第84話 反撃部隊編成
「アレーシアですが、よろしいですか?」
「ああいいぞ。入ってくれ」
今度はアレーシアか。彼女も戦力として何か行き詰っている事があるのだろうか。
「どうした?」
「あの強化して頂いたショートソードなんですけど、火炎魔法を付与して頂くことって出来ますか?」
「火炎魔法か。出来るけど……そっちの方が良かったって事?」
「いえ、そういう事ではないのですが……」
何やら言い難そうに目を逸らして口籠っている。アレーシアには雷撃魔法と相性が良くなかったのだろうか。
「いいよ、ハッキリ言ってくれ。雷撃が使い難いのなら無理する必要はないし、火炎魔法の方が良ければそうしよう」
「あ、いえ、使い難いというワケじゃなくて、グレッグさんと被るので別の魔法攻撃の方が良いかなぁ~って思ってですね」
「……ああ、そういうコト」
何ともアレーシアらしいっちゃアレーシアらしい理屈か。
ただ、そう言われてから思ったが……同じ魔法攻撃だとそれが効かない相手だった場合に詰まる可能性がある。ならば別の魔法を付与した方が、何かあった場合に勝率が上がるのではないか……と。
「そもそも金剛石並みの硬さと、あり得ないほど鋭利な刃なので、物理攻撃の武器としてはこれ以上ないくらい素晴らしい物なのですから、それに関しては全く問題なんて無いんですよ。ただ、万が一にグレッグさんの雷撃剣が効かない敵が現れた場合に、別の魔法剣の攻撃手段があるといいのでは? とも思ったワケでしてですね」
おっと、なんだアレーシアもそう考えていたのか。
「ああ、了解した。今持って来てないなら、出立する前に改めて施術しておこう」
「ありがとうございます。では、失礼」
随分とあっさり……いや、まぁアレーシアも色々考えてるって事だな。なんだか嵐が過ぎたみたいで休んだ気にならないな。
横になる気も失せてしまったので何気に窓の外を見てみると、オータスが衛兵たちに向かって話をしているところだった。あれが志願した衛兵たちだろうか。
聞こえはしないし、敢えて地獄耳を立てて何を言ってるのか聞くこともしないが、腕を振り熱弁している姿と、そんなオータスに向かって真剣な眼差しで微動だにせず話を聞いている衛兵たちには「トラバンストからこの国を守りたい」という意思が窺える。
オータスが何かを告げると、一人……また一人と、幾人かの衛兵がその場から立ち去って行った。
「命令を守ることの出来ないヤツ等……か」
おそらく「命令違反を犯すと必ず死ぬ」との言葉を聞いて尻込みした連中だろうが、命令はあくまでも「敵以外に危害を加えるな」という単純明快なものだ。それが守れない衛兵など害悪にしかならん。自ら立ち去ってくれるのはありがたいが、逆に立ち去った連中は今後何らかの違反を犯す可能性のある要注意魔族という事になるし、ちょっと抑制しておくか。
立ち去る衛兵に向かってターゲットポイントを付けたうえで、命令違反を犯した場合のペナルティとなる魔法を掛ける。
「取り敢えず……手足を拘束する程度でいいか」
命令違反を犯した場合、束縛が発動して身動き出来ないようにする。その後の処理は軍に任せればいいだろう。
衛兵として従事している者がどの位いるのか知らんが、相当な数が集まっていたにも関わらず……今はザっと数えて七十名程度になっている。
一国の侵略軍に対して立ち向かう人数としては少なすぎるが、絶対に傷つく事のない無敵の精鋭と考えるならば、敵が十倍の数であっても問題は無い……はず。
ただ、残った連中の三分の二ほどは他の衛兵と異なり、ある種独特な雰囲気が感じられた。
残った七十数名に向かってオータスが更に何かを告げている。まぁ、ああいう時に話す事なんて在り来たりの訓示くらいなもんだろうけどな。
すると、また扉がノックされ――――
「入るぞ、ターナス」
