第82話 グリムリーパー合流
魔王軍ダグジール師団の駐屯所を襲撃していたオーガ族を一掃し、所々に散らばっていた兵士たちが戻ってきた。
俺達も衛兵と一息入れてると、少しざわつく一角があった。
「何かあったか?」
「確認しましょう。ジーガス曹長! あの騒がしいのは何だ?」
「師団長殿がお見えのようです」
一緒にいた衛兵の士官が部下を呼び訊ねると、ダグジール師団の師団長が外に出て来たらしいとの事で、この士官も俺に断りを入れてから慌てて騒ぎのする方へと駆けて行ってしまった。
「師団長か。労いの言葉でも言いに来たのか?」
グレッグが少し皮肉を込めた言い方で呟く。そりゃ師団長なのだから直接現場に出て来ることは無いだろうと思うが、一般兵の体たらくを見た後では文句の一つも言いたくなる気持ちも分からなくはないけどな。
程なくして、先程の士官が師団長と共に俺達の前にやって来た。
「魔王軍ダグジール師団師、師団長オータスと申します。この度は反乱オーガ族の討伐に助力頂き、誠に感謝申し上げます」
「クラン<不気味な刈手>のグレッグだ。そしてこっちがタナトリアス。死神タナトリアス様だ」
――お前、呼び捨てにするか敬称付けにするか統一しろよ。
「タナトリアスだ。ジグラルダル師団のガーハイム師団長からオーガ族の反乱が起きたと聞いてな。ガイールで傭兵ギルドのオーガ族を処罰した経緯から、その報復だと考えて討伐が必要だと思っただけだ」
「ガイールの傭兵ギルドが亜人種族を攫いガットランドに売っていたとの話は聞いております。オーガ族の反乱は逆恨みでありますし、魔族としても許されるべき事ではありませんので、タナトリアス様とお仲間の方々には謝罪と御礼の両方を申し上げなければならないくらいで――」
「それはもういい。兎に角、まだ他の場所で暴れてるオーガ族はどうなってる?」
「そちらは先程、衛兵団が制圧したとの報告を受けました。これで反乱オーガ族の制圧は完了となります」
そうと分かればハースたちの無事も確認したい。
「まずは俺達の仲間と合流したい。全員が揃ったところで改めて師団長と話がしたいのだが……構わないな?」
「ハッ、それでは軍の馬車をお使い下さい。すぐにご用意させて頂きます」
オータス師団長が部下に命じて馬車を用意させている間、探索能力を広げてハースたちの居場所を確認する。街外れで大勢の者と一緒にいるようだが、おそらく避難させた住人たちだろう。
場所さえ分かれば転移魔法で行けるし早いのだけど、ここは師団長の顔を立てて軍の馬車で移動するとして、合流後に師団まで戻る為の道案内役として衛兵を一人付けてもらう事にしよう。
師団長から街の地図を借り受けてから馬車に乗り込み、御者をしてくれる衛兵にハースたちの居る場所を地図上で示して出発する。
馬車だと駐屯所からは少々大回りになるが、道すがら街の被害状況を見てみると、軍や自警団の詰所があった場所は軒並み破壊されていた。それと、周りには被害が無いのに一軒だけ出入口が破壊された建物があったが、衛兵によるとそこは傭兵ギルドのジグラルダル支部なのだと言う。
オーガ族は傭兵ギルドでも一悶着起こしたのだろうか。
一般の家屋や商店にも幾らか被害はあったようだが、幸いにも死傷者は出なかったとの事なのでそこは少し安心した。
軍の馬車と見るや街路にいる人々はスグに道を開けるので、然程時間もかからずにハースたちの居る街外れに到着し、馬車を降りて避難所となっている建物の中に入るとスグに俺を呼ぶ声がした。
「ターナス様!」
「ハース、無事だったか。ケガはしてないか?」
「はい、大丈夫です。魔族の皆さんも誰もケガしてませんよ。パイルさんもシーニャ姉さまも大丈夫です」
ハースの笑顔を見てホッとすると、一気に肩から力が抜けていくのが感じられた。どうやら自分でも無意識のうちに緊張していたみたいだ。
