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こどもの日その1

注意、

小学生男児が好む、あの言葉が出てきますので、食事中に不適切な表現がなされますが、ご了承ください。

五月五日、今日は暦の上ではこどもの日だが、我が家には卵は存在すれども、実際の男の子は存在しない。


なので何もやらないで大丈夫だろうと、思っていた時期も、私にはありました。


日曜日ということで、私が家でごろごろしていると、家に来訪者が来たが、私が行くのは面倒だと思い、声だけを出す。


「はぁーい、ちょっと待っていてくださーい」


丁度トモミがソファにいたので、私の代わりに出てくれないかをお願いすれば、トモミはすんなりと玄関へ出て行ってくれた。


そこから聞こえてくる声は、なんとも楽しそうな話声であったが、そのうち「おじゃましまーす!」という声と共に、三人の男の子が入ってきた。


「ハラおばさん!きおくそーしつだって?!」


「あの経験が、おばさんの精神にすっごいダメージを負わせたってことだな!?」


「よっしゃ!ショック療法だー!」


そんなことを言いながら飛び込んできた男の子たちは、私の姿を見たと同時に、そんなことを言ったと思ったら、私に向かって子供らしい攻撃を始めた。


「おらぁ!う〇こショック療法!」


「ハイパーメガトンショック!」


「くらえ!スーパーう〇こショック!」


「う〇この量が多いなぁ!君たちは一体何者なんだい?!」


なんか手をクロスさせてビームを放ってきたり、自分のおでこにピースをして当てたり、私の額に人差し指を押し当て、連打する男の子たち三人組は、とにかくう〇こビームのショックとかいうイカレた方法で直してこようとしたので、思わずそうやって叫べば、三人はこちらにポーズをとりながら宣言してくる。


「「「おれら!このはな戦隊!グレートレンジャー!」」この町の平和を守るものだよ!」


そんな聞いてもいないごっこ遊びを聞かされて、思わずげんなりすると、トモミが説明してくれる。


「ハラさん、ヘアピンをしているのがショウ君、色白メガネなのがマサトシ君、マッシュルーム頭なのがタカマサ君。


全員卵関係の人ですから、不審人物じゃないですよ。」


その発言だけで、この子たちに卵のどちらかを配ったことがわかったので、頷いて応対を始める。


「それで?三人は、私に何用かな?」


私が問うと、三人がそれぞれ話始めた。


「なんとなく来ただけ。」


「おばさんのところになにかお菓子あるかなって。」


「あのときのことも聞きたかったけれど、記憶喪失だし、ショックで思い出さないかなって。」


三人それぞれ身勝手な理由の中で、一番気になった理由が、マサトシのあのときのことの話というものであった。


「あのときって、なんのことだ「そんなことより!記憶喪失なら、衝撃を与えれば治るはず!」……」


「う〇こビーム!」「びりびり攻撃!」「スーパーお尻ブリブリ攻撃!」


「おまえら!話を聞かんか!」


私の問もガン無視で、男の子たちがそんな攻撃を放ってきたので、それにツッコんだらどっと疲れてしまい、背もたれによりかかる。


「で?今はうんこビームとか、そんなことには対応しかねるが、なにか気になることでもあったんだろう?話してくれ。」


私が再度問いかけると、男児たちが思い出したかのように話始めた。


「そうだった!」


「あの女の子、どうなったの?やっぱり消滅しちゃった?」


「ハラおばさんみたいに、おかしくなって戻ってきたりしてない?」


三人の話から思い当たることがあったので、それぞれの言葉を聞いてから、まずはじめに訂正することから考え始める。


「おねぇさん、な?


消滅というのは、イノセントトレイターと呼ばれる物体についてのことで、あっているかい?」


思い出しながら私が尋ねれば、タカマサが思い当たる節があるのだろう、目を見開いてこちらに尋ねてくる。


「イノセントトレイターって、あのヤバいものの名前?」


タカマサが思い出したかのように言葉に出すから、きっとそうなのだろうな。


「研究資料にあったから、そう思ったのだが、あのキーホルダーのようなものだろう?」


足を汲みながら考えるように言えば、相手は目を開きながら思い出すように言葉を出してくる。


「そうそう、それなんだけどさぁ。


学校でそれに近しいものを持っている人が、ちらほらいることに気が付いたんだ。」


その話を聞いて、未だに本調子ではない私だが、それでも危ないことになっているのは理解できたので、先を促す。


「ふぅん?そういったものを持っている人が多くなっている、あるいは持っている大人を見たことがある。


そのような解釈で、いいのかな?」


私が言えば、相手はうなずいて、ショウ、タカマサ、マサトシがそれぞれどのような人がいるのかを話してきたが、どうやら七不思議のように広まっている噂がベースらしい。黒いコートを羽織った人物が、キーホルダーを配り歩いているとのこと。