「おお、グレッグ。どうかしたか?」
「窓の外で――って、やっぱり見てたのか」
どうやら外の様子を伝えに来たようだ。
「七十人ほどが残ったようだな。衛兵なら素の実力もそこそこあるだろうし、あれなら何とかなるか」
「あそこにいる衛兵は二十人程度らしい」
「二十人? それじゃあ他の連中は……」
「魔王軍の特務軍団だってよ」
「なんだ、それは?」
グレッグによれば魔王軍には特務軍団という組織があるそうで、時にはラダリンス教の騎士団とも協力してガーネリアス教と対峙する事もあるらしい。
所謂軍隊でいう所の特殊部隊なのだろうが、特徴的なのは軍団員が全てヴァンパイア族で形成されていて、その軍団を統べているのもヴァンパイア族の真祖である最上級の魔族であるらしい。
「そんな事、よく知ってるな」
「特務軍団については以前から噂だけは聞いていたからな。兎に角恐ろしく強くて冷酷無比であり、命令を成し遂げるまでは絶対に作戦を中止する事は無いとか。もし自分が助からない状況であれば、必ず敵を巻き添えにして死ぬ……とかな。あの連中を見ていてそんな事を思い出していたら、小間使いに来た衛兵が『特務軍団が出てきましたね』って言ってさ。『やっぱりそうか』って思った次第なワケさ」
成る程、感じた異様な雰囲気ってのはその為か。
「それにしても、そんな軍団が何故この師団にいるんだ? ここも彼らの所属部隊になるのか?」
「いや、それは知らん。大きな街とはいえダグジール程度の街に常駐する事はないとは思うけども、魔族と人間族とでは軍隊としての考え方も違うかもしれんしな。ま、俺達にとっては都合が良かったと思えばいいだろ」
確かに、別に魔王軍の構成なんて俺達には関係ない話だし、知ったところでだから何だ? って話だが……。
そんな話をグレッグとしながら一緒に窓の外を眺めていると、オータスが何かを指示して一人の兵士を走らせた。
「タナトリアス様、オータス師団長が中庭にお越し頂きたいとの事です」
あれは俺達を呼ぶためだったか。
「承知した」
返事をしてからグレッグと共に、メンバーたちが休んでいる部屋を一つずつ回って呼び、全員揃ってオータスのいる中庭に向かうと、彼は目の前の兵士たちに俺達の紹介を始めた。
「この方が亜人種族を人間中心主義から解放してくださる、タナトリアス様であられる。そして、こちらの方々はタナトリアス様の盟友<不気味な刈手>の皆様であられる。皆にも伝えた通り、国境での戦闘では我が軍は大変苦しい状況に置かれているが、それを打破する為に志願してくれたのが皆だ。そして、これからタナトリアス様より皆に強化魔法を掛けて頂く。それについての注意事項は先に告げた通りであり、皆はそれを承諾してくれた魔王軍の誇りだ」
今更講釈はいい。既にその条件を飲んだ者が集まってるんだし、俺達は早く次に進みたいんだっての。
「師団長、そのくらいでいいだろう。状況は急を要する。スグに始めよう」
「はっ、よろしくお願い致します」
オータスは恭しく一礼すると、その場から数歩下がって魔王軍の兵たちを見渡す。そんなオータスの姿を見て兵たちも一段と気が引き締まったのか、少し緊張の色が窺えた。
「これから掛ける魔法の条件については既に聞いていると思うから一々説明はしない。今から全員に『絶対的身体防護』を掛ける。絶対に命令違反は犯すなよ。それだけだ」
そうして、条件を飲んだ魔王軍の切り札となる精鋭たちに「命令遵守であり逸脱した場合は即死」となる条件付き『絶対的身体防護』を掛ける。
これから衛兵と特務軍団の精鋭たちには、模擬戦闘を行って効果を実感してもらう。そうして効果に疑いを持たなければ、最初から思い切って暴れまくる事が出来るだろう。
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