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第66話 共同土木工事

 駐屯所を出発してから三日目の朝。

 昨夜は暗い森の中を進むのは危険と判断し、ハルピュイアの里がある森の手前で野営をして過ごし、夜が明けてから森に入った。


「ここから里まではどのくらい掛かるか、分かるかい?」


 空を飛べるハルピュイアなら大したことのない大きさなのだろうが、地上を行くとなると森の中の道は凹凸が激しく、揺れる馬車では歩いているのと殆ど変わりのない速度になってしまう。

 先程の質問に対するオキピュートの答えは「これだと日が暮れる前に着けるかどうか……」だった。大きすぎるだろ、この森。


 それにしても揺れが酷すぎるし、このままじゃ馬車酔いしちまいそうだ。


「パイル、馬車を止めてくれ」


「う~ん、ちょっと酷すぎますねぇ……この道」


「ああ、このままじゃ皆の腰と尻がどうにかなっちまう。魔法で道を整備するからちょっと待っててくれ」


「あっ! それなら私にも教えてください。魔術でもやってみたいです」


 こんな時でもパイルは研究熱心だな。


「乾いた土をドロドロしたぬかるみにする魔術ってのはあるか?」


「う~ん……いっぺんにぬかるみを作る魔術ってのは無いですね。やるのであれば土を細かく砕く『土壌粉砕(ソイルクラッシュ)』の魔術を掛けた上に、何らかの水魔術で大量の水を撒いて泥濘を作り出すことなら出来ますけど」


「その二つを掛け合わせた魔術は作り出せない?」


「ムムムッ! 無茶振りをしますね……?」


「いや、そういうワケじゃなないって。それじゃあ逆に泥濘を固める魔術は?」


「それなら『昇華凝固(コアゴレーション)』で可能です」


「じゃあ俺がこの凸凹した道をドロドロの泥濘にして平らに均すから、それをその『昇華凝固』で固めていってくれ」


「なるほど、了解しました」


 兎に角ボコボコに荒れた路面を一度ドロドロの泥濘にして、そこに振動を与えて泥濘を平らに均してしまう。そうしたら今度は、平らに均した泥濘の水分を揮発させることで路面を固めてしまえば、平らな道の完成ってワケだ。要はコンクリート敷きの要領だな。


 とは言え、延々とこれをやり続けるのは得策でないし、俺は兎も角パイルの体力が持たないから、所々で凹凸が激しい区間だけを整備することにした。

 それほど酷くない場所は俺かパイルが『虚空斬(ブラインドスラッシュ)』で路面の凹凸をザックリと削って、馬車が大きく揺れない程度に均す――という方法をとっていく。


「この均した道は、あとでまた元に戻しておいた方がいいかもなぁ」


「どうしてです? 馬車が揺れない道なら残しておいた方が便利では?」


「いや、この先にハルピュイアの里があるんだろ? それを狙って今まで魔族が攫いに来てたってんだから、逆に往来し難い方が都合が良いんじゃないか? って思ってな」


「まぁ確かにそうですけど……。ハルピュイアは『死神の保護下にある』って宣言したんですから、そうそう手出しはしないと思いますけど?」


「ちゃんと守られればな」


「愚か者はいますか……」


「……いるだろうな」


 子狡い奴ってのは監視の目が無くなると悪さをするもんだ。それまで都合良いようにハルピュイアを奴隷として扱ってきた連中からすれば、面白くないだろう。


「まぁ、そこら辺は今後の課題だな。例え魔法が使えても戦闘で役に立たないと『下等種』として見下されるようだし、この国で蔑まれている種族はハルピュイアだけじゃないみたいだからな」


