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ルークの獣化

 キン!!と剣同士がぶつかる音にレナは恐る恐る目を開いた。

 すると騎士たち数人がレナへと振り下ろされた刀を止めていた。


「みなさん……」


「君は早くルーク様ところへ」


「はい! ありがとうございます!」


 レナは急いでルークに駆け寄る。

 ルークは目を見開いて騎士たちを見つめた。


「まさか全員無傷でここまで辿り着いたのか?」


「まさか。彼らは瀕死の重症を負っていたがレナが治したんだよ」


「その声……まさか……兄さんか?」


 レナの肩にぶら下がるフレディにルークはさらに驚いて目を見開いた。


「いったい何がどうなっているんだ? それじゃあ俺を吹っ飛ばしたあの兄さんは……」


「説明はあと! ルークの傷を治すわね」


 レナは先ほどと同じように力を込めるとルークに向かってまるでジョウロから水を出すよに光をふりかける。すると瞬く間にルークの傷が癒えた。


「驚いた……力を使いこなせるようになったんだな。しかも体の怠さも消えている……」


 ルークが確認するように手足を上げていると、突然険しい表情になり、レナを抱えて飛び退いた。

 レナたちが飛び退くと同時に地面が大きく抉られる。


「お前!! よくも邪魔したな!!」


 憎悪を込めた叫び声にレナはブルっと震えてぎゅっとルークの服を握り込む。

 声の方を振り向くと、真っ黒な長い髪にぬけるような白い肌、そして毒々しいほどに真っ赤な瞳の作り込まれたように完璧な美貌を持つ妖艶な女性がレナを睨みつけていた。


「光属性の魔法使いが一人増えたところでお前たちに勝ち目はない!」


 女性は手から黒いモヤを出し、そのモヤを小さく圧縮していく。


「レイラ様、この場所でその魔法を使われては同士たちまで巻き添えになってしまいます」


 女性の近くにいた魔族が止めにかかるが、女性は手を振り払うとレナに向けにっと不気味な笑みを見せる。


「そんなもの私が知ったことではないわ。あいつを潰すのよ! このレイラ様の邪魔をするならお前でも容赦しないわよ」


 女性の圧に他の魔族は顔を青くして引き下がる。

 どうやらあの女性、レイラが魔族たちを率いている頭のようだ。

 ルークはレナをおろすと、優しく頭を撫でる。


「さっきはありがとう。助かった。でもこれ以上無茶はしないでくれ、兄さんと一緒に安全な場所に隠れていてくれ」


「ルーク、ちょっと待て! 私の体と精神は……」


「それは今の兄さんの姿を見て何となく予想がついた。魔族がその人形に兄さんの精神を呪いで封じたんだろ? そして兄さんの体を操り、獣王国の王族しか扱えない結界を壊している。だから結界で守られているはずの光の木も枯れ出した」


 フレディが頷くとルークが刀を構えなおした。


「それならやっぱりあいつを叩くしかない」


「ルーク、待て! 話はまだ終わってない」


「今はゆっくり話している暇はない、あれを早くどうにかしなければ……」


 こうして話している間にもレイラの圧縮している黒い塊が大きくなっていっている。


「焦るな! このまま突っ込んでもあれはどうにもできないだろ? あの女の力は強大だ」


「だが、あれをどうにかしなければここにいる全員が死ぬことになる!」


 二人の話し合いをレナはオロオロしながら見守る。

 するとフレディがじっとレナを見つめる。


「最後まで私の話を聞け! ルークも気づいているかもしれないが、おそらくレナこそ光の守り手だ」


「え?」


「それは俺も考えたが……だがレナはまだ力を扱いきれていないんだ!」


 レナを置いてけぼりにして進み出した話にレナは焦り出す。


「ちょ、ちょっと待ってください! 光の守り手って前にルークが教えてくれた光の木と世界を守る役目を担う人のことよね? 私そんな大きな力使えないわよ?」


 レナも焦って否定するとフレディがいいやと頭を振る。


「先ほどの騎士たちを一気に癒す力や魔物の動き鈍くする魔法は高等魔法だ。レナはもう十分に力を扱えているんだ。だからルークに試して欲しいことがある」


「試して欲しいことって何ですか?」


「ルークの獣化を手伝ってもらいたい」


「獣化って……一歩間違えれば命を落とすのでしょう?」


 そんな危険なことをして、もし自分に力が足りなければルークに何が起こるかわからない。

 レナは表情を固くして俯いた。


「そうだ。しかし光の守り手の力添えあれば問題なく獣化できるはずだ」


「確かに獣化できれば奴らを倒せるかもしれないが、でも俺の力は……」


 ルークは不安そうにぎゅっと手を握り込む。


「そうだ。ルークの力は歴代最高。同じ王族の私でも足元にも及ばないほどな。それほど白虎獣人として先祖帰りの力が強いんだ。しかし強いということはレナにも負担がかかるかもしれない。だが二人なら大丈夫だと私は信じているんだ」


 レナがルークの命まで預かることになるのだ。レナが悩んでいるとフレディが元気づけるようにレナの手をポンポンと叩く。


「どうせ今獣化できねばどちらかにしても私たちはここで終わりだ。レナならできる!」


 フレディ力強い言葉にレナは小さく頷くと、ルークの手を取った。


「ルーク、うまくできるかわからないけど、私に手伝わせて!」


「いいのか? 体への負担が大きいかもしれないんだぞ?」


「ルークが頑張るなら私も頑張るよ!」


 レナはニコッと笑いかけると、ルークも腹をくくった笑みを浮かべる。


「それじゃあレナ、力を貸してくれ」


 レナは頷くと、目を閉じ、ルークの体へとジョウロへ力を流す時のように力を送り込む。

 ジョウロの時はそこに力が溜まっていくのを感じたが、今はまるで次々魔力が吸い込まれるようにルークの方へと流れていく。


(う……こんなにたくさん力を使ったことないわ……ちゃんとできるかしら……)


 レナがよろけそうになると優しく引き寄せられた。

 その温もりに安堵し、体を預けて力を流し続ける。


「ありがとう、レナ。もう大丈夫だ」


 そう言われて目を開けると、ルークの瞳が金色にひかり、体全体も淡く光輝いている。白銀の美しい髪は腰のあたりまで伸び、整った容姿も相まってその姿は神々しい。


「ルークよね?」


 レナが尋ねると優しい笑みを浮かべて、レナの額にキスを落とす。


「なっ!?」


 レナがびっくりして額を手で覆うとルークは楽しげにニヤッと笑った。この反応は間違いなくルークのものだ。


「レナのおかげで獣化できた。ありがとう。少しそこで見ていてくれ」


 ルークは自信たっぷりに不敵に笑うと、レイラに向かって剣を構えなおした。

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