第76話 戦闘開始
※一部改変しました。
一晩経ったが前日から特に変わった有益な情報は得られないまま、ダグジールに向けて宿を出発した。
時々ダグジール方面からやって来る魔族と言葉を交わしてみると、反乱を起こしているのはオーガ族のみで、今は魔王軍のダグジール方面隊が対応に当たっているという事が分かってきた。
「冒険者が討伐に出る事は無いのか?」
「冒険者ギルドに依頼が出れば冒険者も動くでしょうけど、軍人と違って決まった給金があるワケじゃないですからね。そもそも魔物討伐とは違いますから、依頼を出すとしたら被害を被って損益が出てる貴族や領主くらいでしょう」
「それに、国や貴族が依頼を出すとしたら一等級か特等級冒険者への指名、或いは強制要請になるだろうからな。二等級以下の冒険者に報奨金付の依頼を出すような事はしないさ。まぁあれだ、軍の方で抑えきれなくて被害が甚大になってくれば、貴族なり国なりが考えるだろうさ」
「要は極力金を出したくないって事なのかな?」
「そういう事」
どのみち傭兵ギルド絡みであれば俺達も無縁じゃないし、ザーザードのような思想は魔族以外の亜人種族にとっても思わしくないから、反乱分子は一層しちまうつもりだ。
その事で当然目立つであろうから、『タナトリアス』の存在を大々的に拡散する良い機会でもあるのか。
「金にはならないが、この国で上の連中……要は貴族や王族に印象付ける事は出来る。場合によっちゃ向こうの方から謁見を申し出させることも可能になるかもしれん」
「それはつまり……?」
「軍に加勢してオーガ族を反乱を起こしてるオーガ族を一掃しちまう。そうすれば国の偉い連中は<グリムリーパー>を軽視出来なくなる。俺達は一等級や特等級のように上からの縛りが無いから、相手はこっちの機嫌を損ねないように下手に出ざるを得ないはずだ」
「変にプライドの高い魔族が下手になんか出ますかねぇ?」
パイルが疑問を口にする。
「おそらく最初は『一等級冒険者にしてやる』とか『ウチで雇ってやる』とか言い出すだろうな。でも相手が救世主タナトリアスだと知ったら……どうすると思う?」
「ビビる。恐れ戦く。崇拝する。警戒する?」
「警戒はしないだろうが、ある意味自分たちが見下した相手が『死神』だと分かったら、それこそ這いつくばって命乞いするかもな」
「そうなったら、ターナスさんはどうします?」
「取り敢えず、このユメラシアでまかり通ってる種族差別を止めさせる必要があるから、その事は伝えなくちゃだな。現状、ハルピュイアやカムペーのように迫害されている種族と、黒魔法使いのように下等種とされ蔑まれている種族への差別撤廃。これから人間中心主義と戦っていくワケだが、勝利後に魔族が人間族に代わって魔族中心の世界を作るようなマネは決して許さない事。そこら辺を伝えるかな。勿論、多少の脅しは込みでな」
ウンウンと何度も頷くパイルやグレッグとは別に、アレーシアはキョトンとした顔で俺の顔を見ている。グレッグたちは納得しているようだが、何かおかしな点でもあっただろうか?
「どうした、アレーシア? 何かおかしな点があるなら言ってくれていいぞ」
「あ、いえ。ただ、ターナス様が至極真っ当な事を言ってるので少し驚きました」
コイツは……。
俺に対するいつもの辛辣な言葉に、皆が笑いながら頷いているのも解せん。そんなに普段おかしな事言ってるのかなぁ?
