(2)
朝食が終ると、ボクとアスランとお嬢様と第2王女は、王宮の物置……と言っても、ボクやお嬢様からすると、物置じゃなくて宝物庫にしか思えない……に来ていた。
「何か、勝手に取ってかないで下さいね。あとでややこしい事になるんで」
「やるわけないでしょ」
お嬢様はそう言ってるけど……お嬢様の家の借金の利息ぐらいには成りそうなモノがゴロゴロ有る。
「これでいいかしら? 流石に割れないでしょうし……」
第2王女はアスランが割った遥か東方の国で作られた青磁の花瓶の代りに、銀製の花瓶を選ぶが……。
「あ……あれ? 肝心の花瓶割った阿呆は?」
「あのさ、これ、ここから持ち出していい?」
「な……なにやってんのよ?」
アスランは、物置の奥から、1本の刀を持って来た。
埃だらけの柄や鞘は、草原の民が使う曲刀に似ている。
「これって、あれだよね?……伝説の『天子殺しの刀』」
「何で、貴方が、その伝説知ってるの?」
そう訊いたのは第2王女。
「えっ?……あっ? あんまり知られてない話だったの?」
「『天子殺し』……って何ですか?」
お嬢様は第2王女に、そう尋ねた。
「『天子』とは……王族の先祖が居た東方の地で王や皇帝の呼び名の1つよ」
「え……? 王様殺しの刀……何で、そんな……物騒な名前……?」
「古代の王は……天より派遣された天人だった……どこの地方、どこの民族でも、そんな伝説が有るでしょう?」
「ええ……」
「それが本当だとしたら?」
「へっ?」
「その天人達には……今、王都で騷ぎを起こしてる獣化能力者に似た力が有ったらしいのよ。……と言うか、その『天人』達には、2つの部族が有ったいう伝説も有るわ。人間の姿のままで普通の人間にない異能力を使える『日の支族』と獣のような姿に変身出来る『月の支族』が……。そして、天人を地上に派遣した神々は、『日の支族』を人間の、『月の支族』を動物達の支配者とした、って……」
「で……古代の王を殺せる刀は……同時に、城下で、今、騒ぎを起こしてる獣化能力者を殺せるらしいんだ。チョ〜大昔の王様にも、獣化能力者と同じような再生能力が有ったって……それも、再生の仕組みまで、ほぼ一緒のヤツが……」
アスランは、そう説明する。
「この刀は、獣化能力者達の再生能力を無効化出来る……って聞いた事が有る。たしか、獣化能力者達の再生能力を逆転させるんだったかな? この刀で、獣化能力者に、かすり傷でも与える事が出来たなら……その傷口は何倍にも深く広くなる。そして、この刀で与えた傷は……獣化能力者の再生能力が効かない。治らない訳じゃないけど、治るまでには、普通の人間が同じ位の傷を受けた時と、ほぼ同じ位の時間がかかる」
「貴方、どこで知ったの、その話?」
「えっと……乳母……」
「ちょっと待って、貴方、子供に乳母が付くような家の出なの?」
「あ……えっと……じゃなかった、母ちゃんに聞いた昔話……あ……あたしの母ちゃん、没落貴族の出なんで……あははは……」
「ねえ、あと、もう1つ訊きたいんだけど……」
どう考えても……そうとしか思えない事が有るんで、ボクは、そう言った。
「な……何ですか、センパイ?」
「あの花瓶、わざと割ったの? それを持ち出す為に……」
「い……いや……だって、その……」
「その……?」
「あの……えっと……城下に居る友達が、あの獣化能力者達と喧嘩するかも知れないんで……届けてやろうと……」