第64話 トラブルメーカー
捕縛した傭兵幹部を尋問している二階に上がると、粗方尋問は終わったのかグレッグとパイルが話をしている状況だった。
「何か情報は得られたか?」
「ええ、ターナスさん。此処に集められた人たちは直接ガットランド国境近くの村まで連れて行かれて、そこからガーネリアス教会の関係者に引き渡されてるそうです。そこまでの道程も分かりました。それと、現在ユメラシア魔王国内に監禁されている亜人種族は、ここにいる人達で全員だそうです」
「他に隠れ家や監禁場所は無いって事か?」
「はい。そもそも傭兵ギルドと言ってもガイール支部が他の支部や本部に隠れてやっていた悪行なので、拠点は例の廃教会とこの支部、そして最終的なガーネリアス教会との接触場所であるジェイル村の三箇所が限度だったようですね」
「その――ジェイル村まではどのくらいの日数が掛かりそうだ?」
「馬車で何処にも寄らず直行したとして三日との事です。因みに、最後に亜人種族を連れて此処を出たのは八日前だそうですから、残念ながら既にガーネリアス教会に引き渡されてしまったと見ていいでしょう。ユメラシアに残ってるのは今ここで保護出来た人達だけってのは、嘘ではないことをシーニャが確認しています」
保護した亜人種族は魔族側の冒険者ギルドを通して、魔族が責任をもってランデールへ帰還させられるよう手筈は整っている。
想定していたよりも保護出来た人数が少なかったから、そこら辺は問題無く任せられるだろうが、ハルピュイアに関してはそう簡単にはいきそうにない。
「グレッグ、オキピュートの事だが――」
「あのハルピュイアか? ユメラシアでは魔族として見られてないって話しだったか、それなら他の亜人種族と一緒に魔族に任せるのは不安が残るな」
「そうなんだよ。それで、どうしたら良いか……何かいい考えは無いか?」
「俺達でハルピュイアの里に連れて行ってもいいが、それだと問題の解決にはならないしなぁ……」
俺がハルピュイアに対して興味を抱いてる、或いは保護しようとしていると衛兵たちも思っているだろうから、無闇矢鱈とぞんざいには扱わないと思うが……だからと言ってまだ信頼するには取るに足りないんだよなぁ。
「ターナス様の魔法で何とかならないんですか?」
そう言うのはアレーシアだ。
何とかと言われても、何をすりゃいいんだ?
「何か具体的な案はあるのか?」
「例えば彼女に『絶対防護』の魔法を掛けて傷付かないようにするとか、護衛の者に『手出ししたら死ぬ』と魔法を掛けるとか……ターナス様なら魔法で何とでも遣り様があるかと思うんですけど」
「う~ん、確かに出来なくはないが……」
オキピュートを防護する魔法を掛ける事も、彼女に対して危害を加え様としたら死に至る魔法を掛ける事も可能っちゃ可能ではあるけど、そうじゃないんだよ。ハルピュイアを無下に扱っている魔族全てをどうにかする必要があるんだよ。
なかなか思い切れないで悩んでいると、ふとグレッグが提案してきた。
「魔王にハルピュイアの実情を伝えて、魔族全体にハルピュイアへの不当な扱いを止めるよう言ってもらうのはどうだ?」
「確かに王命であれば従うだろが、必ずしもそれが守られるとは限らんぞ? 人間社会だって法を破って悪事を働くヤツはいるじゃなか」
「それを言ったら切りがないけどな。それじゃあどうするよ?」
「やはりタナトリアス様としてハルピュイアを保護すると宣言されては如何でしょうか? 魔族の立場としてこのような事を言うのはどうかと思うのですが、魔王様よりも死神タナトリアス様のお言葉の方が強く刺さると思うのです」
魔族であるレトルス的には魔王に対して不敬な言葉ではあるが、実際には魔族を含む亜人種族にとって死神タナトリアスは救世主とされているので、従うのならどの種族の長よりも死神の言葉なのである――というワケだ。
取り敢えずはソレが一番手っ取り早いか。
実際問題として黒魔法使いも下等種なんて言われてるワケだし、ハルピュイアだけが不当な扱いを受けているワケじゃないだろうが、まずは奴隷扱いを止めさせるのが先決だからな。
此処で宣言をして、その事を此処にいる魔族の衛兵や自警団に広げてもらうしかあるまい。
「よし、それじゃあ宣言するか」
辺り一帯に響き渡るように声を空気の振動に乗せて拡声し――
「――今此処にいる全ての者に告げる。種族としてのハルピュイアを死神タナトリアス保護下に置く。これによってハルピュイアを奴隷と同列に扱う事を禁じ、反した者は死神の名の下に極刑に処す。この言葉を即刻、魔王国全土の住民に知らしめよ」
拡声させて宣言した為、付近にいる魔族全てに聞こえたはずである。そして、近くにいた衛兵に対し「速やかに魔王にも伝えよ」と言って数人を王都へと走らせた。
「さて、オキピュート。君が希望するなら故郷へ連れて行くけど、どうしたいか望みはあるかな?」
「……家に帰りたい……です」
「分かった。それじゃあ俺達と一緒に行こう。案内してくれるね?」
「はい」
「――と言うワケだ。皆もそれでいいかな?」
一応聞いてみるが……。
「良いも悪いも、ターナスがそう決めたのならそれでいいさ」
「嫌ですって言ったら止めるんですか? 言いませんけどね」
グレッグとアレーシアの言葉は傍から見れば嫌味っぽく聞こえるだろうが、別に嫌味でも何でもなく単に「いちいち聞かなくても反対なんかしないよ」という意味で言っているのだ。もちろん笑顔で。
パイルとハース、それにレトルスも声に出して肯定してるワケじゃないが、笑っているのでOKって事だろう。シーニャは無表情だが……ハースが望むなら多分大丈夫。
ガットランドへ向かうのが少し遠退いてしまうが、どうも<不気味な刈手>は行く先々で別件の問題に関わってしまうのが当たり前になってしまったのは……気のせいだろうか? そのうち「<不気味な刈手>はトラブルメーカーだ」とか言われそう。
なんてことを皆に話したら「問題に首を突っ込んでるのはターナス(様)だ(です)」と、何故かグレッグとアレーシアにつっこまれてしまった。
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