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第96話 罪人

 王都に近付くにつれて勇者パーティーである<白翼聖勇騎士>の名をよく聞くようになった。それも、俺たちは勿論の事、亜人種族との共存を望んでいるラダリア教徒からしても気分の悪くなる話ばかりだ。


「<白翼聖勇騎士>によってガーリットン国の獣人種族が全滅した」

「獣人種族の英雄集団<熾烈獣牙>を血祭りにした」

「亜人種族を擁護した騎士を処刑した」


 人間族にとっては勇者らしいが、話を聞く限りじゃただの狂った殺戮者だとしか思えない連中だ。ラダリンスさんが言ってたように、『人間中心とする世界を成す為に率先して動いている実働部隊』それが人間族の勇者……。

 胸糞悪い。


「ターナス様、あまり思い詰めないでください」


 レトルスが胡坐をかく俺の膝に手を置いて言葉を掛けてきた。


「ああ、大丈夫。そんなに思い詰めちゃいないよ」


「ですが、お顔が……」


「酷かったか?」


「いえ、酷いと言うワケでは……」


「思いっきり険しい顔してましたよ。まるで世界を暗黒の世の中に陥れそうな雰囲気を醸し出してました」


「そ、そんなにか? いくら何でもそれは言い過ぎだろ?」


 アレーシアに言われて少し焦ったけど、アレーシアが言う事だからな。かなり大袈裟に盛って言ったんだよな……?


「あの、ターナス様はすごく怒ってるみたいな顔してました。でもターナス様が怒るんなら、ハクヨク……キシ? っていうのは悪い人達なんですよね?」


「ハースもそう思うでしょ? 凄く悪そうな顔してたわよね? そう、まるで悪魔のような――」


「コラコラコラ! ハースを煽るな! まったくお前は……」


 確かに憤りを感じてたのは間違いないが、そんな「悪魔みたいな顔」なんてしてないっつーの。


 しかし……本当にある程度大き目な街でも亜人種族の姿を見ない。奴隷だから目に付かない場所で働かせている可能性も考えて、それとなく住民に訊ねてみても皆一様に「亜人種族の奴隷は王都に行かないといない」と言うばかりだ。


「ガーネリアス教を国教としてる国に自分から来る亜人種族はいませんし、聖王国のように亜人種狩りをしているとしても、ガットランドでは王都に集めるのが目的になってるみたいですよね」


「パイルも個人的に思うところはあるだろうが、キツかったら言ってくれよな?」


「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。こう見えて対人間族の戦闘はそこそこ経験してますし、亜人種族の冒険者は結構こんなモンですから、ご心配なく」


 俺やアレーシアに気を遣ってるのかもしれんが、にこやかに笑うパイルに少しだけ救われた気がする。パイルのこういう所が、何があっても憎めない人当たりの良さを醸し出してるんだろうな。アレーシアにも見習ってほしい所だ。


 何も言ってないのに何故か急に俺を一瞥するアレーシアを誤魔化しつつ、暫し雑談しながら時間を潰していると、御者をしているグレッグが呼ぶ。


「ターナス!」


「どうした?」


「街道を進む限り途中の村や町は経由するが、立ち寄るのは止めようかと思うんだが……どうだ?」


「ああ、構わないだろう。領主クラスの屋敷以外で亜人種族が奴隷として囚われている様子はないし、何よりロクでもない話ばかりを耳にするからな。なるべく最短で王都に向かった方がいいかもしれん」


「それじゃあ今日は行ける所まで行って、そこで野営だな」


 ガンネルトを出てからこの国の人間族に対する嫌悪感が増していったせいか、少しばかりストレス発散というか……この国の人間の顔を見ずにメンバーだけでハメを外したい気分になってたからな。

