが帰る時は教えてもいないのにレナと同じように扉の前に行ってお見送りをする。


 子連れのお客さんなどはやはり虎が気になるのか、いきなり手を伸ばす子どももいたが、不思議と子どもにはどれだけ乱暴な触りかたをされても唸ることもなく、静かに耐えるのだ。噛みつかないかと、レナがハラハラと見守っていたが全くそんな心配はいらなかった。


 そんなお行儀が良い反面、レナに気があり絡んでくる迷惑な客には唸り声をあげ威嚇(いかく)し、それでもしつこい客には噛み付くことがあった。

 あれだけ子どもに乱暴な触りかたをされてもじっと耐えていたのに、いったいどういう基準なのか……

 しかし、レナが止めに入ると、すんなり言うことを聞いてくれた。

 一度痛い目を見ると迷惑な客も(うな)り出した時点ですぐさま逃げ帰るようになり、今では立派なレナの護衛となっている。


 そんな素晴らしい子虎の活躍(かつやく)にレナの叔父と叔母も最初はすぐに元の場所に戻すように何度も言っていたが、今では二人もすっかり(ほだ)されている。

 もうしばらくは一緒に過ごしても大丈夫だろうと二人もコロッと意見を変えた。



「よし! できた! 虎くーんご飯よ〜」


 鍋からお皿にスープを移し、レナが呼びかけると、すぐに子虎が姿を見せる。


(やっぱり言葉を理解しているとしか思えないわ……)


 子虎が食べやすいよう、レナがお皿を床に置く。

 すると子虎はお行儀よく皿の一歩手前でお座りする。

 これも不思議とレナがどうぞと言うまでいつもじっと待っているのだ。


(本当に野生の虎なのかしら? こんなに賢いんだもの。誰かに飼われていたのかしら?)



「熱いから気をつけて食べてね」


 レナが声をかけると、わかったとでも言うように一鳴きし、ゆっくりとスープを飲みだした。

 こうして可愛らしい動物が食事を楽しんでいるのを見ると、癒される。

 レナはニコッと笑うと、子虎に問いかける。


「美味しい?」


 別に返事があるとは思っていないが、これほど勢いよく食べてくれているのを見ると、ついそう言いたくなるのだ。



「ああ! いつもうまいが、今日もうまいぞ!」


 レナは笑顔のままピシリと固まる。


(え……空耳? もしかして私だいぶ疲れてる?)



「う……しかしスープはうまいがこれはどうにかならないだろうか……俺はにんじんは苦手なんだ。だからもう少し細く切ってくれるといいんだが……」


 そんな具材の文句まで聞こえてきた空耳に、レナの表情が引きつった笑みに変わる。

 しかも言葉で言った通り、子虎はちゃっかり大きな具材のにんじんを残しているのだ。


 先ほどから全く動かないレナの様子に子虎は不思議そうに顔を上げる。


「レナ? どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」


「いや、体調は悪くないけど!」


 頭を抱えながら咄嗟に返事をし、はっとしたように一人と一匹は見つめ合う。

 そして一呼吸置いたあと、互いに目を見開き、叫び合った。


「と、虎がしゃべった!!!!!」

「俺の言葉がわかるのか!?」


 お互いにしばらく見つめ合う。

 しばらくの沈黙のあと、レナは大きく息を吐くと、両手で目を覆う。


「はー……やっぱり私疲れているんだわ……じゃないとこんなことありえないもの」


「ちょっと待ってくれ!! やっと言葉が通じたんだ! 俺の話を聞いてほしい!」


 子虎の必死な呼びかけに、レナは指の隙間からチラリと子虎に目を向ける。

 どこか不安気にレナを見つめる子虎に、レナはさらに大きなため息を吐いた。


「わかったわ……とりあえず一旦話を聞くわ」


 レナの返事に子虎は安心したようにふっと息を吐き出すと、背筋を伸ばして、まっすぐにレナを見つめる。


「それじゃあまずは自己紹介からしよう。俺はルーク・エドワーズ。獣王国から来た白虎獣人だ」



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