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第67話 ハルピュイアの里

 森の中という危険極まりない場所にも関わらず、結界で外敵からの脅威を一切受けずに過ごす事が出来た。

 勿論、念の為見張り役として俺が寝ずの番をしていたし、アレーシア、グレッグ、パイル、レトルスが交替で暇潰しの相手をしてくれたので退屈はしなかったけれども……喋りっぱなしで別の意味で疲れた感がある。

 因みにハースとシーニャ、そしてオキピュートたち年少組には、シッカリと寝てもらった。否、年少と言っていいのはハースだけか?


 皆が起きたのを確認して、今日はハルピュイアの里に入る前に朝食を摂ることにした。

 これはオキピュートが言っていた「ハルピュイアには調理する習慣が無い」ってのが引っ掛かるからだ。里に入ってから俺達だけが「料理」を食べる……ってワケにもいかないだろうから、その辺を皆に説明しての朝食である。


「ハルピュイアに火起こしの技術を教える考えは無いのですか?」


 朝食を食べながらアレーシアが聞いてくるんだけど、どうしたもんか思案中なんだよなぁ。


「ハルピュイア自身で火の管理が出来れば問題ないだろうけど……」


「火の管理……か。意図せず火が燃え広がった場合に対処出来るかどうかだな」


 そう、グレッグの言う通り。生活圏が森の中である以上、迂闊に火を使えば火災を引き起こしてしまう。そうなるとハルピュイア自身の居場所が無くなってしまうし、逃げ遅れれば命に係わるので迂闊なことは出来ない。


「まっ、今ここで俺達が考えた所でどうしようもない。ハルピュイアたちに“その気”があるかどうかにもよるし、急な変化は戸惑いと過失を招きやすくなる」


「そうだな。まだ俺達はハルピュイアについて知らない事ばかりだ。急いては事を仕損じるって言うし、グレッグの言う通り急な変化は危険かもしれんからな」


「急いては事を仕損じる? どういう意味ですか?」


「焦ってあれこれやろうとすると失敗しがちだって事さ」


 パイルの質問に答えると、皆「あぁ~」と声を上げた後でそれぞれ「うんうん」と頷いている。冒険者という職業柄、思い当たる節が結構あるんだろうな。


「あの……よろしいでしょうか?」


「ああ、なんだいオキピュート?」


「私たちハルピュイア種は自ら火を扱うことは出来ないと思います。ですが、カムペー種なら火を扱えるかもしれません」


「カムペー種? それはどんな種族なんだい?」


「ハルピュイアは翼腕なので人族のような器用さはありませんが、カムペーは翼とは別に腕を持っているので、器用さはハルピュイアと比較にならない程優れています。彼女たちなら或いは……」


 グレッグたちも聞いた事のない種族だと言うので、詳しく訊ねてみた。


「私たちの住処は他の種族から“ハルピュイアの里”と呼ばれていますが、カムペーも一緒に住んでいるんです。彼女たちは魔法が使えるので魔族とされてはいるんですけど、他の魔族からは忌嫌われているのと、数が少ないので私たちハルピュイアの里を生息地としてまして、その……仲は良いので、もしかしたら色々と協力してくれるかもと思いまして……」


「翼とは別に腕を持つ種族……って事は、ハルピュイアと似た性質の種族?」


「えっと……あの……似てると言えば似てるけど、似てないと言えば似てなくて……」


「ああ、スマン。困らせるつもりはないんだ。里に行ったら会えるかな?」


「はい、大丈夫だと思います」


「分かった。ありがとう」


 どうやらハルピュイアと仲が良く、人間族や獣人族並に器用な種族が一緒にいるようだ。ならばそのカムペーとやらに火の扱いと管理を任せられるかもしれない。

 受け入れてくれるのならば……だけど。




◆◇◆◇◆◇




 ハルピュイアの里――

 そこには家屋が建っているワケでもなく、木の枝などの自然物で作られた営巣が点々としているだけで、おおよそ集落と呼べるような形成はされていなかった。


「確かに……魔族が同列視しないのも頷けるな」


 ボソッと呟いたグレッグの言葉に、返事はないが皆同じことを思っただろう。


「オキピュート、里の長はいるかい? 出来れば会いたいんだけど」


「はい。呼んできます」


 その場からサッと駆けると上空へ飛び上がり、周りの木々よりも一際太い幹の大木へ向かって行った。


 オキピュートが飛んで行ったあとは、木々の上の営巣からこちらを見つめる沢山の視線が感じられる。オキピュートが一緒だったから敵視はしていないようだが、それでも多少は警戒しているのだろう。


