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第81話 魔王軍の実情

※文章のおかしな部分、及び誤字を修正しました。

 味方を下がらせ、威力が強すぎるので使用は控えようと思っていた雷撃魔法の『雷電撃射(サンダーボルト)』を撃ち込む。

 その衝撃と辺り一面に舞う土煙が薄れて視界が晴れて来ると、巨大なクレーターが駐屯所の敷地内に現れた。

 魔王軍の衛兵たちはそのクレーターを言葉無く見つめている。そして、その巨大なクレーターの中に点在する黒く炭化した物体が、たった今まで自分たちが苦戦しつつ対峙していたオーガ族であるとスグに理解できたようだが、何故か彼らの顔は安堵というよりは恐怖に青ざめている感じだ。


「タナトリアス様……これはタナトリアス様の魔法なのですよね?」


「ああ、そうだ」


 クレーターに目を向けたまま問い掛けて来るレトゥームスに答える。


「このような巨大な攻撃魔法があるなんて……」


「これは一つの巨大な魔法じゃなくて、オーガ族一人一人を狙い撃った雷撃魔法の集合体というか……」


「魔法の種類はどうあれ、ターナスさ……タナトリアス様の魔法は最高位の高魔術師でさえ作り出せないような度を超えた魔法なんですから、あまり派手にやると魔導協会に目をつけられるかもしれませんよ。まぁ、魔術ではなく魔法なので魔導協会も表立ってとやかく言って来る事はないでしょうけど」


「魔導協会? そんなものがあるのか?」


 レトゥームスは俺の雷撃魔法の威力に驚いたようだが、アレーシアは少々呆れ顔をしながら忠告? をしてきた。


「魔導協会というのは【魔術に関する研究】という名目の協会です。新しい魔術の開発や流布が目的らしいです」


「魔術の開発なのに魔術協会じゃないんだ? 魔術と魔導の違いって何なんだ?」


「知りませんよ」


 ……言い方ァ!


「取り敢えず……魔導協会に目をつけられると面倒事が増えるのかな?」


「おそらく、パイルのように研究熱心な魔術師(・・・・・・・・)が『教えろ、教えろ』と集まって来るでしょうね」


「それは……パイルだけで十分かな」


 パイルに魔法を教えるのは嫌いじゃないし、寧ろ楽しいくらいだ。だが、それはあくまでもパイルだからであって、魔術師なら誰でもいいってワケじゃない。どこの誰とも分からん魔術師に俺の魔法を教える義理は無いってもんだ。


「タナトリアス様、この魔法は私にも使う事は可能でしょうか?」


 やはり魔法を使える魔族としては、レトゥームスも気になるか。


「雷撃系統の魔法が使えるか?」


「今のところ『稲妻衝撃弾(ライトニングショット)』なら……」


「少しずつ威力を増す練習をするといい。あとはそれを撃ち込むだけの魔力を蓄えることだな。俺も手伝うから、そのうち練習しよう」


「はいっ! ありがとうございます‼」


 素直だ。本当に素直だ。アレーシアも見習ってほしいものだ。


「タナトリアス様」


「お……おう。なんだ?」


「グレッグさんが来ました」


「ああ、そうか」


 ドンピシャなタイミングで呼ぶんだもんなぁ、アレーシアってば。俺の心を読んだのかと思って焦ったじゃねぇか……。

 それはそうと、グレッグの方は大丈夫だったんだろうな。


「終わったぞ、タ――――ァナトリアス。それにしても……またやっちまったのか?」


「ちょっと敵が多かったのと、魔王軍があまりアテにならなかったもんでな」


 クレーターを横目で見て状況を察したグレッグは、流石に二度目となると驚きはしないが少し苦笑している。


「俺も魔王軍の戦力には疑問を持ったんだが、一般兵士の弱さは酷いなんてもんじゃないぞ。衛兵はそれなりに戦力になってるのに、一般兵士はまるで素人同然だ」


「レトゥームスは何か理由は分かるか?」


「申し訳ありません、私にも一体どうしてなのかさっぱり……」


 レトゥームスだって軍の事までは知らなくて当然か。それにしてもグレッグの言う通り、一般兵は多少戦闘行為が出来る素人といった程度の者ばかりで、とてもじゃないが軍隊の兵士とは呼びたくないほどの連中ばかりなのは何故なのだろうか。