 ゆっくりとベッドで休む事を優先した事で、それが却ってストレスを溜める原因になっちまったみたいだし、今夜はパーッとやるとするか。

 メンバー全員にグレッグとした話をすると、皆も同じ気持ちだったのか思った以上に喜んでいた。


 既に遠目に次の街の外壁が見えている。普段なら皆も宿屋の事やその街で仕入れられそうか思いを巡らせてほくそ笑んでたりするのだが、今は別の理由で皆ニヤニヤしている。


 そのまま街の通用門前の通りまで近付いて行くと、門が開いて中から騎士団の姿が現れた。


「あれは……」


「ガーネリアス教会の中央聖騎士団だな」


 馬に乗った騎士が四人。そしてその後に馬車……ではなく二頭の牛が引く牛車が現れた。そして更に牛車の後ろに騎士が二人。


「牛車とは珍しいな」


「あれは罪人の連行だな」


「罪人?」


「ああ。罪人は牛車で移動させるんだ。『牛に引かれて牢獄送り』ってな。そういえばランデールや他の街で見た事が無かったか?」


「ああ、初めて見る」


 近付くとよく分かった。牛が引いていたのは鉄格子の牢が載った荷台だ。

 そして、その牢の中には人影がある。


「ああやって牛車に引かせて見世物にするんだよ……って、良く見りゃアレは女神官(プリーステス)じゃないか?」


 グレッグがその牢の中にいる人影の出で立ちに怪訝な面持ちで声を上げた。確かに見れば牢の中にいるのは神官の装いを纏う女だ。


 歩みの遅い騎士の一行に俺たちの馬車が追いついてしまうと、グレッグが騎士に声を掛けた。


「騎士の旦那。そいつは女神官だろ? 何で牢なんかに入れられてるんだい?」


「何だ、冒険者か? こいつは隠れて獣人種族を治癒したうえ、獣人種族を連れて王都から逃げ出した背教者だ」


「ほう、そりゃ酷い。それじゃあ王都で神判に掛けられるってワケだ?」


「フンッ、神判なんかに掛ける必要はない。中央広場で公開処刑だ」


 騎士の一言に牢の中の女神官がビクッと震えた。


「なるほど……。そういう事らしいぜ?」


 グレッグは意味ありげな面持ちで俺に繋げる。


「オタクらもそれが当然だと思うのか?」


 女神官を連行するらしい騎士たちに聞いてみる。中央聖騎士団として任務に就きながらも『人間中心主義』の在り方に反逆の意を持つ者がいる事は分かっている。

 ならば、この中にもそういう意思を持っていて、反旗を翻す機会を窺っている者がいるかもしれない――と、騎士たちの顔をシッカリと確認する。


「当然だろう! それとも何か? キサマも背教者なのか?」


 この一団の統率者らしき騎士の言葉に、他の騎士たちもこちらに敵意ある形相を向けて来た。なるほど、これは決まりだな。


 俺がグレッグに顔を向けて小さく頷いた刹那、グレッグが御者台から姿を消して前四人の騎士を次々と斬り付けた。そして、俺はその場から牛車の後ろにいる二人の騎士に向かって虚空斬(ブラインドスラッシュ)を飛ばして体を真っ二つに切断する。


 あっという間に牛車の周りが血だまりになり、一瞬のうちに起きた出来事が理解出来ないのか、牢の中で女神官が放心状態になっている。

 牢の側面一画を虚空斬で断裂し、牢の中に入って女神官の前で膝を付く。


「俺たちは『人間中心主義』を壊滅させる為に来た。俺の名はターナス。またの名をタナトリアスと言う。あんたが獣人種族を救出したというのは本当か?」


「……はい」


「あんたが救出した獣人種族はどこにいる?」


「……それは……」


「元騎士団の連中か?」


「……彼らをご存じなのですか?」


「ああ、知ってる。俺たちも亜人種族を救出したいんだ」


「……お願いします。どうか、どうか救出の為にお力をお貸しください!」


 汚れや破れてボロボロになった装いの女神官は、祈るように両手を合わせて身体を牢の床に平伏していた。


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