異変と決意
「レナさん! レナさん!」
ドンドンと扉を叩く音にレナは急いで扉を開ける。
「ギャビンさん!? どうしたんですか? そんなに慌てて」
ギャビンはふっと息を吐くと、中を覗き込む。
「ルーク様はどちらに?」
「ギャビン、朝から騒がしいな」
「ル、ルーク様!! その姿……やっと呪いが解けたのですね!!」
「まだ完璧ではないが…これくらいなら問題ないだろう」
パッと表情を明るくしたギャビンだが、すぐに表情を引き締め、深刻な表情に変わる。
「そうですか。完璧ではないという不安はありますが、ちょうどよかったです。ルーク様、急ぎお伝えしたいことが……」
「あの……立ち話もなんですし、どうぞ中に入ってください」
みんながテーブルにつくと、ルークが改めてギャビンに問いかける。
「それで? 急ぎ伝えたいこととは何だ?」
「光の木が……光の木の一部が枯れて葉を落とし始めたと連絡が入りました……」
「枯れ始めただと? あの光の木が……一刻も早く奴らをどうにかしなければ」
ルークは険しい表情でぎゅっと拳を握り込む。
「光の木って光の神が植えられたものでしたよね? 今まで枯れたりしたことはないのですか?」
「今まで光の木が枯れたことはない。光の木はこの世界そのものを表しているから、光の木が枯れ始めたということはこの世界に異常起きているということだ」
「光の木はこの世界を守る役目もあるのです。それが枯れてしまえば、魔物が異常発生するでしょう」
「魔物が……」
魔物は人を襲う。基本的に街などには現れないが辺境には時々出現するのだ。
数は少なく基本的に群れで行動しないので何人かで協力すれば倒すことはできる。しかしそれは1体に対して複数人で相手をする場合だ。
もし異常発生でもすれば街にも被害が出るだろう。
想像するだけでぞっとする。
「でもどうして光の木は枯れ始めたのでしょう?」
「それは魔族のせいだ」
「魔族? 魔族はここよりずっと離れた土地に住んでいるのではないのですか?」
「本来はな……レナにまだ話せてなかったな。俺に呪いをかけたのは魔族だ。奴らは俺に呪いをかけ、甘言で兄上を惑わし操っている。兄上はもともと体が弱く、魔力耐性が低かったんだ」
「第一王子を操れれば、第一王子派を動かせます。そうして我々、第二王子派を追い出しました。国王は魔族たちが侵入した頃から体調を崩し、今は操られた第一王子が国政を担っています。魔族共が思うままに国を動かしているんですよ」
「魔族にとって光の木は自分たちの力を弱める邪魔なものだ。だから獣王国を乗っ取り光の木を枯らそうと考えたのだろう」
あまりに大きな話にレナは言葉を失う。ただの平民であるレナには全く想像もできなかった話だ。
ルークは苦笑すると、レナの頭をそっと撫でる。
「大丈夫。ローゼンタールに被害を出させることはしない。レナは呪いを解いてくれた。ここからは俺たちの仕事だ」
ルークとギャビンは大丈夫だとでもいうように力強く頷く。
「ルーク様、急ぎ獣王国に戻りましょう」
ルークとギャビンは立ち上がると、目線を交わして頷きあう。
「レナさん、ありがとうございました」
「レナ、本当にありがとう」
「ま、待って! もう行くの?」
不安そうにルークの裾を掴むレナにルークは優しく微笑む。
「全て終われば必ず礼に来る。それまでここで待っていてくれ」
レナはぎゅっと握りしめていた裾を名残惜しげに放す。
ルークは国を守るべき王族だ。だからここで引き留めてはいけない。
「絶対また会いに来てね」
レナの無理矢理作った笑顔にルークは力強く頷いた。
ルークたちを送り出した翌日、家の中を見まわし、レナはぐったりして椅子に寄りかかる。
この家はこんなに広かっただろうか?
前は一人で住んでいたのにルークの声が聞こえないだけでとても広く、暗く感じる。それほどレナにとってルークと過ごした日は安心感のある心地の良い日々だったのだ。
「ルークたち大丈夫よね?」
レナにはどうすることもできないが、せめてルークたちが無事であるように祈る。
何も手につかないまま、レナは日課の水撒きをするため庭へと出た。
ぼーっとしながら水撒きをし、植物がまた大きく成長していることに気づき急いで水撒きを止める。
「ダメね……しっかりしないと……」
レナは大きくため息を吐いた。
「でももしまた呪いをかけられたらどうするのかしら? それにお兄さんは魔族に操られているって……お兄さんを正気に戻すには光属性の魔法が必要ではないのかしら……」
考えれば考えるほど不安になっていく。
「決めた! やっぱりただ待ってるだけなのは嫌!」
レナはジョウロを持ち直し、決意を込めて立ち上がる。
「私も獣王国に行こう!」




