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第68話 魔王国の闇

 カムペーという種族は、まるで人間とドラゴンのハーフみたいな容姿をしていた。

 ドラゴノイドが人型の蜥蜴であるのに対し、カムペーは上半身が人間、下半身はドラゴンを思わせる立派な鱗で覆われた脚。それ以外にもドラゴノイドとの違いは黒く大きな翼膜の存在だ。


「ラーシャ、こちらは魔族に囚われたオキピュートを救って下さったタナトリアス様です」


「タナトリアス……様? まさか、迫害する人間族から亜人種族を救って下さるという死神……タナトリアス様であると?」


 エーラクトがゆっくり頷くと、ラーシャは跪き頭を下げて俺に敬意を表した。


「ラーシャ殿、立ってくれるかな。今はタナトリアスの立場ではなく、ターナスという……云わば反乱分子のような存在だ。そして此処にいる<不気味な刈手(グリムリーパー)>というクランのメンバーでもある。人間族、獣人族、魔族……種族は異なるが同じ志を持ち、人間中心主義壊滅の為に結束した仲間たちだ」


「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。それで、私たちは何をすれば……?」


「ハルピュイアを保護下に置き奴隷のような扱いをすることを禁じさせたのだが、だがそうなると、今までその事で利益を得ていた連中は面白くないだろうし、場合によっては周りの目を盗んで再びハルピュイアを捕らえて、どこかへ売ろうとする輩が出ないとも限らん。そこで、ハルピュイアと共存しているカムペーにも協力してもらいたいと思ったのだが……もしかしてカムペーも他の魔族から迫害されているのか?」


「我々カムペーは種族として絶滅に瀕しています。このような姿なので人型の魔族からは忌嫌われていますし、奴隷にされる事はありませんが見つかれば「狩り」と称して追い回され……」


 ラーシャは両手の拳を握りしめ、酷く苦しく悲しい面持ちで自らが置かれている現状を語ってくれた。

 やはりハルピュイアと共存しているだけあって、相当酷い目に遭ってたんだな。


「ラーシャ殿――」

「ラーシャとお呼び下さい!」


「分かった。それじゃぁラーシャ、そしてエーラクト殿」


「私もエーラクトと」


「分かった分かった。ラーシャ、エーラクト、まずは聞きたい事があるから色々と教えてくれ。ハルピュイアが見下されていた理由の一つとして、生活様式の事があるようにも思うんだ。だから地位向上の為にもこの里での生活様式を変えて貰おうと思ってる。例えば食事に関してだ」


 そして、俺はオキピュートから聞いていたハルピュイアの食事事情が実際どの程度のものなのかを再度確認する。勿論、カムペーについても同じだ。

 獣扱いされているのは食べ方が野獣とほぼ同じだというのが理由の一つと考えれば、それを少し文明的に――火を使って調理し、食器を使って食事をする。それだけでも傍からの見方が変わってくると説明する。


 原始的な火起こしの道具ではハルピュイアには使えないし、かと言ってカムペーだって使うのは大変だろう。

 その為、何らかの発火装置が欲しいと考えたのだが、パイルから「発火の魔道具を作れば安全かも」との提案があった。


「街で買って来るのか?」


火吹蜥蜴(サラマンダー)火炎狐(ファイヤーフォックス)の魔石が手に入れば私でも作れるので、どこかに生息()ませんかね?」


火吹蜥蜴(サラマンダー)なら、サーニール岳の火口付近に生息してます。里の者に獲りに行かせましょう」


 パイルの言葉を聞いたエーラクトは、さっそく数人のハルピュイアに指示を出して火吹蜥蜴(サラマンダー)を採取に行かせた。

 因みに、サラマンダーは手に乗る程度の小さな竜の一種で、火口や溶岩などを生息地としているそうだ。俺的には恐竜みたいな強大なトカゲをイメージしていたので、肩透かしを食らった気分である。

 

