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第72話 魔王軍ジグラルダル師団への委託

 ジグラルダルに向かう道すがら食料調達の為の狩りでもしようかと話したところ、アレーシアにハースそしてシーニャの三人は非常に乗り気だったのだが、そんな狩場に行き当たる事もなくジグラルダルに着いてしまった。

 魔族農夫のおじさんが「半日も掛からない」と言ったのは本当だったな。


「それにしても……」


 大きな街だが障壁が無い。街に入る道には検問所が設けられてはいるが、街を取り囲む障壁が無いのはどういう事だ?


「どうかされましたか、ターナス様?」


「これだけ大きな街にも関わらず、外敵の侵入を防ぐ壁が無いのは何故だ……って思ってな。アレーシアは知ってるのか?」


「いいえ、ユメラシアは初めてですから私にも分かりかねますね」


「レトル……スじゃなくて、いつの間にレトゥームスに変化したんだ?」


「人間族と獣人族だけのパーティーだと侮られますからね。魔族が一緒にいると分かれば下手に手出しはして来ないでしょう。特に、このような大きな街では人間族を敵対視している者が少なからずいますから」


 そういえば魔王国はトラバンスト聖王国からの侵攻にあってるんだっけな。国境沿いのような紛争地帯ではないから少し油断してた。


「気を遣わせてスマンな。ところで、ユメラシアでは街を障壁で囲わないのは普通なのか? それともこの街が特殊だったりするのかな?」


「基本的には他国の様に街を障壁で囲う事はありませんが、王族や貴族が住まう城に関しては強固な城壁で囲われています」


 ヨーロッパの城郭都市というよりも、日本の城を中心とした城下町的な造りに近いのか。

 かつての日本では敵に攻め込まれたら城下町の人々を城の中に避難させていたらしいが、魔族も同じ考えなのだろか? 否、そもそも魔族間での紛争が無いって事もあり得るか?


 その答えはレトゥームスの言葉で砕かれた。


「魔族の民は貴族や王族の盾となるのが使命……ですから」


 力なく項垂れながら呟いたレトゥームスの言葉には、おそらく自分の生い立ちや両親の事が載せられているのだろう。それにしても「民は貴族や王族の盾」か……。

 胸糞悪いな。


「兎に角まぁ、これだけ大きな街ならハルピュイアとカムペーの保護の件を宣告すれば広く知れ渡るだろ。方法としては……貴族に会ってからの方が良いのかな?」


「約束も無く拝謁……いえ、約束なく会おうとしてもおそらくは跳ね返されるでしょう。こちらが上である事を示す必要があります」


 なるほど、貴族である以上は何処の馬の骨とも分からんヤツとは面会出来ないのは当然か。ならがレトゥームスの言う通り、こちらの方が上位の立場だと分からせれば、否が応でも会わざるを得なくなる。


「何か方法はあるかな?」


「そうですねぇ、それならば――――」


 人間族以外の亜人種族ならば、例え魔王であろうと無下には出来ない上位の存在。それが救世主タナトリアスであるとレトゥームスは言う。

 そのタナトリアスが自分の統治する街に顕現したとなれば、何を差し置いてもお目通りしなければと考えるのが当然らしい。


 レトゥームスの案として、まず魔王軍の駐屯所でタナトリアスとしてハルピュイアの里を保護下に置いたと通告し、その事を魔王様へ通達せよと命令する。

 軍としては王都へ伝令を走らせるのは勿論だが、この街のトップである貴族にも同様に伝令が走るはずであると。

 軍からの知らせを聞いた貴族がどう反応するかだが――。確認を取る為にお抱え騎士だけを軍部に向かわせるか、それとも自分自身が動くかだ。もし自分自身は動かずに騎士だけを動かすのであれば、そこで「この地の貴族は弛んでる」と「タナトリアス様がお怒りだ」と伝えれば、それはもう大慌てで謁見を申し出て来るであろう……というのがレトゥームスのシナリオだ。


