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第86話 斥候ターナス

 街道沿いの適当な場所で夜を明かし、早朝には動き出してガットランドとの国境までやって来た。

 国境まで――とは言っても少し離れた場所から様子を見ているのだが、レトルスの言った通りガットランドはユメラシアとの国境を城壁で遮っていて、街道から少し離れた場所に検閲所という物流主体の通用門を備えているだけだった。


「検閲所の脇にある小屋が検閲官か何かが待機している処だな?」


「はい、その通りです。こちら側には魔王国の番兵が、ガットランド側にはあちらの番兵がいるはずです」


「魔族がガットランドに物資を持って入る事は?」


「おそらく、無いと思います。ガットランドはご承知の通り『人間中心主義』ですから、魔族を含め亜人種族が入国する事はほぼ無いはずです。ですから検閲所が売買所も兼ねているので、ほぼあの場所で完結しているかと」


 物資はユメラシアとガットランドの双方で検閲しているはず。そこに人流が無く物資だけが流通されているのならば、その物資の中に亜人種族を隠している可能性が高いが、それを魔族が見逃すはずがない。

 だとすれば――


「検閲所の魔族はどんなヤツが担当しているんだ?」


「申し訳ございません。そこまでは分かりません……」


「ああ、いやスマン。謝る必要はないんだ。レトルスだってそこまで知る術が無いものな」


「あの、ターナス様。もしかしたら、魔族の番兵も亜人種族の拉致に関与してる可能性があるのでは……?」


 アレーシアも話の流れから気が付いたようだ。


「俺もそれを思ったんだ。あの検閲所以外に城壁を越えられる場所があるのなら兎も角、現時点ではあの場所しか選択肢が無い。だとすると検閲所の魔族は傭兵ギルドと関わりのある者か、傭兵ギルドに買収されているかが考えられる」


「だとしたら……どうする?」


「私たち獣人族のメンバーで囮になりましょうか?」


「いや、ダメだ」


 グレッグの問いにパイルが囮作戦を提案するが……それは気が進まない。


「いっその事、殴り込んで強行突破しましょうか?」


 アレーシアが無謀とも投げやりとも思える提案を出したが、俺とグレッグは即座に返答出来ずに、思わず顔を見合わせて是非を問う。


「強行突破をした場合、ガットランドに入るのは簡単だ。だがその後どうする?」

「ガットランド側の検閲所の周りがどうなってるかが問題だな」

「こっちみたいに人気が無い場所なら良いが、ある程度賑わっている場所だと大騒ぎになるだろう」

「後者だとした場合、騒ぎを切り抜けるにはどうすればいいか……って事か」


 矢継ぎ早に思った事を口にしてみるが、だからと言って妙案が浮かぶワケでもない。ただ、何故か強行突破という案が一番シックリ来るので、俺もグレッグも強行突破前提で考えてしまっているワケだが……。


「えっと、私から提案していいですか?」


 最初に自分が囮になる作戦を提案したパイルだが、他の良い案が浮かんだのだろうか。それにしては些か疑問を抱えたような表情をしているのが気になる。


「ああ、言ってみてくれ」


「取り敢えずターナスさんが一人で強行突破しませんか? ターナスさん一人なら、どちらの番兵にも気付かれないで擦り抜けるとか……出来ませんかねぇ?」


「その程度は全く問題無いけど……俺一人で行って、その後は?」


「向こうへ行ったら、また同じ様にこっちに戻ってきてくれればいいんですよ」


「……それで?」


 俺は勿論だが、他の皆もパイルが何を言ってるのか……何をやろうとしているのかが理解出来なくて首を傾げてしまっていた。


「戻ってきたら今度は皆を連れて転移すれば、検閲所を通らなくても城壁の向こう側へ行けるじゃないですか」


 盲点――――否、完全に忘れてた。俺が転移する場所さえ認識出来れば問題ないのだ。だから俺一人で番兵に気付かれずガットランド側に入れればいいって事か。


「なぁターナス、何でお前がそれに気付かないんだ?」


 若干、グレッグが呆れた感のある口調で言うのだが――――


「あ、いや……だってほら、転移魔法で全員を連れて転移したのって、ハルピュイアのあの森から脱出した時だけじゃん。それ以外だと自分一人で転移してるだけだから、つい忘れちゃって……と言うか、だったらお前だって思い出せよ」


