消失
「見ていただいた通り、この領域、小犬座の方角には、10年前には多数の星が確認できました」
画像では、こいぬ座に瞬く多数の星が写っている。
これだとどれが星座を構成している星か悩むほどだ。
だが今、それらの星は一切ない。
きれいに消え去ってしまっているのだ。
「宇宙望遠鏡からの映像以外にも、地上にある多数の望遠鏡や天文台と連絡をとりました。しかしながら、どこもこれが消えたということに気付いたところはありませんでした。それだけに、これはそういうものだという認識で動いていた可能性があります」
「元々星はなかったと、我々が認識をするように、誰かが細工でもしたのか」
笑いながらも、ヨーロッパの天文台の職員の一人が、佐藤へと言った。
「全ては可能性の段階です。ですが、捨てきれません。もっとも、全人類をこのように細工をするとなれば、もはや陰謀論や都市伝説といった類となるでしょう。それでは、あまりに非科学的すぎます」
果たしてそれがどこまで事実なのかと考えると、それだけで時間を空費してしまう。
そのため、そのあたりの話は全て流されることとなった。
「これは、どうしてこのような現象が起こったか。今後はこれを中心に考えていきたいと考えています」
佐藤が続けて話した。
「現状、何か判明していることはあるのでしょうか。あれば、ここで教えていただければ」
アメリカ東海岸北部にある、テック・カバナー天文台の台長が、佐藤へと質問をしてくる。
「完全に消えているのかどうかについては、いまだに疑問が残っています。むしろ、地球から観測する際に、何らかの物質で覆い隠されてしまっているという可能性もあります。それこそ、地球を中心とするダイソン球のような形になるでしょう。星が消えるというセンセーショナルな話題だからこそ、確固たる証拠をつかみたいと考えています」
「よくわかりました。ともかく現状は証拠固めを中心にしたいということですね」
要約をされるが、それは何もつかんでいないということをはっきりと言ったのと同じことだ。
「はい、そうです」
佐藤もそれに同意した。
ともかく、特別会合は大きな成果もなく、第1回目を無事に終えた。
分かったことといえば、まず誰もこれに気づかなかったこと、それと確かに観測事実から星が消えているということの2点だった。