「はぁ~っ、つくづく戦闘種族ってのは戦う事しか頭にないんですかね」


「ああ、そう言うのを俺がいた世界では“脳筋”って言うんだ」


「ノウキン?」


「そ、脳みそまで筋肉だから脳筋」


「アハハハハッ、それは分かります! いますよね、そういう戦闘バカ! アハハハハハ」


 パイルが魔術師だからなのか、琴線に触れたようだ。何かにつけて戦闘で決着付ける事しか思い浮かばない連中に対して、思い当たる節が色々とあるのかもしれない。

 ……でも、パイルも脳筋ってワケじゃないけど結構な残虐性持ってるよ? 言わないけど。


 取り敢えず、ある程度進んだ所で俺だけ馬車を降りて後ろに向かい、均してきた道を一気に崩して元の酷道へと戻してしまう。

 馬車の中から見ていたグレッグとアレーシアも「勿体ない」と思ったそうだが、俺が憂慮している事を話すと「なるほど」と納得した。


 道を整えたり荒らしたりと繰り返しながら来たので、予定というか予想よりも時間が掛かってしまった。

 オキピュートによれば里ははもうすぐらしいが、既に日が暮れてきてしまい、陽が遮られる森の中では暗くなるのも早くなってしまう。


「ターナスさん、どうします? 火を灯せば進むことも出来ますけど、何らかの危険に遭遇する率が高まります。――かと言って、こんな場所で野営をしたら野獣なり魔獣なりに襲われる危険がありますし……」


「あと数分もすればもっと暗くなるだろうし、此処で野営した方が安全だろう。馬車を中心として結界を張れば野獣に襲われる心配も無い。それに、俺が見張りをするから問題無い。俺は睡眠が絶対に必要ってワケじゃないからな。皆もそれで良いかな?」


「ああ、結界が張れるなら問題ないだろう。でもまぁ、俺たちも交替で見張りするよ。ターナス独りで寝ずの番じゃ退屈だろ?」


「そうですね。それにターナス様を独りにさせると、何やらかすか分かりませんし」


 俺には厳しいアレーシアである。俺ってそんなに何かやらかしてきたか?


「何かやらかすつもりは毛頭ないけどな。それじゃあ今夜は此処で野営としよう」


 馬車を街道脇に寄せて止めると、そこを中心に半径五メートル程度で円蓋の結界を張った。

 森の中を通る道だから幅はそれ程広くはない。そのため結界で道を遮断してしまう事になるが、まぁ夜中にこんな所を通るヤツはいないだろう。万が一いたとしたら「そいつは怪しい奴だ!」と、いう事にしておこう。


 道の真ん中で火を焚いて食事の準備をする。

 ユメラシアに入る前にアレーシアとパイルが買って空間収納に入れていた柔らかいパンが、数日経った今もまだ柔らかいままで食べられることが相当嬉しいのか、昨日の昼と夜、そして今日の昼に続いて今夜も皆パンをご所望である。

 魔王国での食料事情を心配して大量に買い込んでおいて本当に正解だったな。


 そして、そのパンに焼いたフリカデレやソーセージを挟んだ“ハンバーガーもどき”と“ホットドッグもどき”が皆気に入ったらしく、今夜もまたファーストフード的な夕食だ。

 飲み物がコーヒーじゃなく、ワインと水だけなのが難点と言えば難点ではあるが。


 オキピュートによるとハルピュイアには調理という習慣がほぼ無いとの事で、普段は生肉や野草、果実などをそのまま食べているのだそうだ。

 ただし、時々落雷などで発生した自然火を使って肉を焼く事はあるのだと言う。つまりは自然発火による火が得られなければ、肉は生食が基本だという事。

 

 焼いた肉の味を知っているのなら生肉ばかりが続くのは結構キツイんじゃないだろうか? と思ったら、やはり若いハルピュイアほどそう思っているとのこと。


 魔法も道具も使えない為に、火を起こすという行為が難しいハルピュイアとしては、焼いた肉というのは相当な御馳走なので、こうして調理されたモノを食べられるのは「本当に夢のようだ」と、泣き笑いしていた。


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