(3)
貴族のドラ息子らしい男は……従者らしいのに連れられて、どっかに消えた。
「大丈夫だったか?」
小柄な女の子は、何故か、ボクの手を取り、ボクの目を凝視めて、そう言った。
本人は芝居がかった口調のつもりらしいけど……残念だけど、この子は役者には向いてなさそうだ。
「それは、そうとして……ええっと……」
すう……。
何故か深呼吸。
困ったような表情になって、ボクの方を凝視める。
視線がボクの頭から足先まで動く。
そして……更に困ったような表情。
「何やってんだ、あいつ?」
3人組の残り2人の女の子達の片方が、そう言った。
「女の子を口説く時の定石は『服でも靴でも化粧でも持ち物でも髪型でも、相手が自分の意志で選んだモノを誉めろ』。でもさ……」
昼間に、ボクとお嬢様をここに案内してくれた女の子が解説。
なるほど。
ボク達は……。
服は目立たない事重視のモノ。
化粧は最小限。
靴は旅用の丈夫で履き心地は中々だけど……見た目は野暮ったい。
髪はフードで隠れてる。
「お嬢さん……」
ボクは目の前の女の子の目を凝視め返し……髪を結んでいるリボンに触れ……。
「素敵なリボンですね♥」
「あ……は……はい……えっ?」
「ちょっと来いマヌケ」
「おい……何する? いいとこだったのに……」
「うるせえ。お前、その内、悪い女に騙されて、身ぐるみ剥がされっぞ」
「え……何言って……じゃあ、また、いつか……」
ボクとお嬢様を助けてくれた小柄な女の子は……仲間に首根っこ掴まれて、それでも、ボクに手を振りながら、夜の闇の中に消えていった。
「エイミー……」
「何ですか、お嬢様?」
「良かったわね。モテモテで……」
何故か、お嬢様の声は不機嫌そうだった。