「タナトリアス、取り敢えず軍の連中と合流しよう」


「ああ」


 後退させた軍の衛兵たちの所に行くと、彼らも疲れているはずだが直立不動で俺達を待っていた。


「タナトリアス様、そして<不気味な刈手(グリムリーパー)>の皆様、心より感謝致します」


「礼はいい。皆もよく頑張ってくれた。それよりもオーガ族が暴れてるのは此処だけじゃないだろう? 他の状況はどうなってるんだ?」


「ハッ! 現在残りの反乱オーガ族はダグジール東のカラント村方面にいますが、そちらにはダグジール第三衛兵団が対応しております。特異個体はいないとの事なので、制圧は時間の問題かと思われます」


「そうか。なら一つ聞いておきたいのだが……魔王軍の兵士はどんな訓練をしているんだ? 入隊の選考基準も知りたい」


「それは……。正直申し上げまして、現在魔王軍は兵士不足の為に徴兵を強いております。尚且つ、一般兵は新兵訓練もそこそこに前線へ送られているのが現状でして、それがあのような無様な姿を晒す事態に……」


 衛兵を纏めていた士官の一人が、心苦しそうに実情を話し始めた。

 魔王軍兵士の不足は、トラバンスト聖王国の侵攻による国境地域での戦闘で、多くの兵士が死んだのが原因らしい。聖王国騎士団は魔族の魔法に対する防御魔術を徹底した上で、強力な魔術攻撃の手段を打ち出して魔王軍に甚大な被害を齎したのだと言う。


「国境での戦況は思わしくないのか?」


「現在は各地に点在する特務兵を送った事で膠着状態が続いていると聞いてますが、戦況を一転させるにはおそらく我々衛兵も前線に行く事になるでしょう」


「衛兵が街を空けてどうするんだ⁉ 街の警備は誰がする?」


「自警団に任せる事になるでしょう」


 これは想像以上にマズい状態だな。トラバンストに攻め入られれば魔族だけじゃなく、魔王国内のあらゆる種族が危なくなる。俺達がガットランドに行って捕らわれている亜人種族を救出している間に、魔王国が壊滅状態になってはランデールに戻るのも儘ならなくなってしまう……。


 暫し考えていると、ポンと肩に手が置かれた。


「信頼出来る衛兵に限って『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を掛けられないか?」


 他の者には聞こえないよう小さな声でグレッグが耳打ちしてくる。衛兵に『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を掛けるとは?


「『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を掛けた衛兵ならば、少ない数でも聖王国騎士団を抑え込む事が出来るんじゃないか? ただ、ほぼ無敵状態になれるのは敵に回った時に厄介になる。だから本当に信頼出来る衛兵のみになるが――」


「そもそも『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』は時限式だ」


「……と、言うと?」


 グレッグは分かっていなかった様だが、『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』は永遠に効果が続くワケじゃない。一定の時間が経過すると切れるように施しているのだ。

 その事を説明するとようやく理解したのか、今まで『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を掛けられた後で解除された事が無かったことに気付いたようだ。


「それに、最前線に向かう衛兵に対しては時限式だと問題がある。前線までどの程度時間が掛かるか分からないし、万が一だが前線に着く前に逃亡されたとしたら……。一定時間で解除されるとはいえ、その間に脱走して野盗のようにでもなられたら一般市民が危険だ。そんなヤツはいないと思いたいが、絶対にいないとは言えないだろう?」


「……確かにな」


 『絶対的身体防御』は一定時間不死身の身体を齎してくれるが、それを悪用されては困る。その事を危惧していると、グレッグがポツリと呟いた。


「命令に背いたら死ぬ魔法を掛けたら……」


「どういう事だ?」


「ん、ああ。ほら、ガットランドの連中に命令以外の事を喋ったら死ぬ魔法を掛けたじゃないか。あれと同じ様に悪意ある行動を取ったら死ぬ魔法を掛けるのはどうかな……ってな」


「……なるほど、それはイケるかもな」


 戦地に赴く衛兵にしてみれば、敵との戦闘以外で死ぬ事があるワケだからたまったもんじゃないだろうが、そもそも悪い事しなければいいだけの事だからな。グレッグの考えを採用するのも悪くない。


 そんな事を考えていると、何故か俺とグレッグの表情を見た魔王軍士官の顔が、少しばかり引き攣っているように見えたが……聞こえてないはずだから気のせいだよな。


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