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第74話 逆らう者は皆××

 朝、宿を出てダグジールへ向かう為に街道を歩み始めると、スグに所々で人だかりが出来ているのが目に付いた。

 通りすがらに何事かと見てみれば、昨日は無かった看板が立てられていて、それを街の住人達が見ていたのだ。


「何が書いてあるんだ?」


 グレッグが人だかりを掻き分けて看板を見に行くと、「昨日、ガーハイム師団長に託した件が綴られている」とほくそ笑んでいる。


【魔王軍ジグラルダル師団より、ジグラルダル住民へ告知――――亜人種族の救世主であられる死神タナトリアス様が、御自身の名に於いてハルピュイア種、及びカムペー種を保護された事を此処に告知する。今後ハルピュイア及びカムペーに害を及ぼす事はタナトリアス様に対する敵対行為と見做し、ジグラルダル師団長ガーハイムの名の下にこれを征伐する】


 昨日の件をスグに対応してくれたという事か。

 この事に対する魔族の反応はどんなものかな?


「死神タナトリアス様が顕現したってのは、本当だったのか」

「なんでもガイールの傭兵ギルドがタナトリアス様に楯突いて、壊滅させられたって話を聞いたぞ」

「このハルピュイアとカムペーは、どういう繋がりなんだ?」

「それは知らないけど、軍部がこんな告知を出すくらいだ、きっと傭兵ギルドと軍部の間でも一悶着あったんじゃないか?」

「しかしなぁ、ハルピュイアなんて保護したってどうしようもないだろう。あんな魔物なんて糞溜めの掃除くらいしか出来ねぇんだからさ」

「タナトリアス様が保護したってのは本当なのか? そんな事言って実は軍がハルピュイアを搔っ攫って駐屯所で使うつもりなんじゃないか?」


 ……ああ、ダメだこれは。やっぱり痛い目に――じゃなくて、シッカリと解らせないとイカンな。


「ターナス……」


 俺の顔を見たグレッグが真剣な表情で言葉を詰まらせる。


「言い聞かせるしかないだろう。通告を無視したヤツは軍が処罰してくれるだろうが、それじゃ遅い場合もあるからな。解らせないと……」


 俺は看板の人だかりの後ろで馬車の御者台に立ち、姿をタナトリアスに変化させつつ、その魔力を一気に噴出させた。


「な……なんだ⁉ 何が……」


 人だかりの魔族たちが一斉に震え出し、中にはグズグズと足下から崩れて座り込む者もいる。

 それでもまだ周囲を見渡せるだけの気力があった者が、御者台に立つ俺に気が付いた。


「……タ、タナトリアス……様?」

「ヒッ……ヒィィィッ!」

「アガガガガガガガガ……タタタタ、タナ、タナトリアス……サ、サマ」


「キサマ等、この俺がハルピュイアとカムペーを保護した事がそんなに気に入らんか? 死神タナトリアスの言う事が聞けないという者は遠慮なく前に出ろ!」


 目の前の人だかりだけでなく、遠くにいた魔族たちでさえも腰を抜かして震え上がっている。


「ハルピュイアとカムペーは死神タナトリアスの友同然だと知れ。今後ハルピュイアやカムペーに害を為した者には、地獄を味合わせてやるから覚悟しておけ」


 そんなことはお構いなしに、俺は殺気を充満させて辺り一帯に恐気をまき散らすと、殆どの魔族は失神してしまい、中には泡を吹いて気絶している奴までいる始末だ。

 何とか気を失わずに持ち堪えている者も若干名いたが、そういった者達はそれなりの装備を持った魔族の冒険者のようだ。


「ほう、ヤツラはある程度上級の冒険者みたいだな。肝が据わってるじゃないか」


「分かるのか?」


 気絶せずに持ち堪えた連中の事をグレッグに聞いてみると、装備品から冒険者である事はほぼ間違いないという事と、恐怖に打ち勝つだけの度量を兼ね備えているのは経験豊富な二等級以上の冒険者くらいなものだと言う。


 魔族の冒険者は他国へ出て活動する者は少なく、殆どが国内で魔獣や野獣の討伐などで生計を立てているらしい。勿論、レトゥームスのように人間族が多い土地で冒険者活動をする者もいるが、彼女も最初は魔族である事を隠し、人間族に変化してパーティーを組んでいたと言ってた。


