チェス盤ダンジョン
地下29階・・・
ハァ・・・ハァ・・・
薄暗い洞窟の中 彼女はぐるりと周囲を見渡す
目に見える範囲だけでも5体 大柄な獣のようなトカゲのような姿をした化け物がうろついている
いや 突っ立っていて動かない
ここはダンジョン ある日突然世界に現れた地下迷宮
その中は地上のありとあらゆる常識が通用しない世界だった
軍隊や実力者達が何度もこのダンジョンに潜っていくうちに いくつかのルールが判明した
1つ このダンジョンは床や壁が四角いマス目で区切られている事
2つ 人間がこのダンジョンに入ると不思議な力に目覚める事
3つ ダンジョンには化け物が存在し 自分が動くと化け物も動き出す事
4つ ダンジョンは降りれるが 特定の方法でしか戻れない事
5つ ダンジョンは入る 降りるたびに姿形を変える事
そんな不可解なルールを持つこのダンジョンを 人類は
ダンジョンの内装と 化け物の行動パターンから「チェスの対戦をしてるよう」と比喩し こう名付けた
「チェス盤ダンジョン」 と
・・・
彼女は周囲を見渡した後 手持ちのスマホを見る
そこには先ほど見ていたダンジョンや化け物・・・以後モンスターと呼ぼう それが映っていて
その隣には小さな文字がいくつも流れては消えていく
技術の進歩と言うのはすさまじいもので ダンジョンが表れて早10年
ある程度ダンジョンの事が解析され ダンジョン内と外で通信を行う事に成功した
そして作られたのがこのSNS Checkers
ダンジョン内を小型カメラで撮影し このアプリで配信した物をリスナーが見て 応援なり情報なりでコメントを渡す そういうシステムだ
幸いにも自分が動かなければ敵も動かない為 待つ時間も考える時間もじっくりある
・・・ しばらくすると返事が返ってきた
がんばれと彼女を応援するコメント 見た事も無いモンスターに驚くコメント
そして興味深いコメントがそこにはあった
「灰色のミノタウロスは矢に強いが火に弱い」
ゴクリ
意を決すると 彼女はゆっくりと歩みを進める
それに反応するかのように ダンジョン内の敵も動き始めた
ずしぃぃぃん ずしぃぃぃん
大柄なモンスターが何体も動くことで 地響きがダンジョンに響き渡る
彼女は手に汗をにじませて ゆっくりと動いていく
そして角を曲がった瞬間 出会ってしまった
銀色の毛皮を持つ 大きな斧を持った牛のモンスター ミノタウロスが目の前に
運の悪いことにミノタウロスはまだ行動前 つまり
ミノタウロスは大きく斧を振り上げ 勢いよく彼女に振り下ろす
ズバアアッ!!!
吹き出す鮮血 彼女は腕でガードするものの その腕には深い傷跡が刻み込まれる
苦痛に顔をしかめる彼女 しかしのたうつわけにもいかない
そうしたら敵は容赦なく追撃してくる
そうして来ないのは「自分が動かなければ相手も動かない」と言うルールのおかげなのだ
目に涙を浮かべつつ 彼女はミノタウロスに手を向ける
すると手から黒い炎が噴き出し ミノタウロスを炎で包む
ミノタウロスは炎で焼かれ 苦しいような動作をする
しかし今の炎を放ったことで「自分は行動」してしまった
ミノタウロスは斧を構え 先ほど放った強烈な一撃を再び放とうとしている
・・・しかし その一撃は放たれる事は無かった
ミノタウロスは息絶え その場に崩れ落ち 消滅した
ミノタウロスの残骸からは 小さな草が落ちていた
彼女はそれを広い すり潰し 先ほどの腕の傷に擦り付ける
するとみるみるうちに傷が塞がっていった
そして彼女は より一層慎重にダンジョンを歩き始めた
・・・
カツン カツン カツン
ダンジョンの29階を無事抜け 階段から下の階に降りていた
そしてその先にあったのは 小さな小部屋と 黄金の像だった
彼女は息絶え絶えになりながらも ゆっくりと 震える手でその黄金の像を持ちあげる
すると天井から光が彼女に降り注ぎ ・・・気が付いたら地上に転送されていた
傷も癒え 最初から何もなかったかのよう
しかし 確かにダンジョンの最深部に潜ったことは 右腕の黄金像が証明していた
彼女はゆっくりとスマホを起動し Checkersを開く
「おめでとう!!!」
「すげぇ!ダンジョン踏破初めて見た!」
「黄金像めちゃくちゃ高く売れそう」
「頑張った!」
「チャンネル登録した」
などなど 彼女を称えるコメントが数多く流れていた
彼女はパタリと大の字になって地面に寝っ転がると 大きな声で笑い始める
これは そんなダンジョン攻略に命を懸ける 1人の棋士の物語