正直思い当たるところが全くないので、記録だけとってしまうと、三人が駄々をこね始めた。


「あのさぁ~!今日こどもの日だからさぁ、なにか面白いことない?」


「なんかこいのぼりとかがすごいところとか、いかないの?」


「どうせ適当こいて仕事サボろうとしてるんだし、これからおれ達のことを遊びに連れてってよ!」


そんなこんなで強制的に連れ出されたわけだが、私はこいつらとそんなに仲がよかったのだろうか?


そんなことを考えても仕方ない、ひとまずトモミ含めた全員をつれてやってきたのは、家から少し離れたとある川岸、こいのぼりが大量につられ、風でなびいている、そんな場所である。


「うおー!すっげえ!」「めっちゃ大量だぁ!」「おばさん!これシェアして良い?!」


始めからショウ、タカマサ、マサトシの順でそんな発言をしたが、私としても随分と大量で、大きなこいのぼりが無数に川の上をたなびいている風景を見て、感嘆のため息が出る。


「これはすごいな、トモミ、よくこの場所を見つけたな。」


私が隣にいるトモミのことを見ていえば、トモミはくすぐったそうな顔で笑顔を作る。


「いえ、軽く検索かけたら出てきただけなので、お気になさらず。」


「本当にありがとうな、きっと記憶がなくなる前も、こうやってトモミに検索してもらって、連れてきてもらっていたんだろうな。


その手腕からわかるよ、ありがとう。」


私の心からのお礼に、トモミは突然顔色を辛そうな色に変え、そしてすぐに元の顔に戻った。


「いえ、私は当然のことをしたまでです。


ほら!ハラさん、近くに和菓子屋があるので、こどもの日といえば柏餅ですよ!


食べに行きましょ!」


トモミがそうやって号令をかけ、私たちが移動してきたのはこの辺りでは老舗なのだろう、小さな和菓子屋であった。


店内に入ると、年配のおばあさんが店番をやっており、ショーケースには所狭しと和菓子が置かれている。


「こんにちはー、こどもの日の和菓子を買いに来たのですが、ありますか?」


私が尋ねれば、年配の女性はすぐに対応してくれる。


「あらあら、四人もお子さんを連れて、大変ですねぇ。」


「知り合いの子供たちなのですが、こどもの日の和菓子を食べようということになりまして、それで私はもともと女の子しか見たことがなかったので……男の子の節句には何を食べるとかを知らないんですよ。」


私が言えば、その女性はころころと笑う。


「なるほどねぇ。そうだねぇ、関東なら柏餅、関西ならちまきを食べるのが一般的らしいけれど、このお店ではどちらも売っているからね。


あとは草餅なんかも縁起ものだよ、ヨモギは邪を払うと言われているからね、それらを買って食べるといいよ。」


「ありがとうございます、それらをそれぞれ五つほどください。」


「ありがとうねぇ。」


女性の丁寧な説明で購買意欲を掻き立てられたから、私はそれらを頼んだのだが、男児たちはそれでは気が済まないのだろう、ショーケースに並べられたあれそれを見て、私にねだってくる。


「おばさん!このあおやぎってのなに?!なんか緑色なんだけど!」


「これ!これ食べたい!どら焼きに餅が入ってるやつ!」


「ねーねー!このねりきりってなに?!食べもんじゃないよねぇ!」


「おまえら~、店の中で騒ぐな!」


ショウもマサトシもタカマサも、それぞれが騒いでいるので、私が一喝したのだが、意味がないらしく、店員さんに謝る。


「すみません、騒がしくしてしまって、お詫びに買ってもいいですか?」


「いやいいよぉ、確かに買ってくれるのはありがたいけどもねぇ、我慢を覚えさせるのも育児だよ?」


「確かにそうなんですがねぇ。」


ほとほと困り果ててしまい、店員さんからも我慢を覚えさせろと言われ、どうしようかと考えていたら、ショウがこちらを見て地団太を踏み始めた。


「ねーえー!これほしいー!」「おまえら少しは黙りなさい!わかったから!ひとつなら買ってあげるから!」


「「「やったー!」」」


「ただし!自分のお小遣いから出しな!柏餅もちまきも草餅もあるんだから!それ以上食べたらお昼食べられなくて、家の人に怒られるでしょうが!


