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第69話 里の改革

 ハルピュイアでも簡単に火が起こせる魔道具を作る為、パイルが求めた火吹蜥蜴(サラマンダー)を捕獲に行ってたハルピュイアたちが戻ってきた。

 捕獲したサラマンダーは六匹。三人のハルピュイアがそれぞれ二匹ずつ捕獲してきたワケだが、そんな簡単に捕まえられるのか火吹蜥蜴。


「それではさっそく解体したいと思いますが、どこか解体に適した場所はあるでしょうか? 出来れば水場の近くがいいですね。それと籠のような物があれば貸してください」


 エーラクトはパイルの要望に適した場所があるか他のハルピュイアに尋ねると、委ねられたハルピュイアは少し考えてから「川場で良ければ」とパイルに確認をとる。


 解体場所にOKを出し、土と木の枝で作られた籠――というか、まるでツバメの巣の様な器を渡されたパイルは、レトルスを伴ってハルピュイアの案内で解体場所に向かった。


「それじゃあ俺は食器を作るとするか」


「ターナス様、私も一緒に行っていいですか?」


「おっ、いいぞハース。シーニャも一緒に来るか?」


 聞かなくても来るだろうが一応聞いてみると、案の定コクリと頷いてハースの後ろをピタリとくっ付いて来た。

 残るグレッグとアレーシアは――。


「アレーシアは俺と一緒にこの里を見て周ろうか。外敵から里を守れるような状態に出来るかどうかを探ってみよう」


「そうですね。防御態勢がとれれば良いのですが、場合によっては一から作る事になるでしょうし」


 そんなワケで、それぞれ役割分担して散らばった。

 俺は何人かのハルピュイアとカムペーに集まって貰い、手持ちの食料を使って「どんな食べ方が楽か」を考察してみる。

 まずはオキピュートに作ってやった【ハルピュイアでも持てるスプーン】で検証してみるとしよう。


 一方、カムペーはと言うと――。

 手先は人間や獣人族同様器用に使えるが、調理するという概念が無いのはハルピュイアと同じだった。

 食べ物に関しては多くの種族と一緒で雑食性。なので普通に粥や干し肉も食べられることから、それら簡単なモノの作り方を教える。取り敢えずは干し肉の作り方だな。

 パイルが発火装置を作ったら粥や燻製の作り方を教えればいいだろう。

 取り敢えず適当な石を積み上げ、魔法で土をセメント代わりにして釜土を作っておいた。これで準備万端である。


 そうこうしている内に、パイルが完成したと思われる魔道具を手に嬉々としてやって来た。


「ターナスさん、出来ました!」


「早かったな。もっと時間が掛かると思ったよ」


「以前から構想だけはありましたし、魔石さえあれば試験してダメなところはスグ改良出来ますからね」


「それで、ハルピュイアやカムペーにも簡単に扱えそうか?」


「勿論ですとも!」


 完成した魔道具を持った手を掲げて胸を張る。余程の自信作みたいだな。

 さっそく、ハルピュイアとカムペーに使い方のレクチャーを始める。


 原理としては、トーチの底を地面に叩きつけると衝撃で先端部に付けた魔石から火が吹き出すので、それを焚き木に向けて火を点ければOK。これならハルピュイアも足で作動させることが可能だ。

 消す時はもう一度トーチの底を地面に叩きつける。そうすると先端部にカバーが掛かり魔石を包み込んで消化する仕組みになっている。内部構造がどうなっているのか疑問ではあるが、作ったパイルは「単純な二重構造ですよ」と言うだけなので、まぁバラシてみれば成る程と納得できるのかもしれん。


「じゃあ悪いがパイルとレトルスは、そのまま彼女たちに釜土の使い方と粥の作り方を教えてやって貰えるか? ハースとシーニャも手伝ってやってくれ」


 あとは任せてグレッグとアレーシアの方に行ってみるとしよう。決してパイルたちに丸投げしたワケじゃあない。




 探索を広げると森の西方にグレッグたちの反応があったので、瞬間移動……ではなく、転移魔法で移動してみる。

 そう、瞬間移動は目に見える範囲で瞬間的に移動するものだが、転移魔法は目に見えていなくても目標となるモノの位置が特定できれば、その場所へ移動する事ができる便利な魔法なのだ!

