相手
「さすがの私でも、物質ごとのテレポーテーションはできないと思っていますよ」
佐藤は笑いながらも俺へと答えてくれた。
「ならばどうしてさっきみたいな話を?」
俺も俺で椅子を引っ張ってきて、佐藤の近くに、向き合うようにして座る。
俺にもコーヒーを、と思っていると、佐藤がいつの間にか淹れてくれていた。
「派手な話をあげておくと、あとの話が矮小に感じませんか?もしも、解決不可能な問題が複数あったとして、一番無理難題な話を聞いたあとなら、ほかの話がまだいけるんじゃないかと思うことってありませんか?」
「するとあれか。1万円のネックレスのあとに1000円のものをみると安く感じるのと同じ事ってことか」
「まさにそうです」
コーヒーにはミルクポーションを1つ、それと白い角砂糖が2つ。
必ず俺が入れているのと同じものが融けこんでいた。
「それで、あんなトンデモはなしを持ち出したってことか。情報を量子テレポートさせることのほうがまだ易しいと錯覚させるために」
「そうです。不可能なのは今の技術では、という前置詞が付きますから。ならば、どうにかして技術を開発すればいい。手野グループをはじめ、テック・カバナー財閥やほかのたくさんの企業や団体、それに研究所が動いてくれています。私も友人に尋ねてみて、量子分野に詳しい人を探してみます。何かいいアイディアがもらえるかもしれませんから」
「ああ分かった。好きにしたらいいぞ。ただ、どこか行くのならば、ちゃんと旅費の申請をしてもらわないと。ちゃんとこれは公務扱いにできるからな」
「分かりました。その時にはちゃんとお伝えできると思います」
湯気も消えかかっているコーヒーを、グイッと佐藤は飲み干した。