「いやほら、俺は当事者じゃないし」


「当事者だろう! 実際に関わってんだから!」


「醜いです! ターナス様もグレッグさんも(なす)り付け合いは止めましょう」


「お、おおぅ」「oui(ウィ)


「ターナス様、『うい』って何ですか? ちゃんと返事してください。ハースの教育上良くないですよ」


「……ああ、スマン」


 アレーシアめ、こういう時ばっか常識人ぶりやがって。そもそも強行突破を言い出したのお前だろ!


「それじゃあターナスさん、そんな感じで大丈夫でしょうか?」


「ああ問題無い。パイルの案でいこう」


 ――というワケで、俺が認識阻害を使って検閲所をスルーしてガットランドに入り、あちらの目立たない場所に目星を付けておいてユメラシアに戻ると。そうしたら皆で馬車ごと転移させて再びガットランドに潜入するという方法をとる事にした。


 認識阻害を掛けて検閲所に向かうが、勿論魔族の番兵は全く気付く事無く、暢気に雑談をしている。


 念の為……というか、ついでなので検閲所の中を探ってみると、そこには学校の教室ほどもあろうかという広い部屋があった。おそらく此処で積荷を検閲しているのだろう。場繋ぎの馬留が数カ所設置されているので、馬車は荷を載せたままで馬だけを入れ替えて通過させているのかもしれない。

 隅に木箱が幾つか置いてあるので中を覗いてみると、この場にはやや不釣り合いな豪華な装飾が施された剣や武具が入っていた。

 この手のは大抵、番兵が抜き取った横領品だったりするんだよな。


 ザっと見た感じではその程度で、亜人種族に関するような物は見つからなかった。まぁ、証拠になるような物を残しておくワケがないか。


 結局、検閲所内では大した収穫は得られないままガットランド側に出て行くと、そこは人里離れたユメラシア側と異なり、漠然としてはいるが市場のような雰囲気があり、行き交う人々の姿も多くあった。


「ほう、これは暴力的な強行突破をしなくて正解だったか」


 よくよく見てみれば、並べられた商品と思しき物を示して会話をしているのは、どちらも商人のようだ。そして、そんな商人風の人々の中に武装した男の姿がちらほらと見える。


「検閲所にいたガットランドの番兵と似た風貌だな。という事はガットランドの軍人なのか……」


 人波を避ける――と言う程ではないが、それなりの雑踏を抜けて市場の外れまで来てみると、そこは数軒の宿屋らしき建物があるくらいで、その先には街道が延びていて周囲には何も無い風景が広がっていた。

 どうやら此処は国境での取引を商売にしている者たちの町になっているようだ。


 それなら此処から見える少し先の方まで転移魔法で移動して、周辺の様子を窺ってみるとしよう。人の往来が無い場所なら、全員が転移しても気付かれずに済む。


 賑わっている場所から離れた所に木々が茂る小さな林が見えるので、そこへ転移してみると微かに人がいる気配が感じられた。


 認識阻害はそのままに探知能力を広げて探ってみると、林の少し奥まった所に五つの点が確認できる。何者かが五人、一カ所に固まってじっとしているようだ。

 そのまま感知した点に向かって歩いて行くと、木々で覆われているが山肌にゴツゴツとした岩面が見え、そこに洞窟のような穴が開いているのが見える。五つの点はその中だ。


 岩面に手を当てて中の様子を『千里眼(クレヤボヤンス)』で探ると……そこには息を殺し寄り添い怯えた様子の獣人族の姿があった。

 

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