 実は傭兵ギルドに突入した際、自分では瞬間移動をしたつもりだったが、実は目で確認してない場所に移動する事が出来たので、瞬間移動とは別の魔法なのだと分かったんだよねぇ。


 移動した先ではグレッグが木の上に登って周囲の確認をしていて、アレーシアは地表で四方八方を見渡しては時折りおとがいに手を当てて何か考え事をしていた。


「何か良い案は浮かんだか?」


「ターナス様……。里の裏手は苔生した岩が多いため人や馬が通るには適していないので、防衛としては僅かな配置で済むと思います。里の正面から右手側は倒木が多く、こちらも武装しての歩行には適してませんので、監視小屋と迎撃用の手段が少しあれば問題ないかと思います。逆に問題なのがこっちですね」


 そう言って里から見て正面と左手方向を指で示した。


「倒木は殆ど無く、多少大きな根が張っている程度なので馬車や荷車は入って来れませんが、馬だけなら可能でしょう。なので、騎乗した戦力に対する迎撃方法を考えてるんですけど……」


 成る程、確かに整備されてない自然の中のトレッキングを思えば、特に不都合なく歩いて来れそうだ。


「そこでだ、ターナス」


 樹上から降りて来たグレッグがアレーシアの思案に自分の考えを付け加える。


「木の上に監視用のスペースを何カ所か作って、そこはハルピュイアに任せる。そして地表では樹木を盾としてカムペーに威嚇、或いは迎撃してもらうのはどうかと考えてるんだがな」


「カムペーに弓矢でも持たせるか?」


「ああ、カムペーに聞いたんだが彼女たちは魔法で毒針を飛ばすことが出来るらしい。攻撃能力としてはなかなかだと思うが、相手が魔族である以上は毒に耐性のある種族がいるかもしれないからな。弓矢も使えれば尚の事良いだろう」


「ふむ、じゃあその辺りの事もエーラクトとラーシャに相談してみようか」


 外敵が侵入してくる方向の迎撃態勢はなるべく強固にして、反対側は監視を配置しつつ、永続的な結界を張って防御を整えるか。少ない数で対応するには、里の四方八方に散らばらせるよりも一定方向に集中させた方が良さそうだ。


 里の中心部に戻りエーラクトとラーシャに里の防衛態勢についてグレッグとアレーシアが見て周り感じた事を説明しつつ対策方法を提案すると、二人共スグにその案を承諾して里の者達を集めて準備に取り掛かった。


 カムペーに手伝ってもらいアレーシアとハース、そしてシーニャが弓の制作にあたる。矢の方はパイルとレトルスがあたった。


 俺とグレッグはハルピュイアと一緒に監視場所の選定と監視小屋――というか、“鳥の巣”を樹上に設置して表面を固め、カムフラージュを施して所謂トーチカを作る。これは攻撃能力を持てないハルピュイアの身を守るためのモノだ。

 地表にはカムペーが待機&迎撃する為の盾となる壁を設置する。所々に弓や毒針を放つ為の狭間を設ける事で身を守りながら攻撃が出来るようになる。


 そして、最後に里の裏手と正面右手には永続的な結界を張る。これに関してはパイルの魔術による術式に俺の魔法を重ね掛けする事で、半永久的に解除されない結界を張る事が可能になった。

 ただし、里全体を覆うワケではない防御壁的な結界なので、遠回りすれば結界の端から侵入する事が出来るし、上空も森の木々より多少高い位置までなので、それ以上の高度からの侵入は防ぎきれない。

 その辺りは他と同じくトーチカや狭間付防御壁を設置する事でカバーする。


「ここまでして頂いたのですから、“里を守れませんでした”等とは言えません。何があっても一丸となって里と皆を守ります」


「魔王国全域に此の里は死神タナトリアスの保護下にあると通告はするが、万が一危険が及んだ時でも決して無理はするな。イザとなったら里を捨てて逃げる事も考えろ。生きる事を優先するんだ。いいな?」


「「はいっ!」」


 エーラクトとラーシャに続き、里のハルピュイアとカムペーたちも一様に膝を付き頭を下げて返事をした。


 これで大まかだが、食事事情の改革と里を外敵から守るための体制作りは何とかなった。ハルピュイアもカムペーも戸惑いはあるだろうが、自らを守る為の事だから頑張って貰わないとな。


 先を急ぐ為、後の事は彼女たちに任せて再びガットランドに向かう事とするが、亜人種族を救出したあとは早めに此処へ戻って来るとしよう。


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