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第89話 変身しよう

 獣人種族とドワーフをアトーレの冒険者ギルドに引き渡し、再び転移してメンバーの下に戻る。

 ギルドで<雷光>と引き合わされ協力関係を築いてきた事を説明すると、どうやらグレッグは彼らに興味があったみたいだ。


「アトーレのギルドじゃ冒険者たちからも信頼されてるって話だったよな。どんなヤツラだった?」


「リーダーと神官は人間族だが、他のメンバーは全て獣人種族だ。リーダーと猫獣人族の斥候(スカウト)が幼馴染みだと言ってた。率直に言って、全員行儀良く礼儀正しく全ての冒険者の見本となり得る者たちだったな」


「ほう、行儀良く礼儀正しい……ねぇ。まぁ外面が良いってだけだろうな」


「そう思うか?」


 ちょっと嘲弄的な物言いだが、そんなグレッグを擁護するようにアレーシアやパイルも同調している。


「私たちだって初対面で格上の人に対してはちゃんと礼儀正しくしますよ」

 

 そしてアレーシアまで――


「そうですよ。私がターナス様と最初に会った時だって、ちゃんとしてたでしょう?」


「アレーシアと初めて会った時は、お前ギリギリの状態だったじゃん」


「あれとは別ですよ! あの後ちゃんと……ちゃんと……してました……よね?」


 まぁ、初対面は命からがら追手から逃げていた場面に遭遇して、お互いに敵か味方か分からない状態だったからなぁ。その後は――それなりにちゃんとしてたか。


「何笑ってるんですか⁉」


「いや別に、ちょっと思い出しただけだ」


「そんな笑われるような事してないと思いますけど」


「まぁまぁ、そんな事はどうでもいい。それよりもガットランドに転移する準備をしなくちゃだろ」


 そんな思い出話に花を咲かせてる場合じゃない! どうも緊張感が無いのがこのクランの悪い所……否、寧ろ良い所なのか? どっちにしてもこれから行く場所は完全な敵地になのだし、亜人種族であるハースたちに危害が及ばないよう最善の注意を払う必要がある。


「ハース、シーニャ、パイル、レトルス。この先は『人間中心主義』の地だ。絶対に一人にならないよう気を付けてくれよな。必ず俺かグレッグ、アレーシアの誰かに付いている事。油断するなよ」


「はい!」「ん」「了解です」「承知しました」


 彼女たちに注意を促すが、あくまでも「今まで以上に身の危険がある」という事を肝に銘じさせておくだけで、実際のところは決して俺が手出しを刺せない完全防御な魔法を掛けて守るつもりだ。


「まずは全員に認識阻害を掛けておく。それから転移しよう」


 先程自分がガットランドに行った時と同じ様に、予め認識阻害を掛けてから転移をすれば、転移早々に見つかってしまうような危険を避けられる。


 全員で馬車に乗り込み、馬車ごと認識阻害を掛けてしまう。そして、そのままガットランド側で亜人種族たちを見つけたあの洞穴まで転移をした。


「此処が彼らが隠れていた場所ですか?」


「そうだ。この先に建物のような物が見えるだろ? あれが国境の町の外れにある宿屋だな」


 アレーシアの問いに答えつつ、この場所からは小さく見える国境の町を指差すと、皆もその方向を見て現在地を認識していた。

 この場所自体も認識阻害を掛けているから、仮にガットランドの人間が近くに来たとしても見つける事は出来ないし、何かの時は此処を転移の中継地点として目標に指定しておくといいかもな。


 此処から先は馬車で移動するのだが、そうすると例え認識阻害を掛けていても馬車が通った跡は出来てしまうし、轍を付けないのであれば浮遊させて移動するしかないが、それは効率的じゃない。かと言っていちいち轍を消すのも手間がかかる。だから認識阻害は此処でいったん解除し、この先は通常の冒険者や旅人を装って行くつもりだ。

 ――という事で、レトルスは人間族に変化出来るから別として……ハースとパイル、それとシーニャの三人は頭と尻尾を隠す必要があるよなぁ。


「ターナス、もしかしてパイルたち獣人種族をどう誤魔化そうか……って、考えてたりしないか?」


「よく分かったな。耳や角、それに尻尾を隠せばパッと見は人間族に見えるだろう。だからポンチョのような物を被ってもらおうかと思ってな」


「ターナスが魔法で消す事は出来ないのか?」


「……ん⁉」


 魔法で消す……? 魔法で見た目を変える事が出来れば、ポンチョ等を被った程度のリスクある隠蔽工作よりも確実かぁ。


「あっ、それじゃあ私の角を消してみてください」


 パイルが自分の角を指差して、隠匿魔法のテスターとして立候補を名乗り出るが、そんな実験みたいな事に自己犠牲が過ぎるんじゃないのか?


「ターナスさんが魔法で失敗するってのが、想像つかないんですよねぇ。だから大丈夫ですよ。さあ、やってみてください」


 屈託なく笑いながら俺を信頼してるというパイルの言葉に甘え、まずは彼女の角を見えなくする魔法を掛けてみる。

 頭から完全に失くすのではなく、角はそのまま存在しつつ、誰の目にも見えくすれば良いのだ。つまり――カムフラージュって事だな。


「じゃあ、いくぞ。『透明偽装(インビジブル)』」


 パイルの角に向かって魔法を放つと、頭の両脇にあるクルッと巻き込んだパイルの角が消える。その生え際もシッカリと覆い隠し、元から何も無かったかのように偽装させることが出来た。


「角は見えないが……パイル、自分で触ってみてくれ」


「はい……」


 恐る恐る頭に手を伸ばして、角が有った場所に触れると――。


「おっ⁉ 無い、無いです、ありませんよ、角が⁉」


 戸惑いながら、ペタペタと角があった場所を撫でたり叩いたりして笑ってる。


「実際に無くなったワケじゃないからな。其処にあったという存在を透明化しつつ、何も無いかのように偽装しているだけだ。見る事も触れる事も出来ないが、角自体は其処にあるから安心してくれ」


「いやぁ、これは面白いですね。魔術では他の物に偽装する事は出来ますが、存在を消してしまう……いや、消してるワケじゃないんですよね。見えなくする……触れなくする……つまり……物理的な存在ではなくなって? いや、だから……えっとぉ……」


「パイル、その辺にしとけ。どうせまたあとで魔術で可能かどうか実験するんだろ? その時は付き合ってやるから、取り敢えず今は納得しといてくれ。じゃあ、続けて耳と尻尾を同じ様にするぞ」


 魔術や魔法に関して貪欲で研究熱心なパイルの癖が出てしまったので、兎に角適当に言いくるめて納得してもらおう。じゃないと次に進まん。

 

 そして、パイルの角と耳、そして尻尾を『透明偽装』して見えなくすると、パッと見は人間族として問題無い容姿になった。

 もともと獣人種族とは言っても、この世界の獣人種族は特徴的な耳や尻尾、そして種族によっては有する角を隠してしまえば、ほぼ見た目は人間族と同じなんだからな。多少、瞳に特徴があったり手指に特徴が出たりする種族もいるが、概ねこんな感じだろう。

 パイルに続けてハースとシーニャにも『透明偽装』を掛ける。この二人は耳と尻尾を隠蔽しつつ、髪の毛――と言うか体毛が人間族とは少々異なる毛質なので、布をターバンのように頭に巻き付けて覆ってしまう。魔法で髪の毛を創ることも出来るだろうが、それはまた非常時にでも考えよう。


 そんなこんなで、ようやく本格的な作戦行動の開始となりそうだ。


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