第80話 駐屯所の状況
防御魔法に特化したオーガマスターに対抗する為、グレッグ自身に『絶対的身体防護』を掛け、ショートソードも魔法で金剛石並みの強化と雷撃の付与を施したところ、【鬼に金棒】なのか【水を得た魚】なのか知らんが、凄まじいまでの太刀筋でオーガマスターを亡き者にしていた。
そして今も、俺がコモンオーガを相手にしていた僅かな時間に、二体目のオーガマスターの首にショートソードを突いてとどめを刺したところだった。
絶命したオーガマスターの首からショートソードを引き抜くと、サッと移動しその後ろにいるコモンオーガの前に現れる。オーガ族からすると神速で移動したグレッグを目で追う事は出来ず、まるで瞬間移動したかのように目前に現れたのだから、その驚きも尋常ではなかったようだ。
「キサマッ、いったい何者だ!」
「俺はグレッグ。<不気味な刈手>のグレッグだ……っと、別に覚えなくてもいいぜ、お前はスグに死ぬんだからな」
コモンオーガに答えつつも、言い終わるや否やその首を刎ね飛ばしてしまい、既にその目はもう一体のコモンオーガに向けられていた。
「セイッ!」
グレッグの動きに目を奪われていたコモンオーガは、気付いた時には既に片足を斬り飛ばされ、そのままひっくり返ってしまっている。
「グワァッ、な……何が……⁉」
「マスター級の魔法支援が無ければ、コモン級なんてこんなモンか」
「……に、人間族が……タダで済むと思うな……」
「タダで済まないのはお前等オーガ族の方だ」
「なに――――」
倒れながらも悪態を吐くオーガの首を一刀両断にする。
「ターナス……じゃなくて今はタナトリアスか。ここは俺一人で十分みたいだ。お前はアレーシアとレトゥームスの所に行ってやってくれ。魔王軍の連中が想像以上に弱い。軍に合流した二人も苦戦してるかもしれないからな」
「ああ、そうだな。それじゃがあとは頼むぞ」
「おう、終わったら俺もスグ合流する」
あの様子ならグレッグの言う通り、単独で片付けられるだろう。もともと一等級冒険者になれるだけの技量はあるそうだから、前回の傭兵ギルドでの戦いと同じく傷を負う心配が無ければ、その腕前を存分に振るえるって事だな。
探索能力を広げてアレーシアとレトゥームスの居場所を探ると、軍の駐屯所と思われる場所の傍で二人の反応を見つけた。二人の反応を頼りに転移魔法でその場所に移動する。
「これは……」
魔王軍駐屯所の外壁は破壊され、駐屯所の敷地内に侵入した反乱オーガ族を魔王軍の兵士が迎え撃つカタチになってはいるが……倒れてるのはオーガ族に比べて圧倒的に魔王軍兵士の方が多い。
衛兵としての任に就いている兵士はそれなりの実力があるようだが、一般兵士はまるで戦力になっていない。これでよく「傭兵は軍に入れなかった落ちこぼれ」などと言えたものだ。
「アレーシア! レトゥームス!」
「ターナス様」「タナトリアス様」
二人の傍に転移すると、たった今まで苦戦していたのであろう渋い表情をしていたのが、俺の呼びかけに振り返るとパッと明るい表情になったのが見えた。
「スマン、待たせたな」
「いえ、問題ありませ……いえ、正直状況は少し悪いです」
「そうだな。俺も魔王軍兵士に少し呆れていたところだ」
一旦は気丈に振る舞おうとしたアレーシアだったが、言葉を詰まらせ正直にオーガ族に押されている事を訴えた。表情から、かなり苦戦している事が伺い知れる。
「タナトリアス様、可能であれば魔王軍の一般兵士を下がらせたいのですが……」
「ああ、俺もそう思ってる。衛兵はそのままに、一般兵だけ下がらせよう。だがその前に――」
目の前にいる大き目なオーガ族に虚空斬を放つ。
防御魔法は掛けられていないのか、あっさりと胴体を両断してしまう。
「レトゥームス。魔法で斬撃は飛ばせるか?」
「はい。タナトリアス様ほど強力ではありませんが、首を刎ねるくらいの威力なら出せます」
「もしも斬撃が効かないヤツがいたら無理せずソイツには足止めの魔法を掛けてくれ」
「束縛でよろしいでしょうか?」
「ああ、構わん」
「アレーシア。レトゥームスが束縛で足止めした個体を斬れるか?」
「足止めされていれば問題ありません」
そのままアレーシアのショートソードに、グレッグと同じ金剛石並みの強化とエッジを極限まで鋭利に研ぎ澄まし、更に雷撃魔法を付与しておく。
時間的には十数秒だが、その間アレーシアは目を見開いて眺めていた。
「二人に『絶対的身体防護』を掛けておくが、だからと言って無理はするなよ」
「「はいッ」」
二人から少し離れ、魔王軍の衛兵に一般兵を下がらせるよう伝える。衛兵にはそのまま残って、俺が打ち漏らしたオーガ族と対峙してほしい旨を話すと、何故かホッとしたような顔を見せたのだが……気のせいだろうか。
衛兵が一般兵に向かって下がるよう叫び、それを聞いた兵士たちが逃げるように撤退していく。勿論オーガ族はそんな兵士を追いかけるが、即座に『雷撃矢』を撃ち込んで動きを止める。『雷撃矢』程度では死にはしないが動く事は儘ならない。
動きを止めたオーガ族には、更に虚空斬で首を刎ねてトドメを刺す。
次第に動いているオーガ族の数が少なくなっていくと、残ったオーガ族は状況の変化に戸惑いを見せるようになっていた。
「アレーシア、レトゥームス、下がれ! 魔王軍も全員下がれェ!」
瞬間移動しながら点在している衛兵たちにも告げ、味方を全員この場から退避させてしまう。最後の仕上げとして一気に片を付けてしまおうってワケだ。
物理的に一騎打ちとなっていて下がる事が出来ないでいる衛兵もいるが、そんな連中は対峙しているオーガ族の頭に雷撃矢を撃ち込んで強制的にケリをつけさせてしまう。
「さぁて、悪いがもう一度『雷電撃射』を叩きつけさせてもらうぞ。今夜の晩飯がステーキじゃない事を祈ってくれよ」
上空に真っ黒な雲が立ち込め、雲の中で稲光がビカビカと光りはじめる。
鈍く体に響く雷鳴が轟き、オーガ族は勿論、退避した魔王軍の衛兵たちも空に漂う雷雲に目を向けていた。
「みんな目を瞑って耳を塞いでろよ。いくぞ……『雷電撃射!』」
世界を破壊するかのような雷鳴と、まるで何百何千ものライトを照らしたような激しい光が辺り一面を覆い、幾つもの稲妻が大地目掛けて降り注いでいく。
そして――
大地が激しく揺れて爆発を起こし、土砂が上空からバラバラと落ちて来る。
落ちて来る物が無くなり、耳鳴りが静まり、土煙が薄れ視界が晴れて来ると……そこには巨大なクレーターが出来ていて、その巨大クレーターの中に無数の小さなクレーターが作られていた。そして、ほんの数秒前までオーガ族だった真っ黒い炭の塊が幾つも転がっている景色が目の前に現れた。