そして私のことはお姉さんと呼びな!」


「なんだよおばさん!ケチ!」


「ケチじゃない!」


そんな感じにギャンギャンとやりながら、私は三人から欲しいものを聞き、ついでにトモミからも欲しいものを聞いて、全ての代金を支払うと、結構な額になった。


「本当に騒いでしまって申し訳ない、こいつら、一度聞かないってなったら徹底して聞かない聞かん坊なもんで、本当に困りますよ。」


私がぺこぺこと店員さんに謝っている間にも、トモミが三人のことをまとめて、ひとところに収めてくれる。


「まったく、男の子は大変ですねぇ、また来てくださいよ。」


「ほんとに、そうしますね。」


私が引き戸を開けて出ていくときに、三人が店員さんに手を振りながら、トモミはお辞儀しながら一緒に出ていく。


「川べりにある椅子にでも座って食べるかぁ。」


私がそういえば、三人がテンション高く同意したので、私としてもやれやれと笑みが浮かぶ。


「ハラさんって、本当にお母さんみたいですよね。」


ふとトモミの方からそんなことが聞こえてきたので、振り向きながら不服を申し立てる。


「私はまだお母さんじゃないぞ。」


「それでもですよ、私が知っている限り、特にお母さんっぽい雰囲気を持っていると思いますよ。


あるいは世話焼きのお姉さんって、感じですかね。」


どことなく気を使わせてしまった気もするが、それでもお母さんと言われるのは不服である。


「私はまだ若いつもりだし、お母さんって呼ばれるのは、ちょっとね。」


「ハラおばさーん!早く食べよーよー!」


「おばさんっていうんじゃねぇぞクソガキどもー!」


私がおばさんと言われたくないと言うが否や、男児たちが私のことを呼んだので、それ相応の返しをしてやる。


呼ばれたのでトモミと一緒に先に男児たちが走っていったベンチの元へと行き、三人に対して持っているものを渡す。


「さて、そろそろ食べようか。」


「やった!」


渡すが否やそれぞれが和菓子を手に取り、食べ始めたので、私も苦手な柏餅を取り出し、試しに食べてみるが、やはりこの独特な臭気が苦手で、トモミに受け渡してしまう。


「ごめん、やっぱ食べてくんない?」


「えっ?ハラさん、柏餅苦手なんですか?」


「独特なにおいが苦手でね、あと、草餅も苦手。」


私からそれらを渡されたトモミが驚くのに、すぐに仕方なさそうな顔でうなずく。


「ハラさんって、案外わがままですよね。


というか、苦手なら人数分買わなければよかったじゃないですか。」


「うぐっ」


トモミの呆れ顔と共に言われた言葉が、あまりにもその通り過ぎて、何も言えなくなると、トモミは渡されたものを口に運ぶ。


「うん、こしあんでおいしいですね。


これ、苦手なんですか?」


柏に包まれた餅を片手で剥ぎ、もう片方の手で口に運ぶ彼女から、そんなことを言われてしまえば、ついでに買っていたちまきも苦くなる。


「仕方ないじゃないか、苦手なんだから。」


ちまきは初めて食べたが、案外薄味でおいしいと感じた私がいて、やはり香りが重要なのだなと再度理解する。


そしてショウ、タカマサ、マサトシの三人はそれぞれに買ってあげた和菓子、あおやぎ、ねりきり、どら焼きを食べ始め、お互いに感想を言い合っているようであった。


私としてはその光景にこれっぽっちの既視感がないわけだが、トモミが三人を見ているのには、どことなく知っている気もする顔を見た。


「なぁ、トモミ。」


「はい、なんですか?」


トモミの横顔に思わず声をかけてしまったが、トモミはこちらを見ることなく返事をしてくる。


「私は、どれくらい早く、日記を読み直せばいい?」


「えっ?」


私がハマノから指示されているそれを言えば、トモミはこちらを向いてくれる。


「いや、実は仕事の一環というか。記憶を思い出す一環で、なるべく早くに日誌を読み直せと言われているのだが、未だに最後まで読めていないんだよ。