「そう上手くいくか?」


「魔貴族というものはプライドが高いですから、真っ先に自分自身が動くという事は無いはずです。そのクセ、自分よりも力が上の者には屈服するのが魔族ですから」


 魔族の元貴族であるレトゥームスが言うのなら間違いないだろう。

 まずはこの街にある魔王軍の駐屯所に向かい、そこでガイールで起きた傭兵ギルドの悪行と顛末を話す運びとなった。


 軍の駐屯所はそれほど大きくはないが、ジグラルダル師団という名目で駐屯しているため地域の軍組織を統括する役目ではあるようだ。


 ジグラルダルの軍駐屯所でもガイールで起きた騒動は知らされていたようで、衛兵に話すとスグに師団長との会談の場が作られた。


「魔王軍ジグラルダル師団、師団長のガーハイムです。ガイールでは傭兵ギルドが亜人種族を拉致し人間族へ売り渡していたそうですが、それをあなた方が壊滅させたとお聞きしています。それでお間違いはないでしょうか?」

 

 師団長を名乗るガーハイムという魔族は、褐色の肌にまるでオウムガイのような滑らかに丸くなった角を持ち、翡翠を思わせる鮮やかな緑色の瞳をしている。

 重々しい装飾の軍服は、かつての第三帝国を思わせるデザインをしていて、このような魔族が着ると殊更に威圧感を与えられそうだ。


「間違いない。ガイールの傭兵ギルド支部は壊滅させ、捕らわれていた亜人種族も救出し解放した。その時に――」


「貴様! 大佐殿に対してその口の利き方は何だ!」


 軍のお偉いさんに対して敬わない言葉遣いが気に障ったのか、若い衛兵が腰の剣を掴んでいきり立った。

 それにしても師団長クラスで大佐かぁ。確かにそれほど大きな駐屯所ではなかったし、師団長が大佐でも事足りるのかもしれんな。

 

「口の利き方が成ってないのは貴様だ、軍曹。こちらの方々は本来軍でやるべき亜人種族の救出をして下さったのだぞ」


 ふむ、大佐ではあるが師団を纏めるだけの器はあるか。

 この若い軍曹も、おそらくは俺が普通の人間の姿をしているから尚更気に入らないのだろう。同席しているレトゥームスは素の姿に戻っているが、グレッグとアレーシアは人間族そのままだし、パイルも若い獣人族。ハースとシーニャに至っては見た目も子供だからな。


「師団長殿、私が此処へ来たのは亜人種族救出の件も勿論だが、もっと大事なことを広めて頂きたくて来たんですよ」


「――と、言いますと?」


「私はこのような姿をしていますが、創造神ラダリンス様より亜人種族を人間中心主義から解放する命を授かったタナトリアスと言います。死神タナトリアスと言えば、ご理解頂けるかと思いますが」


 そう言って、姿をタナトリアスに変化して見せた。


「な……何と、本当にタナトリアス様で……」


「ああ、そうだ。そして先程大事なことを広めたいと言っただろう? この国で虐げられていたハルピュイアとカムペーをこの私の保護下に置いた。今後一切、ハルピュイアを奴隷の様に扱う事を禁止する。そしてカムペーについても死神タナトリアスが庇護する。この事を広く告知して欲しいのだ」


「ハルピュイアとカムペーを……ですか。軍としては特に異存はありませんし、告知するのもやぶさかではありませんが、魔貴族は勿論、魔王様がどうお考えになるか……」


「勿論、軍としては単にハルピュイアとカムペーがタナトリアスの保護下に置かれたと市中に通知し、魔王にも同様に伝令を出してその旨を伝えて欲しい。そうすれば自然と貴族の耳にも入るだろうし、もしそれで何か言ってくるようであれば師団長殿は「タナトリアスに直接言ってくれ」とでも言えばいい」


「それで、よろしいので?」


「ああ」


「承知致しました。魔王軍ジグラルダル師団はタナトリアス様のお言葉を大々的に市中へ告知し、魔王様へも至急伝令を出します。ジグラルダル統治主であるレグニール伯爵も耳にすれば、真偽を確かめるべく師団に遣いを寄こすでしょう。その時はきちんと説明致しますのでご安心下さい」


 意外と軍部は聞き分けが良いみたいで少し拍子抜けした気分だが、これで一先ずはハルピュイアとカムペーへの危害は大幅に減るだろう。本当なら完全に無くなって欲しいが、それは貴族や魔王がどう判断するかにもよるだろうからな。


 因みに、先程俺に楯突いた若い軍曹は……俺がタナトリアスの姿になった途端、目を剥いて倒れてしまい、他の衛兵に何処かへ連れ出されてしまっていた。

 師団長さんも肌が褐色だから顔色ってのはよく分からんけども、額に大粒の汗をかいていたのは部下も気付いていないようである。


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[良い点] メンバーがだんだんバーサーカーじみてきた(о´∀`о)
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