「しかし、火口なんて行かせて大丈夫なのか? 相当危険だと思うが……」


「ご心配要りません。ハルピュイアの飛行速度であれば上空をほんの一瞬過ぎればいいだけですし、上空からサラマンダーが見つかればスグに捉える事ができますので」


「手掴み……と言うか、脚で掴んだまま持ち帰るのか? 熱くないのか?」


 矢継ぎ早に質問する俺が可笑しかったのか、エーラクトとラーシャがクスクスと笑っていた。尤も、笑いを堪えていたのは<不気味な刈手(グリムリーパー)>の中にもいたけどな、パイルとレトルスだが。


「ターナスさん、サラマンダーはめちゃめちゃ低体温の魔物なんですよ。あまりにも体温が低いために火山地帯のような所じゃないと生息出来ないんです」


 ほほう、色んな意味で想像を裏切ってくれるじゃないかサラマンダー。それにしても、知らなかったのは俺だけじゃないみたいだぞ。グレッグとアレーシアも「へぇ」って顔してるのを俺は見逃さなかったからな。


「それで、どんな発火装置が作れるんだ?」


「サラマンダーの魔石は強い衝撃を与えると火を吹く性質があるんですよ。通常は洞窟に潜る時の松明代わりとして使う物なんですけど、それを点いたり消えたり出来るよう改良しようと思って」


「ハルピュイアでも扱えるように?」


「です!」


 どうやら既にパイルの頭の中には魔道具の設計図か、或いは完成予想図が出来上がってるのかもしれないな。自分で魔道具を作るとは聞いてなかったが、魔術にも魔法にも研究熱心なパイルの事だ、魔道具の研究も色々してたんだろう。


 どんな形状になるのか、どうやって使うのかなどは教えてくれなかったが、独り「あーして、こうして……ここはこう……」等とブツブツ呟いては、急に口角を上げてニンマリするものだから、ちょっとアブナイ人に見えてくるのは……ご愛敬ってとこか。


「タナトリ……いえ、ターナス様。よろしければサラマンダー狩りに行った者たちが戻るまで、あちらでお寛ぎください」


 エーラクトに促され、俺達は大樹の根元に出来た樹洞に案内された。

 樹洞の中は木の葉が絨毯のように一面敷き詰められていたが、何故か草木の青臭さはしない。俺が鼻をひくひくさせていたのに気付いたのか、エーラクトが「大樹が緑の葉の匂いを吸収しているので青臭さは感じられない」と説明してくれた。


「さて、ラーシャの話ではカムペーも相当酷い扱いをされているし、彼女たちもタナトリアスの名の下に保護対象としよう。この件はなるべく早く全魔族に宣告するとしても、こうも魔族自体に種族差別があるとは思わなかったな」


 少々魔族というものを浅く考えていたかもしれん。

 この事に関してはグレッグも憂慮したようだ。


「人間族の場合は異種族を奴隷にすることがあるが、殆どの亜人種族は異種族を奴隷にすることなんてないからな。それに、傭兵のように人間族に代わって権力を手にしようと企んでいる魔族がいるって事も分かったし、魔族に関しては一筋縄ではいかないかもしれないぞ」


「ああ、そうだな。状況的にはガットランドに捕らわれてる亜人種族の救出を優先するとしても、魔族内の強硬派対策も必須になる。亜人種族を救出したあとは早めに魔王と会って話をしてた方が良さそうだ」


「ただなぁ……思うんだがよぉ、魔王様ってのは自分の国に種族差別がある事や、奴隷にされてる種族がいる事を知らないのかね? それとも差別を認めてるのか? 全魔族に対して命令する事が出来ないほど威厳が無いのか?」


 誰に問うというワケでもなく、苛立ちから自然と出てしまったのだろうが、グレッグの疑問は尤もだし、異種族が共存してるランデールのような地域を知ってる身からすれば、あまりにも無策な魔王と言いたくなる。

 

「場合によっては、かつて魔王は悪魔と戦って負けた――という伝承を再現する事になるかもしれませんね、ターナスさん」


 パイルの一言に皆が一斉に俺に顔を向けた。

 ――――そうならないように願いたいな。


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