 騒ぎを聞きつけたのか、駐屯所から衛兵が数人飛び出して来た。


「何事だ! 此処に倒れている者たちに何があった」


「コイツ等は看板の告知に不満を述べていた者だ」


「……ッ! これはタナトリアス様。それではこれはタナトリアス様が……」


「そうだ。スマンな」


「いえ、とんでもありません。タナトリアス様の意思に反する者であれば軍としても見過ごすわけにはいきませんから、コレ等は直ちに確保致し処罰致します」


 倒れている連中が多いため応援を呼びに行く衛兵を横目に、例の上級冒険者たちが近付いて来た。


「タナトリアス様!」


 目の前で立ち止まると全員が跪き敬意を示す。


「我等タナトリアス様に比べたら微力ではありますが、ユメラシア魔王国の冒険者として、ハルピュイアの里に関しまして最大限にタナトリアス様の意志を引き継ぎ、害悪からお守りさせて頂きます」


「ああ、取り敢えず立ってくれ。皆の気持ちは非常にありがたい。その意志に偽りはないと約束出来るか?」


「はいっ、勿論です!」


 里の警備や違反者がいた場合の対応については、軍のジグラルダル師団が請け負ってくれる事になってるが、行動に自由の効く冒険者ならば万が一ジグラルダル師団に動きが取れなくなった場合でも対処可能か……。


「俺はクラン<不気味な刈手(グリムリーパー)>のグレッグという者だ。二等級冒険者だが、タナトリアス様と共に亜人種族解放と『人間中心主義』の壊滅を目指し行動している。魔王軍ジグラルダル師団はタナトリアス様に全面的に協力すると申し出てくれた。また、ランデールの冒険者ギルドもガーネリアス教に対峙する我等<不気味な刈手(グリムリーパー)>を認知している。我等はあくまでも亜人種族の解放であって、人間族に取って代わり亜人種族が統べる世界を作るワケじゃぁない。そんな邪な思想を持ったガイールの傭兵ギルドは、我等がぶっ潰した。そして、それは軍からも賞賛されている。いいか、タナトリアス様の思いを紡ぎ、タナトリアス様が保護すると決めたハルピュイアやカムペーを再び貶める者がいたならば、必ず処罰するんだ。タナトリアス様を悲しませるな!」


「「「「「オーッ‼」」」」


 グレッグの演説は聞いてて少し恥ずかしくなってしまうが、それでもその力強い言葉に魔族の冒険者たちも一つに纏まったようだから、まぁヨシとするか。

 それにしても……グレッグが政治家に立候補したら、結構票が集まるんじゃなかろうか。


 そんな中、応援を引き連れて戻ってきた衛兵の一人がやって来て、ジグラルダル統治主レグニール伯爵が師団に遣いを寄こして来たと言ってきた。


「それで、そのレグニール伯爵はどう動きそうだ?」


「実は……レグニール伯爵はハルピュイアを汚物処理奴隷として使っていたようで、どうしたら良いかを師団長に相談しに来たみたいです」


「相談? 文句を言いに来たんじゃないのか?」


「はい。それが『タナトリアス様がお怒りになって殺されてしまうのでは』と……」


「アホか! さっさとハルピュイアを解放して里に帰してやれと言っておけ。そうすれば殺しはしないってな」


「かしこまりました!」


 逆ギレして喧嘩売って来ないだけマシだろうが……それにしても魔族ってのは力のある者にはとことん屈服する種族みたいだな。楽なんだか面倒なんだか、ちょっと分からんわ。


「どうやらハルピュイアとカムペーに関しては、この街の軍部と上級冒険者に任せて大丈夫みたいですね」


 少し安心したかの様に顔を緩ませてアレーシアが呟いた。


「ああ、この街の力ある者達がまともな連中で助かったよ。これがあのぶっ倒れてるようなヤツラばかりだったら……街ごと消してただろうな」


「もしかしらた、そうした方が後々が楽だったかもしれませんよ? 『逆らう者は皆殺しだ!』って思わせられるじゃないですか」


「バカ言ってんじゃないよ! そんな事したら逆に俺が悪者になるだろうが」


「あら、まだ悪者ではないと?」


「……」


「冗談ですよ。フフフ」


 なんだろう……パイルといいアレーシアといい、見た目と中身が釣り合ってないですよ? ある意味、あの二人が一番手に負えないような気がするわ……。


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