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第94話 実証実験

※冒頭と終盤の相違を修正しました。

 パイルの個人的な目的であった魔術印符(アミューレット)の購入が住むと、次は本来の目的である食料調達だ。

 ――だ。だが、だ。ここは全てアレーシアとグレッグに任せた。グレッグが同行したのはゲテモノ買いを防ぐ意味もあったけど、そもそもグレッグ自身がゲテモノを嫌っているから問題はないだろう。

 ――で、そのパイルは何をしているかと言えば、購入した魔術印符に魔術を記して発動実験をするとのことなのだが……。


「まず発動したい魔術の術式をここに書き記すんですけど、使うインクによっても影響か出るので注意が必要なんです。通常の黒染インクだと術式を書いてスグの青いうちは発動出来ないんですね。ちゃんと黒くなってようやく発動可能な状態になるんですよ。まあ、スグに使う用が無ければそれでもいいんですけど、なるべく早く使える状態にしておきたい時もあるじゃないですか。そういう場合は通常の黒染インクに、幻魔草という植物から生成した液体を加えた特殊なインクで書く必要があるんです。ですが、その幻魔草ってのがこれがまたなかなか見つからない貴重な植物で――――」


 パイルの知識公開の何かに火が点いてしまったようで、魔術印符の使い方、その歴史、有効性、魔術が発動する理屈、発動しない或いは発動が送れる理由、等々。聞いてもいないし俺が知った所でどうにもならない事ばかりなんだけど、捲し立てるように説明してくれてるワケだ。


「まぁ、そんなワケで多くの魔術師は不安定な魔術印符を使うよりも、きちんと詠唱して魔術を発動する方が合理的、且つ確実ってな事で魔術印符を使う事はあまりないんですよねぇ」


「それなのにパイルは何でそんなにも大量に買ったんだ?」


「そこですっ! まず一つは、実際に使って見たかったって事。そしてターナスさんの魔法で時間経過を進める事が出来るのでは? と思った事。それから魔法を魔術印符に転送する事が出来るか否かを試してみたかった! って事ですね。まぁ、ターナスさんたちと行動してたおかげでお金を貯める事が出来たってのが、一番大きいですけどね」


 なるほど。そりゃ確かに金が無けりゃ実験する事も出来ないもんな。研究熱心なパイルとしちゃ、一番重要な部分だわな。


「それで、どんな実験をするんだ?」


「はい、まずは魔法による時間経過の実験です」


 インクというものはそもそも紙に書き記した時は青いのだが、時間が経過するにしたがって黒くなっていくのが普通だ。ところが、安物のインクだと黒くならない物があるらしく、そうなると魔術が発動しない。魔術の発動には書き記した術式が黒くなってるのが条件なんだとか。

 そこで、パイルが持ってる通常のインク――勿論、ちゃんと黒く変化するものだが、そのインクを使って魔術印符に術式を書き、そこに俺が時間を進ませる魔法を掛ける……って寸法なのだ。


「まだ時間を進ませる魔法って使った事ないんだけどな」


「大丈夫ですよ。ターナスさんなら出来ます!」


 理屈がワカラン。


「それじゃあ、このガンネルト製魔術印符に『浄化』の魔術を書き記しますね」


 魔術を書き記すと言っても、本来は詠唱によるものを術式として書き記すワケなのだが、単に詠唱文を文字にして書くものではないようだ。

 物が浄化される過程と、それを行う精霊への願い、そして発動させるキッカケを図や文字などで形成するのだそうだ。詠唱ってのはそれを言霊にしたものなんだとか。魔術師ってのはそれを覚える為に専門の学校で勉強する。だから金が掛かるんだそうだ。

 頭の中で想像した事を魔法として創り出せる俺は……やっぱり特別なんだな。


 さてと、パイルが術式を書いてる間に少し時間を進める魔法を試してみよう。


 足下に生えてる雑草に向かって、時間の経過と共に成長していく様子をイメージしてみる。そのイメージを保ちつつ、魔力を雑草に向かって放出していく――と、十センチほどの雑草がグゥ~っと伸びてニ十センチ近くまで大きくなった。

