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第87話 最初の救出

 岩面に開いた洞窟の中に五人の獣人族が隠れている。身を寄せ合って怯えている様子なので、人間族から逃げて来て身を隠しているのかもしれない。


 声を掛けてみるか? でも俺が危害を加えないと思ってくれるだろうか。無理矢理入っていっても怖がらせるだけだろうし……どうしたものか。

 取り敢えず、一旦彼らが人間族に見つからないよう隠匿しておいて、彼ら自身も此処から出て行かないようにしておいた方がいいな。


 洞窟の入り口を中心に半径五メートル程に隠匿結界を張って、何者かが近付いても洞窟には気付かないようにしておく。尚且つ、結界は万が一にも彼らが洞窟から出て行けないようにもしておく。


「これで、いったん皆の所に戻るか」


 アレーシアを目標に転移魔法でユメラシアに戻り、ガットランド側での状況を伝えて皆の意見を聞いてみる事にした。


「その獣人族にターナス独りで接触しなくて正解だったかもな。ガーネリアス教あたりから身を隠しているのだとしたら、ターナスを見ても助けてもらえるとは思わないだろう」


「場合によっては自決される可能性もありますからね」


「自決だと⁉」


 予想だにしていないパイルの言葉に、思わず声を荒げてしまった。


「中には生存を諦めて死を選ぶ獣人種族もいるんですよ。まぁ、希少種なので滅多に人前には出て来ませんし、亜人種狩りに捕まる率も相当低いですけど」


 捕まるくらいなら死を選ぶ……確かにあり得ない話じゃないよな。


「――ターナスさん、私とシーニャを連れてってください」


 若干の間をおいて、パイルが手を挙げて自分とシーニャを連れて行くよう進言した。獣人族の女の言葉なら、救出に来たことを信じて貰えるだろうと言う。


「それが無難か……。で、その後はどうする?」


「ターナスの転移魔法は、行ける範囲というか……距離的なものに制約はありそうか?」


「距離……か、どうだろうな。転移出来る範囲に制約があったらどうなんだ?」


「なに、要は距離的な制約がなければランデールまで連れていけるだろってな。尤も、その獣人族が望めば……だが」


 なるほど、ランデールなら冒険者ギルドにでも頼めば保護してもらえるか。ならば今のうちに試してみた方がいいな。

 グレッグに言われるまで気にもしなかったが、予め何処まで転移可能なのかを知っておいた方が、イザという時にも安全に転移出来るだろう。


「ちょっと行ってみる」


 軽く皆に言って、ランデールのアトーレの街まで転移を試みた。


 ――――結果


「行けた行けた! アトーレまで転移可能だ」


 アトーレの冒険者ギルドを目標にして転移を試みると、シッカリとギルドに転移する事が出来た。それも転移した場所はギルド二階の応接室だ。

 此処まで来たついでなので、そのまま支部長室に向かってゴーランに話を付けてきてしまった。


「流石にゴーランも驚いていたが、救出すれば責任を持って保護してくれるそうだ。あそこなら俺達とも縁が深いし、信頼出来るだろう」


「確かに、アトーレ支部なら大丈夫かもしれませんね」


 アレーシアをはじめ皆も同じ意見だった事もあり、このままパイルとシーニャを連れて獣人種族の救出に向かうとしよう。

 パイルとシーニャを俺の両脇に添え、二人を抱きかかえるようにして転移する。



  ***



「ここですか……」


 ガットランド側の洞窟前に転移すると、キョロキョロと辺りを見渡してパイルが呟く。シーニャはスグにスンスンと鼻を鳴らして匂いだか気配だかを感じ取っていた。


「この洞窟だ。十メートル……あぁっと、十五、六歩ほど行った所だ」


「それじゃあ、私とシーニャで声掛けするので結界を解いてください。それと、念の為広い範囲で結界を張って貰えますか」


「わかった」


 洞窟周辺の隠匿結界を解いて、新たに広範囲でこの場所を包むように結界を張ると、パイルとシーニャは洞窟の入り口に近付いて中を覗き込む。

 入口から奥までは真っ直ぐではなく、多少湾曲しているので奥までは真っ暗で何も見えないが、徐にシーニャが振り向いて頷いた。感知したようだ。


「あー、あー、聞こえますかぁ? 私は羊獣人族の者です。救出に来たのでお返事してください」


 洞窟内にパイルの声がこだまする。耳を傾け返事を待つが……返って来ない。


「此処にいるのは承知してますぅ。私たちはランデール領から来た獣人種族でぇ、捕らわれている亜人種族を救出する為にこの国に来たので、安心してくださぁい」


 ジッと耳を澄ますが返事がない。

 岩面に手を当てて『千里眼(クレヤボヤンス)』で獣人種族が聞き耳を立てているのは確認出来るのだが、そこから動く気配は無く、どうするべきかの相談さえしている様子も無い。


「ちょっと行ってくる」


「えっ?」「ちょっ、シーニャ」


 俺とパイルが顔を見合わせて思案していると、痺れを切らしたのか徐にパイルは洞窟の中に入って行ってしまった。


 再びパイルと顔を見合わせた後、パイルは聞き耳を立て、俺は『千里眼』で内部を覗き、いつでも動けるよう警戒態勢を取る。

 だが――


「シーニャが接触したようだ」


 シーニャは声を掛けながら近付いていたようで、シーニャが近づくに連れて獣人種族たちはジリジリと引き込んでいたが、目の前まで来ると逃げられないと悟ったのか、やや大き目な石を手に持ってシーニャに投げつけようとしている。


 『束縛(バインド)』を掛けようかと思ったその時、シーニャが素早く石を持つ獣人種族の手首を掴んで制止した。

 そのまま何かを話しているので、こちらの事情を説明しているのだろう。


『シーニャ、パイルをそっちに行かせても大丈夫か?』


 念話で聞いてみるとシーニャはビクッとした後、誰もいないはずの後ろを振り向き首を傾げた。そういえば念話と言っても一方通行で俺からしか伝えられないから、メンバーに送った事はなかったんだっけ……。


『シーニャ、パイルがそっちに行っても大丈夫なら頷いてくれ』


 俺からの念話だと理解してくれたようで、ウンウンウンと何度も首を縦に振っている。あとで皆に念話が送れる事を言っておこう……。


「パイル、シーニャの所に行ってくれるか? パイルの姿を見れば彼らもシーニャの他に獣人族がいると分かって安心するかもしれん」


「なるほど、了解です。では『光の精霊よ集い照らせ光源(ライト)』」


 魔術杖(マジックワンド)の先端を光らせて照明を作り、洞窟の中へ入って行くと、スグにシーニャと合流した。

 獣人種族たちはパイルの姿を見てようやくシーニャの事を信じたようで、洞窟から出る事に同意したっぽい。


 念の為、二人が後ろから襲われないよう警戒しておくが……杞憂だったか。

 洞窟から出て来た獣人種族をよく見ると、猫獣人族が二人に兎獣人族が二人。そしてもう一人はドワーフだった。

 洞窟の外で待っていた俺を見て彼らは一瞬ビクッとしたが、シーニャに顔を向けるとシーニャは黙って頷き、それを見て彼らの表情も幾分和らいでいた。


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