なんだか、読むと落ち込んだり、頭痛がしてな。なかなか読み進められないんだ。」


頬を掻きながら悩んでいることを言えば、トモミは一瞬表情がなくなり、そのあとすぐに慈愛に満ちた笑顔をして、こちらを見てくる。


「ゆっくりでいいですよ。


私は、いくらでもハラさんの記憶が戻るのを待ちますし、いっそのこと、思い出さなくてもいいって、本音を言えば思うんです。


ですから、ハラさんはハラさんでいれば、それが一番なんですよ。」


トモミの言葉に何か引っかかるものがあったが、急がなくても良いと言われて、私自身がホッとしてしまう。


「だが、なるべく早くに思い出さねば、トモミと一緒にいたことも思い出せないのだが……。」


「別にいいんです、私のことなど、思い出さなくても。」


そんな、あまりにも優しい言葉を言われてしまえば、私としてもゆっくりでいいやという気分になってしまう。


「私が色々と知っています、なので、何かあったら周りにも、いの一番に私に聞いてくれてもいいです。


私は、ハラさんの味方ですからね。」


記憶がなくなり、正直不安だったのは本当だ。


今までのことがイマイチ思い出せず、自分が何をすればいいのかもわからない。ただ、相手のことを研究に使う実験動物だと見なければという思いと、ちゃんと世話をせねばという気持ちがあり、それが愛情なのか義務感なのかがわからなかった。


実験動物に愛を持っても仕方ないというのに、それでも愛のある世話をしてしまう私がいて、その相反する感情が意味わからず、正直怖かったのだ。


だが、ゆっくりでいいと、昔のことなど思い出さなくていいと言われてしまえば、どちらが正解ではなく、どちらも正解なのだと言われているようで、ほっとしてしまう。


「そっか、私は急がなくっていいんだな。」


正直研究だけを考えろと言われていた私が、こうやって子供たちと関わっていいというのは、なかなかに変な話ではあると思うのだが、それでも許されたということは、きっと愛情をもって実験を行なえという意味なのだろうと、勝手に解釈する。


「はい、急がなくていいんです。」


トモミも肯定してくれるし、きっとそれでいいのだろう。


「なぁ、なにいちゃついてんの?」


そんな言葉にそちらを見れば、三人がこちらをジィッと見て、きっと声を出したのはショウなのだろう。その言葉に意味が解らず、問いかけてしまう。


「いちゃつくっていうのは、男女で言うものじゃないのかい?」


「そんなもん?」

「そんなもん。」

「そんなもん?」

「そんなもん。」


そんな問答がなされたが、トモミが少し焦っているように見えたので、不思議に感じてしまう。


「どうかしたのか?」


「い、いえ!なんでもありません。」


トモミが慌てているので、何かあるのかと思ったが、特に気にしないことにした。


「さて、全員和菓子も食べ終わったようだし、そろそろこいのぼりを全体的に見に行くか?」


私の問に、その場にいた全員がうなずく、私たちが見ているこいのぼりはほんの一部で、どこまでも続くこいのぼりの群れは現在地から随分と離れたところまであるように見える。


おまけにそれぞれのこいのぼりが違う様相をしていて、きっと子供や地域の人が作ったような、そういう風な一匹一匹が違う姿をしていて、なかなかに見ごたえがある。


なので、それぞれを見るというのは、ある種の礼儀でもあるように感じたのだ。


子供たちは全てのゴミを私に押し付け、そのまま走り出したので、私はゴミを回収してからそれらの後を追う。


トモミが三人のことをしっかりと見ていてくれているようなので、私がやることもないかと、空に泳ぐこいのぼりの群れを見上げる。


ここは川べりなので、様々なこいのぼりが空を泳いでいるのが見え、本当に様々な色の魚が泳いでいるように見える。


ぼんやりと青空を見ていたら、ふと気になるものがあったので、そちらへと歩みを進めた。

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