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第70話 リスタート

 魔王国内におけるハルピュイアとカムペーの種族差別を見直させる手段として、オキピュートが言っていた「獣同然の生活」からの脱却を駆け足で取り組んできた。

 そして、万が一他の魔族から以前のような襲撃が遭ったとしても対処出来るだけの防衛措置も施してきたから、取り敢えずは再び戻って来るまで頑張ってもらうほかない。


「回り道した分の遅れを取り戻さなくちゃだな」


 ハルピュイアの里に滞在していたのは一日足らずだが、それでもそれまでの道程を含めれば距離的に相当ガットランドから離れてしまったのは紛れもない事実だ。

 遅れを取り戻すべく、可能な限り早く移動したいのだけれど……ハルピュイアの里に行く時に均した凸凹の道は、侵入者を防ぐ為に通過した傍から崩してしまったから、今再びその凸凹道に差し掛かって頭を悩ますハメになる。


「やっちまったものは仕方がない。また俺とパイルで道を均しながら進むか?」


「……また半日潰れますよ」


「だよな……」


 さて如何したものか……と考えあぐねていると――。


「なぁターナス。確かハルピュイアの里で転移魔法を使ってたよな?」


 ふいにグレッグが問い掛けたが、意図は分かる。転移魔法で一気に進んでしまえば解決だってんだろう。だがそれが出来ない理由があるんだ。


「ああ、あれは傭兵ギルドに突入した時に偶然分かったことでな。目標となるモノが無いとその場所へは移転出来ないんだよ」


「目標となるモノ?」


「そう。傭兵ギルドの時は先に神速で移動したグレッグが目標になったし、里の中ではアレーシアが転移の目標になってたんだ。つまり、今はその目標となるモノが無いからどうにもならんってワケさ」


「それなら、一度行った場所……例えば建物とか、記憶している場所とか目印なんてモノは目標にならないのか?」


「……ん、どうだろう? やってみようか?」


 一度行った場所や覚えている場所なら目標になるかもしれんな。


「それじゃあ――――」



 〇>>>>>>●



「ふむ、なるほど」


 転移したのは森の外……二日前に野営した場所だ。

 一足飛びで森を抜けられるのは良いが、あとは全員で移転が可能かどうかだな。なにか動物を探して試してみるか。


 気配探索すると近くに複数の生命反応があるので、気配を消してその近くに移転してみると、そこには草を食べている一角兎(ホーンラビット)がいた。

 取り敢えず捕縛の魔法を掛けて動けなくしてから一カ所に集め、樹木の蔓に強化魔法を掛けて簡易ロープ化して纏め上げてから捕縛を解く。

 捕縛を解いたとたんにバタバタと元気よく動き出した。


「すまんが実験に付き合ってもらうぞ」


 俺は兎やハムスターが好きだ。だから正直言って万が一、この一角兎たちが転移魔法に耐えられず死んでしまったら……と思うと……否、考えるのよそう。


「頼むから成功してくれよ――――」



 〇>>>>>>●



「おっ、帰ってきたな」


「一角兎を生け捕りにして一緒に転移してみたんだが……」


「生きてますね」「生きてるな」「具合も悪く無さそうです」


 蔓のロープで纏めた四羽の一角兎がバタバタと暴れ動くのをアレーシアたちは興味深く見つめて、転移魔法で生命体に悪影響が無いかを確認していた。


「問題無ければ馬車ごとそっくり転移魔法で森の外へ出てしまおうと思うが、どうだ? 心配事があれば今のうちに言ってくれ」


 グレッグ、アレーシア、パイルの三人は暫し不測の事態が起こりえないかそれぞれ考えている。レトルスは魔族だからだろうかあまり大袈裟には考えていないようで、逆に「何故そんなに心配している?」といった感じで傍観している。

 シーニャは相変わらず特に感情を外に出してはいないが、ハースは転移魔法で別の場所に移動することが楽しみで仕方ないようだ。玩具でも遊園地でもないんだからな。


「問題ないようなら全員で転移するから馬車に乗ってくれ」


 全員馬車に乗り込む。

 馬が転移直後に暴れない様、念の為パイルが手綱を持って御者台に座り、俺はその隣に座る。他の皆は荷台でひと塊になってもらった。


「じゃあ行くぞ。『転移』!」

 

 別に言葉にして言わなくても良いんだけどな。



 〇>>>>>>●



 一瞬にして森の外―― 先程俺が一人で転移した場所に出る。


「皆、身体や持ち物に異常はないか?」


 荷台の皆に声を掛けつつ、俺は御者台から降りて馬と馬車全体を見て異常がないか確認しておく。瞬間的な状況変化に馬が怯えないかが心配だったが、どうやら取り越し苦労だったようだ。馬は繊細な動物だって言うけど、こいつは図太いのか暢気なのか。


「特に異常は無いようだぜ。七人と馬車一台を一瞬で他の場所へ転移させられる……か。それでターナス自身に異常はないのか? 魔力切れなんて起きたらそっちの方が豪い事だしな」


「魔力切れはないな。体力的にも特に疲れは感じてない。まぁ、これを一日に何度も繰り返したらどうなるか分からんけどな」


 現状では何も感じないからそれほど魔力を消費してないんだと思うから、何度か続けて使って見てどのくらいで体力的に変化が出るかを確認してみたい気もする。とは言え、いざという時に魔法が使えなくなったらヤバイし、今はまだ少し自重した方がいいだろう。


「フッ、まったく死神ってのはバケモノの仲間なのか?」


「人外ですからね」


「原理が解読出来れば魔術で……ブツブツ」


「魔族にも転移魔法を使える者はいますが、それでも移動できる距離はたかが知れています。森の中心部から外へ転移するなんて素晴らしいです、ターナス様!」


「スゴイです! 一瞬でパーッてなって、森から出ちゃいました!」


「うん」


 ……メンバーそれぞれの意見である。どれが誰なのかは察してくれ。


「ターナスさんのおかげで一気に森を脱出出来ましたし、此処からは暫く街道を行って魔族領内の視察も兼ねてみましょうか」


「そうだな。ハルピュイアとカムペーが死神タナトリアスの保護下におかれたってのを広める必要もあるし、他の村や町を覗いてみたい気もするしな」


 ハルピュイアとカムペーの件に関しては、レトルス曰く「魔貴族領主を介して告知させた方が早く広まる」との事なので、一先ずはそのような魔貴族の領主が治める大きな街を目的地とした。

 

「因みに、此処からだとどの街が一番近いか分かるか?」


「あぁ~、えっと……スミマセン、分かりません……」


 レトルスにとっては母国であるものの、生まれやその後の経緯からあまり国内の地理関係には詳しくないようだ。それは仕方がない。


「気にするな。自分が住んでいた町以外の場所なんて知らないのが普通だ。――というワケだからパイル、何処か人のいる場所があったらそこで色々と聞いてみよう」


「了解で~す!」


 パイルの暢気な返事を聞きつつ、ガットランドに向かってリスタートだな。


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