第79話 グレッグ無双
索敵で魔王軍が苦戦しているであろう戦闘区域を見つけ、その場所をグレッグに伝えると、戦闘音がするのを感じたのかすぐさま神速で向かって行ってしまった。
「ジェネラル級以上のがいたらどうするんだよ……」
グレッグの即応性に感心しつつも、さっきまで四人のオーガジェネラルに苦戦していたのを忘れているかのように、魔王軍の応援に向かてしまう危うさに呆れちまった。
とは言え、呆れていても仕方がない。スグにグレッグのあとを追って俺も魔王軍の救援に向かう。
さっきいた場所から建物を三区画ほど隔てた広場のような所で、大勢の魔王軍兵士が三人一組とした三つのグループのオーガ族と対峙していた。
魔王軍兵士の数は定かではないが、動いている兵士の数も多いが倒れている兵士の数も多い。
「状況はどうなってるんだ?」
「誰だッ……いや、貴方は……」
「死神、タナトリアス。状況を教えてくれ」
「……ハッ! 現在この場にいるオーガ族は九。その内マスター級が三、残りは一般のコモンオーガと思われます。マスター級が魔法による強化を行い、コモンオーガの防御と攻撃支援をしています。こちらは防御魔法部隊が壊滅してしまった為、損害多数」
「マスター級ってのは、ジェネラル級よりも上なのか?」
「いえ、ジェネラル級よりも階級は下ですが、強化魔法に特化した個体なのでそれが三体もいるとなかなか手強く……」
ふむ、強化魔法に特化しているって事は、コイツ等がオーガジェネラルの戦斧に魔法を掛けていたのかもしれないな。だとすれば、一般オーガと言えど魔王軍の兵士ではザニアほど簡単には落とせないか。
……って言うか、魔王軍の兵士ってこんなに弱いのか?
「お前たち自身で防御は出来るか?」
「は、はい。その程度であれば問題ありませんが……」
「ならば防御魔法を徹して下がっていろ」
現状、オーガ族に向かって戦闘行為をしている魔王軍兵士は兎も角、消耗激しくジリ貧状態で身構えているだけの兵士は後ろに下がらせた。
「グレッグ!」
「ああ、ここだ!」
やや離れた場所にいたグレッグが、俺の呼びに応えつつ飛んで来た。
「一つのグループに一体のマスター級がいる。あの赤いマントだかポンチョだかを羽織ってるのがそうらしい。お前に『絶対的身体防護』を掛けるから、その赤マントのオーガマスターを攻撃してくれ」
「了解した。それで、剣はこのままでも大丈夫か?」
「そっちも強化する」
ショートソードをグレッグに持たせたまま、ブレードに強化を施す。硬さは金剛石並みに、エッジも硬さを維持しつつ鋭利さを極限まで磨き上げていく。そして、グリップ部は衝撃を分散させて逃がすためのクッション性を持たせるが、これは握っている本人でさえ分からないほどにする。剣を振っていて違和感があったら元も子もないからな。
そして更に――
「強化完了だ。それと、斬り付けた時に雷撃を喰らわせる魔法も施した」
「……俺は大丈夫だよな? 黒焦げになったりしないよな?」
「問題無い。使用者には伝わらないから安心してくれ」
雷撃と聞いて炭化したオーガジェネラルが頭に浮かんだのだろう。勿論俺だってそこら辺はちゃんと考慮したさ。
「俺は周りの一般オーガを殲滅する。あのマスター級が他のオーガ族に強化魔法を施してるそうだから、ジェネラルには及ばないにしても相応の動きはするだろう」
「ああ、じゃあ……行くか?」
「ああ、行こう」
グレッグはオーガマスターに、俺はその周りのコモンオーガに向かって移動する。
マスター級の支援を受けていた通常のコモンオーガの方は、即座に『凍結束縛』を掛けて足下を凍らせ身動きを封じる。
オーガマスターの眼前に神速で移動したグレッグの方は、そのままショートソードを横一文字に振り切った。