「ターナス様、村が見えてきましたよ!」
荷台で人を揶揄い笑ってる連中を余所に、御者台からハースの声が聞こえた。
御者台に顔を出して正面を見ると、集落とそこの住人であろう魔族の姿がちらほらと見える。オーガ族に襲われた形跡は見受けられないものの、どことなく住人の動きが忙しなく思える。
「住人に話を聞いてみましょう」
レトルスが魔族であるレトゥームスの姿に戻って傍に来た。
「ああ、任せた」
レトゥームスは軽く頷き御者台に移り、代わりにハースが荷台に戻った。
ゆっくりと馬車を進めて村に近付くと、村人に声が届く程度の距離でシーニャが手綱を退いて馬車を止める。
「こんにちは。すみませんが、ここからダグジールまでは、どの位掛かるか教えていただけますか?」
「旅の人ですか? ダグジールならもうスグそこですよ。でも、今はいかない方がいいですよ」
「それは何故?」
「オーガ族がダグジールの魔王軍駐屯所を襲撃したとかで、軍も自警団も対応に追われて街の治安が悪いと聞きました。それに、オーガ族はこれからこっちの村の方へ向かって来るらしくて、私たちも非難する準備をしているところなので」
「……ターナス様」
「ああ、スグにダグジールへ向かった方が良さそうだ」
避難してくる住人とすれ違わなかったという事は、住人たちは反対方向へ逃げているという事だろう。早く止めないと被害が拡大する。
「シーニャ、飛ばしてくれ」
俺の言葉に頷いたシーニャは手綱を大きく振り馬を走らせる。急な発進に後ろで吃驚した声が上がっていたが、手綱を引く事なくスピードを上げていく。
「スマンな皆。オーガ族の暴挙で避難民が出ている様だ。ダグジールに到着次第戦闘になるだろうから、いつでも飛び出せるよう準備してくれ」
それぞれ了解した旨の返事をすると、激しく揺れる馬車の中で揺らぎながらも身支度を整え、各々の武器を取り出し戦闘に備えて臨戦耐背に入っていく。
「ターナス様ッ!」
御者台で前方を注視していたレトゥームスが叫ぶ。
すぐさま前を見ると、ダグジールであろう大きな街の数カ所から煙が上がっているのが見えた。
「パイル、ハース! 二人はこのままシーニャと馬車で街中に入ってくれ。逃げ遅れた住人や怪我をしている人がいたら馬車に乗せて保護だ! アレーシアとレトゥームスは軍に合流して援護。俺とグレッグは暴れてるオーガ族を見つけ次第叩きのめす。準備はいいか?」
「「「「「「オーッ!」」」」」」
一斉に馬車を飛び降りて各自目的の場所を目指し散開する。パイルとハースを馬車の乗せたまま、シーニャはダグジールの街の大通りを駆けて行った。
グレッグは大きな音のする方角に向かって神速で飛んでいく。俺も瞬間移動してグレッグとは別の方向に飛ぶ。
「さっそく見つけたッ」
大きな戦斧を振り回すオーガ族が三人。衛兵と見られる魔王軍の兵士が立ち向かっているが、ややオーガ族の方が優勢のようだ。
『虚空斬ッ!』
ワザと大きな声を出すと、衛兵は勿論、オーガ族も一瞬こちらに視線を向けたが、それが自分達に向けて放たれた魔法だと知ると……否、分かった時にはもう遅い。目を見開いて虚空斬を受けた三人のオーガ族は、そのまま首を刎ねられ地に倒れた。
「あ、あなたは……?」
「タナトリアス。ジグラルダルのガーハイム大佐からダグジールでオーガ族が反乱を起こしてると聞いてな。ガイールの傭兵ギルドでオーガ族のザーザードという者が悪事を働いたので軍と共に処罰したのだが、もしかしたらその報復なのでは……と思って来てみたのだが」
「タ……タナトリアス様? ジグラルダル師団より通達がありました。タナトリアス様の事はダグジール師団としてもご協力させていただきます」
「それで、この反乱の原因は何か分かっているのか?」
「はい。まさしくザーザード処刑による報復です」
「オーガ族以外の種族が関わっている事は?」
「そのような情報はありませんし、我々も今のところオーガ族としか対峙していません」
「分かった。反乱分子は見つけ次第極刑に処す。お前たちには住民の保護を頼む」
「了解しました。どうぞお気をつけて」
やはりザーザードを倒した報復か。こうなるとドラゴノイドも同じ事をする可能性が出て来たな。
まったく、魔族の中でもタカ派に分類される種族は要注意だな。ガーネリアス教と戦っている間に他の亜人種族の足を引っ張り兼ねない存在になりそうだ。
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