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日記の合間の小話「トモミとハマノの二人だけの会話」

「お前には重要な役割を与えてやる、光栄に思え。」


それが、私がハマノおじさんから聞いた、ハラさんが戻ってきてすぐに言われたことだった。


「いきなりなんですか?それに、ハラさんの様子がおかしかったですが、何があったのですか?」


私がおじさんに問いかければ、おじさんはすぐに答えてくれた。


「今のハラは記憶を失くしている状態だ、そしてその記憶を新たに構築するのが、今のお前に課せられた使命だ。


光栄に思え。」


おじさんの言葉が少なすぎて、よく意味の取れないことを言われたけれども、すぐにそう答えてくれたから、なんとなくでしか状況はわからなかったのだが、それでも聞き返さねばならないことはある。


「記憶を新たに構築するのは、一応わかりましたが、記憶喪失って、一体なにがあったのですか?」


尋ねると、相手は大仰な態度で腕を組み、説明をしてくれる。


「簡単に言えば、メンテナンスは精神を元の状態に戻すだけでなく、様々なものをとある時点まで、一気に戻す作業、修復作業と呼ばれるものが含まれる。


普段のメンテナンスならば、そこまでのことはせずとも良いのだが、今回は状態が悪かった。メンテナンスによって、記憶や体に蓄積された記憶の一部が、一気に飛んだと考えてもらっていい。


そして初期化に伴い、その時までに起こったことの感覚の記憶を元に戻す、つまり記憶の保持などを行なうことがあるのだが、一連の作業中に、あいつ自身が独力で、メンテナンス中に記憶を飛ばすことを拒んだものがあったのだ。」


話があまり見えずに混乱を起こすが、とにかくメンテナンスというもので記憶を飛ばしたくなかったものがあったことだけは理解したので、話を促す。


「それは?」


組んでいた腕を解き、ポケットの中に無造作に入れた後、おじさんは答えてくれた。


「お前と一緒に居た記憶、だな。


つまり、お前のことは何が何でも忘れたくなかった、ということだな。お前自体のことを嫌いではなく、お前がぐいぐい来たのは怖かった、というのは多少あれども、お前自身のことは気に入っており、記憶処理によって忘れたくないという、そういった拒否がメンテナンス執行中に起こったのだ。


これは稀なことだぞ、誇れ。」


それを聞き、意味がよく取れずにいたけれども、それでも好きだったから記憶を失くしたくないという心の動きがあったことが嬉しくて、思わずにやけたのだが、相手はその表情を見た後に、私に向かって気味の悪い笑みを浮かべた。


「なんです?笑顔気持ち悪いですよ?」


私が嫌がれども、ハマノおじさんは笑みを崩さずにニヤニヤとしているのが、見上げるとよくわかる。


「まぁそういうな小娘、お前には重要な役割を与えると言ったではないか。」


ハマノおじさんがそんなことを言うので、私も一応身構えると、おじさんが右手をポケットから出し、こちらに人差し指を突きつけながら、宣言するように声を出す。


「お前には、ハラの心を落としてもらう、つまり、ハラのことをどんな方法を使ってもいいから攻略しろ、という意味だ。」


「……は?」


それは色々な意味でとれる発言だが、おじさんは言葉をやめない。


「ある一定の規定はあれども、どんな方法でもいい、とにかくハラの心をつかみ、恋仲になるほどの信頼を得よ。


あるいはそれと同等の信頼関係を築くのでもいいが、とにかくお前自身に夢中にさせろ、いいな。」


「は?……ぇ、はぁ?」


いきなりの発言に、あまりに都合が良すぎたこともあるが、それだったとしても何を言っているのだろうかと耳を疑ったのだが、相手はそれにつなげて教えてくる。


「ハラには心理的パートナーが必要、と言いたいのだ。


自分ではその役割はできないので、お手頃にお前が指名された、というわけだな。


ハラの特性は知っていると思うのだが、今更説明が必要か?」


おじさんの言葉でピックアップされたそれらを、脳裏で反射させたことにより、自分に都合よく全てを理解した気になっている私は、そのあまりに都合の良すぎる話に、耳を未だに疑っている。


「特性を知っているも何も、以前におじさんが教えてくれたことだし、それだけは覚えてるけど……っというか!本当に、恋人同士に、なっていいの?