“ガキンッ”と、金属同士がぶつかる音が響く。グレッグが振った剣をオーガマスターは魔法防御で防いだようだ。そりゃその程度の防御はしているだろうが、金剛石並みの硬さを施したショートソードとはいえ、流石に魔法は斬れなかったか。
だが――
「なっ……⁉」
魔法盾を斬り付けた時に雷撃も加わり、オーガマスターは目が眩み瞬間的に怯みが生じたようだ。光から顔を背けてしまった事でグレッグから目を離してしまったのだ。
「フッ」
振り切ったショートソードをそのままの流れで下から振り上げたグレッグは、眩しさを避けようとして思わず出してしまったのであろう、オーガマスターの右腕を切り落とす。
「イケる」
一瞬、ニヤリとグレッグの口角が上がるのが見える。
オーガマスターの右腕を切り落としたショートソードの柄を両手で持つと、更に上から袈裟斬りで振り下ろし、ショートソードが空を切る風切り音と、革鎧と肉が同時に斬れる鈍い音がする。
「ガハッ……ま、まさか……人間、ぞく……ふぜい……に……」
左肩から前身頃を斜めに斬り付けられたオーガマスターは、驚きと苦悶の表情でグレッグを見つめたまま身動きが止まった。
そして、束の間をおいてゆっくりと地面に倒れて絶命した。
「一丁上がり」
それじゃ俺も片付けるとするか。
『凍結束縛』で下半身の身動きが取れず藻掻いているコモンオーガの一体に向かって、『雷撃矢』を撃ち込む。勿論、『雷電撃射』よりも威力の弱い魔法だから、対象を炭化させる事はない。
「――――ッ‼」
雷の矢を受けたコモンオーガは、言葉無く目を見開いてブルブルと震えている。これは雷撃矢による感電って状態だな。普通の人間なら即死になるほどの電流はあるだろうが、オーガ族ともなると即死とはいかないみたいだ。
そんな事を考えていたらコモンオーガは口から泡を吹き白目を剥いてしまった。
「気絶しただけ……か。流石にこの程度じゃ死なないんだな」
『雷電撃射』では炭化してしまう程の雷撃なので、どの程度なら黒焦げにならない程度で即死させられるかの実験的な意味合いもある魔法だったので、ある意味まあ良しとしよう。
気絶しているコモンオーガに向かって斬撃を飛ばし首を刎ねる。
「次はお前だな」
隣で同じ様に足下を凍らされて藻掻いているオーガに向かって言う。
「キサマ……何者なんだ⁉」
「知りたいか? 俺はタナトリアス。ガーネリアス教では『死神タナトリアス』と言われてる」
「死神……タナトリアス……? まさか……」
「命乞いなんかするなよ? お前のやった事は許されるべき事じゃないからな。俺は亜人種族を人間中心主義から解放すべくやって来たが、お前等オーガ族は報復という理由で反乱を起こした。それによって傷付いたり家を失ったりした罪無き魔族がどれだけいると思う?」
「…………ッ」
初めに「命乞いするなよ」と言ったせいか、コモンオーガは何も言い返せずに怯えた表情で歯をカタカタと鳴らしていた。
「――反乱分子は殲滅する」
そう言って腕を前に着き出し、震えるコモンオーガに向かって開いた手を向けると、火炎魔法を放ちコモンオーガの上半身を炎で覆った。
「ウギャアァァァァァァァ‼」
自分を包む炎を払おうとしているのか、叫び声を上げながらワシャワシャと両手を動かし藻掻いている。
「アギャギャギャギャアアアアアアァァァ……」
段々と動きが鈍くなり叫びも小さくなっていくと、炎に焼かれゆらゆらと揺れ動いていた体も遂に止まり、絶命したのが見て取れた。
「おっと、見てる場合じゃない。他のも片付けないと」
まだ二グループ、六体のオーガ族がいるんだった。
ハタと周りを見てみると、既にグレッグが別集団のオーガマスターに斬り掛かっている。
「さっさとやっちまおう」
瞬間移動でグレッグの下へ行こうとした時、グレッグがオーガマスターの首元にショートソードを突き刺したのが見えた。