 たいして間を置かずにオキピュートが一人のハルピュイアを連れて戻ってきた。


「エーラクト様、彼等が私を救ってくれた方たちで、あの黒服の方が申し上げたターナス様です」


「私はこの里の長、エーラクトと申します。この度はオキピュートを魔族から救って頂いたとの事で、深く感謝致します」


 随分と若い女のハルピュイアだが、立ち振る舞いには悠然とした態度が見られ、彼女に対するオキピュートの接し方から見ても威厳ある存在なのは確かのようだ。


「ご丁寧にどうも。私はターナスと言います。我々は『人間中心主義』を壊滅させる為にガットランド王国へ向かっている途中ですが、隣国で攫われた亜人種族を追っているうちにガットランドと通じてる魔族がいる事を知りまして、その亜人種族の救出過程でオキピュートを保護したワケなのですが……話によるとハルピュイアは他の魔族から迫害を受けているとか」


「お恥ずかしい話ですが、その通りです。我等ハルピュイアは魔法が使えず、さりとて武器を持って戦う事も出来ません。故に、魔族からは蔑視され、里の者が攫われてもなされるがままに受け入れるしかありません」


「その事だが、ハルピュイアは『死神タナトリアス』が保護下に置くと宣言した。今後ハルピュイアを迫害する事は死神タナトリアスの意に反するものとする――と、魔王国全土に周知される」


「それは一体……?」


「ただし、まだ安心は出来ない。奴隷扱いから解放する事を面白く思わない魔族もいるはずだ。そんな連中が隠れて同じことを繰り返す可能性もあるからな。そこで、君たち自身にもある程度の自衛策をとって欲しいと考えてる」


 俺の言っている事に理解が及ばないのか、エーラクトはかなり動揺しているようだ。そんな彼女の姿に気付いたパイルが言葉を繋ぐ。


「エーラクト殿、彼こそが亜人種族を抑制から解放する『救世主タナトリアス様』なんです。そのタナトリアス様がハルピュイアを保護すると仰ってるんですよ」


 パイル、何だか凄く怪しい宗教団体の勧誘みたいだぞ。エーラクトも少し退いてるじゃないか……。


「別に戦う術を身に付けろ言ってるんじゃない。少しだけ文明的な生活を送る事を考えてみないか……と思ってるんだ」


「……と、言いますと?」


「この里に――何て言ったかな? オキピュート」


「……あっ! カムペーですか?」


「そうだ、そのカムペーという種族が一緒に住んでるそうだな?」


「はい。数は少ないですが、この里で暮らしております」


「会う事は出来るかな? 彼等にも協力して貰いたいんだが」


「あの……彼等と申されましても、カムペーは我等ハルピュイアと同じく女だけの種族ですが……」


「えっ? そうなのか?」


「……はい」


 グレッグを見ると……首を横に振る。パイルは……肩を竦め、アレーシアは……首を傾げて、レトルスは……小さく頷く。ハースとシーニャは……目をパチクリ。


 女だけの種族って、種の保存ってどうなってんだよ⁉ アマゾネスだって……だって……アマゾネスってどうやって子孫を残してるんだ?

 まぁ、今はそれを聞いても仕方ない。


「取り敢えず、カムペーにも参加してもらいたい。呼んでもらえるかな?」


「はい、スグに。オキピュート、カムペーのラーシャを呼んできてくれる?」


 エーラクトに言われすぐさま飛び立つオキピュート。彼女が去った後、レトルスとハース、そしてシーニャ以外は、俺を含め少しばかり途方に暮れてしまっていた。


 どのくらい経ったか……否、実際にはそれほど間は空いてないだろうが、オキピュートが不思議な容姿の種族を連れて戻ってきた。


「エーラクト殿、どの様なご用ですか?」


 上半身は人型の女。だが下半身は鱗で覆われた恐竜のような姿をし、腰のあたりからは鋭い爪を持ったドラゴンのような翼が生えていた。


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