色彩あふれた世界を求めて
第一章 覆い尽くす虹
私はその日、色のある世界を初めて見た。その日は一日中、雨だった。私は雨が好きだ。なぜなら、そこには目を覆い尽くすような虹が見えるからだ。虹を見ると、私の心は感じたこともない爽快感にあう。しかし、今日の虹はいつもと違うように見える。いつもは不思議な爽快感にあうが、今日は世界の見え方が違う。誰にも支配されないような明るい光がある。その光を求めて、私は今日も登校する。
「透明、起きなさい!」
突然声がした。姉の声だった。私が三歳の頃、両親は祖母に姉と私を預けて旅行に出掛けていた。その帰り、予期せぬ地震が起こり、帰らぬ人となった。その日は、私の好きなはずの雨の日だったが、その時から虹は現れなかった。両親の訃報を知ったのは、私が中学二年の頃、祖母が他界する2日前だった。その事を知った瞬間、私は色を失った。大粒の虹色の瞳からは、白い涙が落ちた。まるで雲が虹を覆い隠すように。今は祖母の家で、姉と私の二人暮しだ。
「まだなの?もうお姉ちゃん行くわよ!」
姉は現在、私を高校に通わせるために掛け持ちでバイトをしている。朝は喫茶店、夜はレストラン、日曜日以外、全ての時間に寝る間を惜しんでバイトを入れている。日曜日には、姉は私のために必ず一緒にいる時間を作ってくれる。目の下にクマができるほど、頑張り屋の姉。本当は姉の年齢なら、彼氏を家に入れたりしたい年頃であるはずだ。そんな姉に対し、私は申し訳なく感じている。
「おはよう。。」
私はだらしない顔で、そう言う。私は朝が弱い。
(今日の天気は中部地方全域、朝から昼にかけて雨となるでしょう!)
「おはよう!朝ご飯作っておいたから、食べていってね!」
姉は私と反対に、朝は強い。毎日、私のために朝ご飯を作ってくれる。今日の献立は、トースト二枚に、ベーコンエッグ、ココア、それにデザートのバナナ。ベーコンエッグをトースト二枚に挟み込み、そこにチーズを挟んで油で揚げる。これがとても美味しい。私の一番好きな料理だ。
「わかった。ふぁぁ〜あ。今日も雨じゃん。虹出るかな、、?」
私は不意に独り言のように呟いた。
「お昼までって言ってるから、昼くらいから出るんじゃない?」
私は姉に言われて、とても胸が踊った。それから私は朝食を終えて、いつもと同じようにロングヘアーをポニーテールに仕上げて、学校へ向かった。
私は普段自転車で通学しているが、雨の日は徒歩で学校へ向かう。自転車で15分ほど掛かるので、徒歩だと40分くらい掛かってしまう。しかし虹を独りで楽しむために、レインコートを着て通学している。その時、友達の愛梨と待ち合わせをして、楽しく通っている。愛梨とは、幼稚園から小中高と同じで、いわゆる幼馴染だ。私は普段、あまり人と話すのを拒んでいるが、愛梨にだけは何でも話せる間柄だ。両親のことや将来のことなど、全て包み隠さず話してきた。愛梨も同じだ。私には恋愛の事だったり、なんでも相談してくる。今日も愛梨と恋愛について話しながら、学校へ向かっていた。
「透明ってさ、理想の人とか本当にいないよね。」
愛梨が言うように、私には理想の男性像がいない。というか、男子とはほとんど話したこともない。
「あんまり興味ないんよね。愛梨はすぐ好きな人が出来るよね!」
愛梨は好きな人が出来ては告白して、の繰り返しだった。そんな愛梨を見て、私は心の底から凄いと思った。
「なんか背筋にゾワゾワと感じるものがあるの!」
このことは愛梨に毎回言われているが、私はそれを実感したことがない。いつもどんな感じなのかが、気になってしまう。そんな瞬間が自分には、本当に来るだろうか。もしかすると自分には一生来ないのではないか、とも思ってしまう。
「私もいつか来るかなぁ。」
少し不安ながらも、興味津々に聞いた。愛梨はどんな返答をくれるのかと期待した。
「大丈夫!生きてたら、人間絶対来るもんだから!気にせんでええと思うよ!」
その事を聞いて、私は少し安心した。
「てか最近あんた、ほんっとに元気よね!なんか良いことでもあった?」
今は梅雨時で、雨が今日も含めて4日連続で続いている。私は両親が他界してからというもの、虹を見ていない。だから雨が降ると虹が出るかもしれないと思い,胸が躍っていたのだ。自分では表情に出していないつもりだったが、親友の愛梨には隠しきれてなかった。
「最近雨多いからかな!」
「それはまた、どうして?」
愛梨にも、まだ私の中で色が消えてしまったことを言っていない。自分の中では、どういう感じか分かっていても、相手にうまく伝えることが出来ない。姉に相談してみても、わかってもらえない。それならば、いっそう誰にも言わない方がいいと思っている。
「ごめん。。うまく伝えられないの。。」
愛莉は私の困惑した顔を察して,その後は何も聞かなかった。
「そっか。まぁ誰にでも言いづらいことはあるよね。」
愛莉はどこか寂しそうな顔ををしてた。その時、より一層雨がこだました。愛梨の泪が聞こえたように。
(キーン、コーン,カーン、カーン)
授業が終わり,昼休みになった。朝に降っていた飴はすっかり上がり、私と愛莉は校舎裏のベンチでお弁当を食べていた。
「めっちゃ蒸し暑い!」
愛莉が不意に言った。私は太陽が出ている空を見上げた。しかし、そこに虹の姿はなかった。私はとても落胆した。
「またか。。」
最近雨が続いているが、虹は1つとして姿を現さない。あの日から、どうしてしまったのか。私は虹を追い求めて、生きている。もしかしたら、唯一嫌いだった雨が降ったあの日を忘れたかったのかもしれない。
「また?」
愛莉が不思議そうな顔で聞いて、私と同じように空を見上げる。
「最近ずっと、虹出てないじゃん。」
私はとても不満気に言った。すると、愛莉は私の全く想像していなかったことを口にした。
「虹って何?」
私はとても驚いたが、無理はないと思った。私もあの日以降、虹は一度たりとも見たことがない。
「何でもない!」
私は上機嫌に述べ、誤魔化した。