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第99話 魔術と聖術

 森の木陰でどん……野営をして一夜を過ごした俺たちは、リビエナという元ガーネリアス教の神官を仲間に加えてガットランド王国の王都を目指し出発した。


「リビエナは<白翼聖勇騎士>の事をどの程度知ってる?」


 王都に近付くにつれて良く聞くようになる勇者パーティー<白翼聖勇騎士>

 ガーネリアス教の神官であったリビエナであれば、その辺りの話も知っているかもしれない。


「<白翼聖勇騎士>は少し前までガーリットン国へ遠征していました。ガーリットンでは獣人種族による人間族への被害が問題になっていたので、人間族を守る為に獣人種族を征伐する……というのが目的だったと聞いています」


「そのガーリットンという国では、獣人種族と人間族が対立していたって事なのか?」


「そうです。ガーリットンはガーネリアス教国家ではありませんが、ガーネリアス教を信仰している国民が多く、その為に獣人種族を奴隷として働かせていた貴族や商人が多かったのですが、そんな奴隷を解放しようと他国から獣人種族の冒険者が入って来て、奴隷の主である商人や貴族の館を襲撃し、その際に多くの人間族を殺めていたのです」


「その報復って事か」


「……と、思います」


「それで今度は<白翼聖勇騎士>が、ガーリットンにいる獣人種族を皆殺しにしたってワケか」


 リビエナはその言葉に返事をせず項垂れてしまう。

 

「まぁそう落ち込むな。あんたもそんなガーネリアス教に嫌気がさして棄教したんだろうし、あんた自身が獣人種族や他の亜人種族を殺したワケじゃないんだろ?」


 一応、グレッグは慰めているつもりだろうが、それにも返答しないリビエナは、ガーネリアス教の神官として間接的にせよ亜人種族の迫害に関わっていたと自責の念に駆られているのだろう。


「あっ! そういえばターナスさん。リビエナさんは罪人として王都の連れて行かれるワケだったんですよね? もしかして手配書とか出回ってませんかね?」


「「「「あ……」」」」


 パイルの言葉に俺は勿論、グレッグとアレーシア、それにレトルスも気が付いたようで、思わず揃って声を上げてしまった。


 リビエナの容姿をジックリと観察してみる……と。

 紫がかったピンクの髪に、汚れてはいるが元々は白かったであろう神官服。見るからに目立つ装いだよなぁ。


「変装するか? 髪を黒く染めるだけでも印象は変わると思うが」

「ガーネリアス教の神官服も目立ちますよねぇ」

「でもガーネリアス教の神官服なら、相手を油断させて情報を引き出したり出来そうじゃないですか?」

「黒く染めるって……ターナス様と同じ色にしてどうする気ですか?」

「アレーシア、お前は何を言ってる」


「ちょっと待ってくださいッ! 私は自分を偽りたくありません。髪を染めるのも……したくありません。とはいえ、このままでは皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうのでしたら、この神官服くらいは変えても構いませんが……」


 う~ん、もしかしたらリビエナは頑固者かもしれん。ハースやアレーシアと似たような性格なのだとしたら、猪突猛進系娘なのか⁉ でも戦闘は……。


「リビエナ、お前、戦闘経験はあるのか?」


「……実戦はありませんけど、身の守り方は取得しています。勿論、それを攻撃の手段として使う事が可能なのも……知ってます」


「魔術――。そういえば神官って杖を持ってるイメージがあるけど、錫杖や魔術杖(マジックワンド)は使わないのか?」


「錫杖? 王笏の事でしょうか? 何れにせよ神官は聖教杖(ホーリーワンド)を使います……が、私は取り上げられてしまいました」


「そういえば何も持ってませんでしたね。じゃあ、どこかで手に入れたいところですけどぉ、聖教杖って魔道具屋で売ってたかなぁ?」


「魔道具屋では売ってません。聖教杖は教会から授与される物ですから、お店で買えるような物ではないんです」


 パイルの使う魔術杖は、普通に魔道具屋で手に入る物だし、値段によって使える魔術のクラスも違ったハズだよな。


「そもそも、魔術師が使う魔術杖と、神官が使う聖教杖ってのは違う物なのか?」


「発動条件は同じハズですよ。ただ、魔術杖は高位階の魔術を使うとなると、それなりに高価なモノを使わなきゃならないんですけど、その辺りが聖教杖はどうなってんのか知りませんけどね」