 なるほど、時間を進めるってのはこういう事か。これって使い様によっては「肉を熟成させる」とか「発酵食品を作る」なんて事も出来そうだぞ。


「何で草に向かって笑ってるんですか?」


「おわ……っと。なんだパイルか。出来たのか」


「ええ、出来ました」


 魔術印符に書き記した『浄化』の術式を見せると、それを地面に置いて魔法を掛けるよう急かしてくる。


「よし、じゃあ掛けるぞ?」


 さっきの雑草と同じ要領で時間が進む過程をイメージして魔力を放つと、魔術印符に書き記した青い術式が次第に黒く変色していく。


「おお~っ! 変わりましたよ。時間が経過してますね!」


 青かった術式がほぼ真っ黒になった所で魔法を掛けるのを止めると、パイルは魔術印符を拾い上げて自分が描いた術式に顔を近づけてジックリと眺め出した。


「インクはシッカリと黒色になってるから、今度はこれを発動させてみましょう」


 パイルは自分の持ち物のバッグの中から服のような物を取り出して、それを近くに茂っている植物の上にバサッと広げた。魔術印符による『浄化』の対象とするのは衣類のようだ。


「いきますよ。良く見てて下さいね。『浄化!』」


 衣類の上に魔術印符を放り投げて『浄化』と唱えると……唱え……唱えたが……何も起きない。


「むぅ~、これは魔術印符の質が悪いせいですかねぇ……」


「ガンネルト製のは魔術が発動しないことがある――って言ってたっけ」


「ええ。でもそれは『そういう事もあった』って事で、発動が遅いとか効果が弱いって事よりも確立としては低いと思うんですけどねぇ。それだけ品質にバラツキが多いって事なのかなぁ?」


「時間経過の魔法が効いてなかった……って事は?」


「インクが黒くなってますから、それは問題無いはずです」


「それじゃあ、別のガンネルト製でもう一度試して――⁉」


 発動せずに地面に落ちたままの魔術印符を眺めていると、突然発火したかのように白い煙が音もなく発生したので、俺は勿論のこと少し離れて実験の様子を眺めていたハースやシーニャも驚いたようだ。レトルスなんて何者かの攻撃かと思ったのか、一瞬で俺の横まで来てナイフを構えていた。


「……今のは?」


「発動した……みたいですね……」


 魔術印符が跡形もなく消え、代わりに実験台として置いていた衣類が何やら綺麗になっているように見える。

 パイルはその衣類を手に取ってジックリと眺めたり、匂いを嗅いだりして『浄化』されている事を確認したみたいだ。


「成功したのか?」


「う~ん、成功と言って良いんでしょうかぁ。確かに浄化はされてるんですけど、あまりにも発動に時間が掛かり過ぎてますからねぇ……」


 天を仰ぎつつ首を傾げて、実験結果に納得して良いものか否かに悩んでいた。


「でも、綺麗になったんだろ?」


「はい~ぃ。綺麗になりましたねぇ、確かに。けど、あんなに時間が掛かるようじゃ戦闘向けの魔術には使えませんね。まっ、そういう意味では『ガンネルト製は使わない方が良い』という結果を知れたので良しとしましょう!」


 取り敢えず、魔術印符(アミューレット)がどういう物なのかは分かった。確かに使い様によっては戦闘時に長々とした詠唱をせずに魔術を発動出来るという点で、パイルには必需となるだろう。


「ところでパイルさん、それって……」


 実験に使った衣類を指差して、レトルスが何か言いたそうだが言葉を濁して言えずにいるようだが、あの服がどうかしたのだろうか?


「これは私が冒険者になりたての頃に着ていたシュルコなの。動きやすいのと冬場は意外と暖かいので重宝してたんだけど、冒険中に着いた汚れが洗っても落ちなくて、捨てようか悩んでたんだ」


「いえ、その……シュルコの中にもう一枚……」


「もう一枚? ……ヒヤァァァァ‼」


 俺には何のことだかサッパリ分からなかったが、レトルスにはそれが何なのか分かっていたようだ。

 因みに、それが何だったのかはレトルスに聞いても教えてくれないし、パイルに聞いても「忘れて下さい」と言って顔を背けられてしまったので、アレが何だったのかは分からないままだ。


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