普通おじさんがなるのが通常じゃなくて?おじさんがハラさんと恋人同士になるのが普通じゃないの?」


私の言葉に、相手は一瞬何かを抱えているような、ひどく辛そうな顔になるが、それを全く感じさせないような不敵な笑みを浮かべ、辛そうな顔を完璧になくしてこちらを見てくる。


「ハンッ!自分がアイツと恋仲になると?馬鹿を言うな。


自分が抱えるには、あいつは荷が重すぎるのだ。様々な状態異常を毎回起こすような女とは、こちらから願い下げだな。


ゆえに、お前の方があいつのことを大切にできると、判断したから頼んだのだが、お前はこの幸運を、みすみす逃す、というのか?」


相手の発言の随所に慈しみのような隙が見えたので、それを試しにつついてみる。


「幸運って言っている時点で、本当は好きなんじゃないですか。」


それに即座に反応を返すかと思えば、相手は黙ったままである。


「……正直、ハラさんのことを好きにしていいなら、しますよ。ですが、おじさんは簡単に言いますけれども、あの人の心を落とすのは、至難の業だと思いますよ?


なにせ、あの人はちょっとした接触も嫌がりますからね、下手に触れればすぐにハリネズミになる。」


そんな私の言葉にも、相手は助言をくれる。


「逆にきさまは、あいつの好む間合いを知らなすぎるのだ。


いいか?あいつの基本性質は、見る専用のお猫様だ。あいつに触れるのは不可能だが、あいつから触れてくるようになった、くらいになってからが、あいつにとって丁度いいと、心得よ。


あいつの持ち物に触れると引っかかれるし、あいつが好む間合いは、むしろ無視されるくらいが丁度良い間合いなのだ。


無視されすぎると、あいつから寄ってくる、その時に触れる、程度があいつにとって、一番ストレスのかからないコミュニケーションの取り方だ。


わざわざ教えてやったのだ、ちゃんとあいつの心を射止めろよ。」


おじさんの言葉には、ハラさんの好む近さなるものを、耳で聞き取りはしたが、正直その説明自体がイラッとする。


「なんか、聞いててすごくムカつくんですが、自分はあいつのことを、お前よりよく知っているマウントですか?


本当に腹立つんですが、それやめてください。結局、私のこと煽ってますよね?」


イライラしつつ、そうやって返せば、相手はなんの悪びれもなく腕組をし、不思議そうに話しかけてくる。


「だが、あいつの好む間合いを教えてやれば、さっさとあいつのことを落とせるようになるだろう?


せいぜい、あいつの恋仲になれるよう、頑張るんだな。」


最後には相手が私へ挑発するような顔でありながらも、実際には本当に私に期待していることがわかる表情をするので、私としても単純に、本当に恋仲になっていいのかって、考え始めたところで、ハマノがおもむろに家に入る。


まるで、話すことは話したとでもいいたげに、だ。


「おいハマノ、あの少女と何を話していたんだ?」


「お前の現在の状態を伝えただけだ、気にすることでもなかろう?」


「なら、気にしないでも大丈夫なんだろうな。」


そんな、ハラさんが相手を完璧に信頼しているような声色の声が聞こえたから、私としても気が気じゃなかったけれども、それでも、私の中で一つの、希望が浮かんだのは確かだ。


「ハラさんと、恋仲に、恋人同士になっても、いいんだ……女の子同士だったとしても、問題ないって、本当なのかな。


だけど、あのおじさんが嘘を言うとは思えないし、気に食わないけど。だけれども、本当だったら、本当だったら……。」


正直、ハラさんのことは好きだ。大好きだし、何回かハラさんの体を好き勝手やったけれども、それをダシに夜中何回も思い出したりすることは多い。


ハラさんは、それが嫌だって言っていたけれども、それでも本当は好きだったんだ。私のこと、忘れたくないほどに。


うれしい


それだけが私の中にあるけども、きっと恋愛ゲームで言えば、全ての値が初期値に戻っている。今までは、悲しいけれどもチュートリアルであったと、認識すればいいんだと思う。


それを認識した私は、涙を数個流したけれども、笑みも浮かべることができて、感情がぐちゃぐちゃだ。


「きっと、大好きになってもらいますからね。ハラさん!」


小声での宣言は、暑くなってきた風と共に、私の体を通り抜けていった。

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