表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

色彩あふれた世界を求めて

第一章 覆い尽くす虹



私はその日、色のある世界を初めて見た。その日は一日中、雨だった。私は雨が好きだ。なぜなら、そこには目を覆い尽くすような虹が見えるからだ。虹を見ると、私の心は感じたこともない爽快感にあう。しかし、今日の虹はいつもと違うように見える。いつもは不思議な爽快感にあうが、今日は世界の見え方が違う。誰にも支配されないような明るい光がある。その光を求めて、私は今日も登校する。


透明(ゆきあ)、起きなさい!」

突然声がした。姉の声だった。私が三歳の頃、両親は祖母に姉と私を預けて旅行に出掛けていた。その帰り、予期せぬ地震が起こり、帰らぬ人となった。その日は、私の好きなはずの雨の日だったが、その時から虹は現れなかった。両親の訃報を知ったのは、私が中学二年の頃、祖母が他界する2日前だった。その事を知った瞬間、私は色を失った。大粒の虹色の瞳からは、白い涙が落ちた。まるで雲が虹を覆い隠すように。今は祖母の家で、姉と私の二人暮しだ。

「まだなの?もうお姉ちゃん行くわよ!」

姉は現在、私を高校に通わせるために掛け持ちでバイトをしている。朝は喫茶店、夜はレストラン、日曜日以外、全ての時間に寝る間を惜しんでバイトを入れている。日曜日には、姉は私のために必ず一緒にいる時間を作ってくれる。目の下にクマができるほど、頑張り屋の姉。本当は姉の年齢なら、彼氏を家に入れたりしたい年頃であるはずだ。そんな姉に対し、私は申し訳なく感じている。

「おはよう。。」

私はだらしない顔で、そう言う。私は朝が弱い。

(今日の天気は中部地方全域、朝から昼にかけて雨となるでしょう!)

「おはよう!朝ご飯作っておいたから、食べていってね!」

姉は私と反対に、朝は強い。毎日、私のために朝ご飯を作ってくれる。今日の献立は、トースト二枚に、ベーコンエッグ、ココア、それにデザートのバナナ。ベーコンエッグをトースト二枚に挟み込み、そこにチーズを挟んで油で揚げる。これがとても美味しい。私の一番好きな料理だ。

「わかった。ふぁぁ〜あ。今日も雨じゃん。虹出るかな、、?」

私は不意に独り言のように呟いた。

「お昼までって言ってるから、昼くらいから出るんじゃない?」

私は姉に言われて、とても胸が踊った。それから私は朝食を終えて、いつもと同じようにロングヘアーをポニーテールに仕上げて、学校へ向かった。


私は普段自転車で通学しているが、雨の日は徒歩で学校へ向かう。自転車で15分ほど掛かるので、徒歩だと40分くらい掛かってしまう。しかし虹を独りで楽しむために、レインコートを着て通学している。その時、友達の愛梨と待ち合わせをして、楽しく通っている。愛梨とは、幼稚園から小中高と同じで、いわゆる幼馴染だ。私は普段、あまり人と話すのを拒んでいるが、愛梨にだけは何でも話せる間柄だ。両親のことや将来のことなど、全て包み隠さず話してきた。愛梨も同じだ。私には恋愛の事だったり、なんでも相談してくる。今日も愛梨と恋愛について話しながら、学校へ向かっていた。

「透明ってさ、理想の人とか本当にいないよね。」

愛梨が言うように、私には理想の男性像がいない。というか、男子とはほとんど話したこともない。

「あんまり興味ないんよね。愛梨はすぐ好きな人が出来るよね!」

愛梨は好きな人が出来ては告白して、の繰り返しだった。そんな愛梨を見て、私は心の底から凄いと思った。

「なんか背筋にゾワゾワと感じるものがあるの!」

このことは愛梨に毎回言われているが、私はそれを実感したことがない。いつもどんな感じなのかが、気になってしまう。そんな瞬間が自分には、本当に来るだろうか。もしかすると自分には一生来ないのではないか、とも思ってしまう。

「私もいつか来るかなぁ。」

少し不安ながらも、興味津々に聞いた。愛梨はどんな返答をくれるのかと期待した。

「大丈夫!生きてたら、人間絶対来るもんだから!気にせんでええと思うよ!」

その事を聞いて、私は少し安心した。

「てか最近あんた、ほんっとに元気よね!なんか良いことでもあった?」

今は梅雨時で、雨が今日も含めて4日連続で続いている。私は両親が他界してからというもの、虹を見ていない。だから雨が降ると虹が出るかもしれないと思い,胸が躍っていたのだ。自分では表情に出していないつもりだったが、親友の愛梨には隠しきれてなかった。

「最近雨多いからかな!」

「それはまた、どうして?」

愛梨にも、まだ私の中で色が消えてしまったことを言っていない。自分の中では、どういう感じか分かっていても、相手にうまく伝えることが出来ない。姉に相談してみても、わかってもらえない。それならば、いっそう誰にも言わない方がいいと思っている。

「ごめん。。うまく伝えられないの。。」

愛莉は私の困惑した顔を察して,その後は何も聞かなかった。

「そっか。まぁ誰にでも言いづらいことはあるよね。」

愛莉はどこか寂しそうな顔ををしてた。その時、より一層雨がこだました。愛梨の泪が聞こえたように。


(キーン、コーン,カーン、カーン)

授業が終わり,昼休みになった。朝に降っていた飴はすっかり上がり、私と愛莉は校舎裏のベンチでお弁当を食べていた。

「めっちゃ蒸し暑い!」

愛莉が不意に言った。私は太陽が出ている空を見上げた。しかし、そこに虹の姿はなかった。私はとても落胆した。

「またか。。」

最近雨が続いているが、虹は1つとして姿を現さない。あの日から、どうしてしまったのか。私は虹を追い求めて、生きている。もしかしたら、唯一嫌いだった雨が降ったあの日を忘れたかったのかもしれない。

「また?」

愛莉が不思議そうな顔で聞いて、私と同じように空を見上げる。

「最近ずっと、虹出てないじゃん。」

私はとても不満気に言った。すると、愛莉は私の全く想像していなかったことを口にした。

「虹って何?」 

私はとても驚いたが、無理はないと思った。私もあの日以降、虹は一度たりとも見たことがない。

「何でもない!」

私は上機嫌に述べ、誤魔化した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