「ターナ……タナトリアス様、一般魔族避難者八十三名、一人の負傷者も無く保護致しました。私たち三名も問題ありません」
「ありがとう、パイル。世話掛けたな」
「とんでもない! 正直なところオーク族と対峙するよりこっちの方が良かったですよ。私の魔術じゃどこまで通用するか分からないですからね」
報告する時は敬意を表した口調だったが、スグにいつもの口調に戻った。
まぁ、パイルの魔術でもそれなりの戦力にはなると思うが、それでもパイル自信にとってはこれが本音だろうな。
「シーニャもありがとうな。ハースの面倒見ながらは大変だったろう?」
「ん、問題無い。そんなの織り込み済み」
三人の無事を確認した後、避難者たちに反乱オーガ族を殲滅したことを説明し、帰宅出来る者はそのまま帰宅し、住居に被害が及んでいる者は軍の指示に従うよう伝える。
この場にいる衛兵たちにも、住む場所を破壊された住民に対して早急に保護と援助をするよう促す。万が一放置したり滞ったりした場合は「死神の名の下に処罰する」と言うと、直立不動で最敬礼しながら早急に対応する旨を公言した。
駐屯所に戻るにあたり、俺とグレッグとハースは軍の馬車に乗り、他の皆は俺達の自前の馬車に乗ってダグジール師団に向かう。
ハースがこっちの馬車に乗ったのは、単に俺がハースから今までの状況を聞きたかったからなのだが……結局、ハースは興奮するとほぼオノマトペでの説明になるので、正直半分以上は理解できなかった。でもそれがいつものハースと変わらない姿なので、それが何よりも一番の安堵だったりするんだよな。
駐屯所に着くとそのまま応接室に案内され、そこでようやく落ち着いてオータス師団長との話し合いとなった。
「改めて、タナトリアス様、及び<不気味な刈手>の皆様。ご助力頂けたことを心より感謝申し上げます」
「ああ、それはもういい。俺の方から聞きたいのは魔王軍の一般兵士についてだ。一般兵の戦闘能力の低さはどういう事だ? 衛兵はもとより、自警団だってもっと戦力として役に立ったのに、ここの一般兵の戦闘力は魔王軍と思えないほど低かった。それについて教えて欲しい」
「はい。現在ユメラシア魔王国はトラバンスト聖王国からの侵攻を受けている事は御存じかと思います。国境付近ではかなり激しい戦闘が行われておりますが、人間族の魔術に圧倒されているのが実情です。最近、トラバンストは強力な攻撃魔術を開発したようで、前線に赴いていた精鋭部隊がほぼ壊滅状態になったとの報告を受けております。その為、兵士が不足し徴兵を強いたのですが……訓練も儘ならないうちに前線への増援命令が来る始末で……」
オータス師団長も拳を握り締めて苦々しく語る姿を見ると、彼自身も軍の現状に憤りを感じているようだ。
「このままでは魔王軍は自滅するぞ。上層部はどういうつもりなんだ?」
「現在、軍の指揮を執っているのはジガラス将軍なのですが、あの方は前魔王様の側近でありましたが、現魔王様の体制になってからはほぼ軍部を独裁しており、魔王様が何か申しても『任せていればいい』と言って聞く耳持たないのです」
「現魔王は将軍を更迭する事が出来ないのか?」
「はい。正直申し上げて現魔王様はまだお若いため、なかなか重鎮からの信頼を得られないと言いますか……蔑ろにされていると言いますか……」
つまりはお飾り状態の王であって、実際には前魔王からの重鎮が好き勝手やってるってワケか。
「そこで提案なんだが、ここにいる衛兵の精鋭を前線に送ってみないか?」
「は? それは一体どういう事で……」
このままでは俺たちがガットランドに行ってる間に魔王国はトラバンストに負けてしまう。ここはグレッグの案を使ってトラバンストの勢いを削ぐのが最善だろう。
俺はオータス師団長に『無敵の衛兵部隊』を編成する事を提案した。
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