「……というワケだが、リビエナ。魔術杖と聖教杖にどんな違いがあるのか分からんらしいが、神官は魔術杖で魔術を使う事は出来ないのか?」


「魔術ではありません。聖術です。使えるか使えないかで言えば……正直分かりません。そもそも魔術杖を使った事がありませんから」


 リビエナがそうなのか、神官って職業がそうなのか分からないけど……面倒クサイことこの上ないな!


「それなら取り敢えず一度、パイルの魔術杖を使ってみたらどうだ? それで聖術とやらが発動出来れば、何処かで魔術杖を手に入れればいいし、ダメなら聖教杖を手に入れればいいだけの事だ」


 ――という事で、パイルの魔術杖を使って『神官でも魔術杖で聖術が発動出来るか』の実験をすることになったワケだが、パイルは自分の魔術杖を神官が使う事で『壊れやしないか?』という不安があるようだ。

 魔術師と聖職者って、相性が悪いのだろうか。


 街道から逸れて、やや周囲が開けている場所で馬車を停める。

 まずはパイルが魔術杖で『防壁(プロテクション)』の魔術を発動する。


「天と地の精霊よ大気を集いし壁と成せ『防壁(プロテクション)』!」


 魔術によって作られた半透明の水晶のような()に向かって、ハースとシーニャが鉤爪(クロー)で攻撃を仕掛ける――と、その防壁に阻まれて二人は弾かれてしまった。要は「当然の結果」って事だ。

 次にパイルの魔術杖を持ってリビエナが聖術を発動する。


「聖なる天父神よ迷える我らをお守りください『聖壁プロテクション』!」


 見た目には何も起きていない。魔術の『防壁』がくすんだ水晶のような壁なのに対し、聖術の『聖壁』は無色透明な壁のようだ。


「ハース、シーニャ、何処に壁が作られているか分かるか?」


「すみません。ぜんぜん分かりません」

「……ん、見えない。感知出来ない」


「リビエナ、プロテクションはどの辺りに……?」


 リビエナが肩を竦めて下を向いている。これは……。


「発動しなかったみたいだな」


「だ、だって仕方ないじゃありませんか! 無理ですよこんなの!」


 グレッグに指摘されて、やや逆ギレしてるが顔が真っ赤だ。発動しなかったのが恥ずかしかったのか。


「やっぱり聖教杖じゃないとダメってことか」


「う~ん、詠唱に問題があったりしませんかねぇ。あくまでも使うのは魔術杖なワケですから、詠唱もそれなりに変える必要があるんじゃないかなぁ……と思ったりしたんですけど」


「魔術杖を使うんだから詠唱も魔術の詠唱が必要って事か」


「いえ、魔術と聖術は似て異なるモノなので、いくら魔術杖で魔術の詠唱を唱えても聖術は発動できないんですよ。なので、聖術を発動させる詠唱を魔術杖用に改変したらどうかなぁ? って思ったんです」


「――と、パイルは言ってるが、リビエナはどう思う?」


「聖術と魔術は発動する条件こそ同じですが、発動する為の回路が全く異なるので、詠唱を改変しても発動はしないでしょう」


「なら、やっぱり何処かで聖教杖を手に入れるのが一番って事だな」


 すでに王都の近くまで来ているから、この先に聖教杖が手に入るような街があるかどうかは定かではない。

 場合によっては王都に入ってから、教会に殴り込んで聖教杖を奪取する事になるかもしれんが……。まぁ、どっちにしたって教会とは敵対してるんだし、それが一番手っ取り早いか。


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