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光の守り手

「ということで、奴らが獣王国の国境付近を固めているため、今の私たちの戦力ではやはり応戦するのは厳しいかと……」


「まぁ予想通りだな。どっちにしろ俺の力が完全に戻らなければ奴らと渡り合うことなどできないだろうし、今はとにかく少しでも情報と戦力を集めることが最優先だな」


「ええ。逃げる時に散り散りになった者たちを探していますが、まだ半数ほどしか見つかってません。怪我をしている者も多数おります。全員を見つけ怪我の回復を待たねば国境を突破するのも難しいでしょう」


「国内の様子は? 何か情報は手に入ったか?」


「私たちが国を出てから状況はほとんど変わっていないようです。相変わらず奴らが城内を我が物顔で歩き、第一皇子は奴らの人形のままだと……ただ少し気になることが……」


「気になること? なんだ? もったいぶらずに話せ」


「まだはっきり確認できたわけではないのですが……光の木の様子が変だと」


「なんだと!?」


 それまで黙って話を聞いていたレナがそろりと手をあげる。


「あ、あの〜……」


 レナのか細い声にそれまで険しい表情で話していたルークとギャビンがパッとレナへと視線を向ける。


「どうした?」

「何でしょう?」


「あの、この話って獣王国にとってとても大事な話ですよね? 私のような他国の一般市民が聞いてしまっていいのですか?」


「確かに重要機密になる話だが、レナのことは信頼しているから、大丈夫だ」


 とても良い笑顔で答えるルークと、となりでその通りだと大きく頷くギャビンにレナは苦笑いを浮かべる。


(信頼されているのは嬉しいけど、絶対私が聞いていい話じゃないわ!!)


 レナがこっそり席を離れようと立ち上がると、ガシッとルークに手を掴まれる。


「えっと……ルーク?」


「光の木の話はレナにも聞いてもらいたいんだ」


「光の木?」


「ああ。レナは光の神は知っているよな?」


「うん。この世界を造ったとされる神様だよね?」


 不思議なことに国ごとに多少の違いはあれど、この世界を創造したと言われている神はどの国でも共通で光の神と言われている。

 そして光の神の象徴である光属性の魔法を扱える者はとても貴重で尊ばれる存在なのだ。

 その尊ばれる存在が、まさか植物の異常成長を引き起こし、人を吊るしあげる珍事を起こすなど、誰も夢にも思わない。だからこそレナが光属性の魔法が使えることは町の人たちにも気付かれていないのだ。

 


「光の木とは光の神がこの地上を見守るために植えられたと言われている。そしてその光の木に異常が出たとき光の木と世界を守る役目を担う者を光の守り手と言うんだ」


「光の守り手? そんな話初めて聞いたわ」


「魔法が盛んな国では光の守り手の話も伝わっているが、ローゼンタールでは魔法使いですら貴重だからな……」


「確かにローゼンタールでは魔法使いなんて滅多にお目にかかれないし、まだ私が魔法を使えることが信じられないもの」


「だがレナの光属性の魔法は強いと思うぞ。あれほど一気に植物の成長促せるのだから」


 ルークの言葉に先日のことをまた思い出し、ため息をついたレナに慌ててルークが話を逸らす。


「俺たち獣人族は光の神の隣人であった獣の神を先祖に持つと言われているんだ」


「獣の神? それも初めて聞いたわ」


「獣の神の話は獣王国でしか伝わっていないようなんだ」


「まぁ人間の国ではそんな話は伝わりにくいでしょうね。光の木も伝説だと思っている国も多いですし。光の守り手だけは何故が一部の国で伝えられてますが……そういえば光の守り手には獣人族の秘めた力を解放できるという逸話もあるのですよ」


「秘めた力? いったいどんな力なんですか?」


「獣の神の本来の力を発揮できるんだ。それを獣化と言うんだが、長い時間の中で獣の神の力は薄まっていて、稀に極限状態に陥った際にその力を発現できる者がいるんだ。しかし光の守り手の助けなく獣化した者は暴走状態になり、最悪命を落とす可能性もある」


「命落とす……それじゃあ獣人族は光の守り手がいなければ真の力を発揮できないってこと?」


「その通りだ。だからこそ俺たちは光の守り手を探している。そして俺はそれがレナかもしれないと思っているんだ」


 ルークの真剣な目にレナは気後れして目を逸らす。

 今まで自分が魔法を使えることも知らなかったのだ。それに力も扱いきれない自分などが本当に光の守り手などという大層な存在だとは思えない。

 レナの様子にルークは苦笑を浮かべる。


「すまない。別にレナに気負わせる気は全くないんだ。これは俺の願望だ。光の守り手を守ることは獣人族にとって当然のことだ。レナが光の守り手なら俺がレナのそばにいる大義名分ができるなんて、ずるいことを考えてしまった」


「それって……」


(ルークはずっと私のそばにいたいって思ってくれてるってこと? で、でもルークはまだ子どもだし! きっと好きとかまだちゃんとわかっていないわよね……私ったら何を考えているのよ……)


 レナが頬を薄く染め俯くと、ルークは満足気に微笑む。



「あ、あの私もいるんですけど……お話の続きしても?」


 とても言いにくそうに呟いたギャビンにレナはハッとして顔をあげると、恥ずかしさを隠すようにもちろんと大きく頷く。

 そんなレナとは対照的に、ルークは邪魔されたとでもいうように鋭い視線を向けるとチッとギャビンにだけ聞こえるように舌打ちした。


「わ、私にどうしろと?」


 小さく怯えた声のギャビンにルークは何事もなかったかのようにレナに向かって笑みを向けると話を再開した。

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