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第63話 ハルピュイアの実情

 体の中から猛毒に侵されてる痛みと苦しみを身動き一つとれずに呻吟し、苦しみ喘ぎながらドラゴノイドのクディアードは死んだ。

 これによって傭兵ギルドにおける匪賊は壊滅したと思っていいのだろうか。


「ターナス様、お疲れさまでした」


 最初に声を掛けてきたのは建物から出て来たハースだった。そんなハースも笑みを見せてはいるが表情は疲労困憊を隠せない。


「ああ、ハースもお疲れ。よく頑張ってくれたな」


 思わずワシャワシャと頭を撫で搔きまわしてしまった。こんなにも大立ち回りをした後なのに、相変わらずハースの毛並みは気持ち良い。

 そして、そこにアレーシアやレトルスもやって来る。


「アレーシア、レトルス。二人もよくやってくれた。ありがとう」


「ターナス様のおかげで掠り傷ひとつ負ってませんから。ありがとうございました」


「タナトリアス様、ありがとうございました」


 そして――


「本当にターナスのおかげで掠り傷ひとつ付かなかった。傷付く心配なく戦えるってのは凄いな」


「ああ、俺もグレッグには過保護が過ぎる防護だったと悔やんでるとこだ」


「辛辣だなぁ……」


 グレッグが中心となって戦闘をしていたんだろうし、俺が来るまでなかなか傷を付ける事さえ出来ないクディアードと対峙してたのだから、相当疲れていると思うのだけど……そんな様子がさっぱり見えないものだから、本当にグレッグには『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』なんて必要なかったんじゃないかと思ってしまう。


「まぁ兎に角終わったんだ。あとは捕縛してる連中から詳細を聞き出すとしよう」


「そうだな……っと、グレッグは先にそっちへ行っててくれ。俺はちょっと別の用がある」


「別の用?」


「ああ、拉致されていた亜人種族の中にハルピュイアがいたんだが、魔族はハルピュイアは魔物であって奴隷と同じだと言ってたんでな。ちょっと気になって」


「ハルピュイアが魔物? 俺達の中では魔族の一種だとされているが……」


「……そうか。まぁ、そんなワケだから先に様子を見て来ようと思ってな」


「ああ、そうした方が良さそうだ。尋問の方は任せておけ。――と言っても既にパイルたちが聞き出してるかもしれんけどな」


 あっちはグレッグに任せて、気になるハルピュイアの所へ行く。

 

 一階フロアで捕縛された傭兵を監視している衛兵に声を掛け、傭兵の中に幹部クラスがいないか聞いてみる。もし幹部クラスがいれば二階で尋問なのだが……取り敢えず捕らえられたのは特に階級の無い一般傭兵だけのようだ。


「尋問するかもしれんから、まだ殺したりするなよ」


 衛兵という立場にあれば問題無いとは思うが、戦闘直後の興奮状態にある勝利側の兵士ってのは無抵抗の敵兵を虐殺する事もあるって言うからな。一応制止だけはしておいた方が良いだろう。


 保護した亜人種族のいる部屋に入ると、捜索小隊の連中が直立不動で敬礼してきた。どうやらこの部屋を出る時に言った念押しが効いたのかもしれん。

 因みに、二つに分けた小隊のうちの片方は自警団のみで編成していたのだが、ハルピュイアを「奴隷と同じ」と言ったのは、その自警団で編成した方の小隊だった。


「ハルピュイアの様子はどうだ?」


「はい。経過は良好の様です」


「何か言葉は?」


「いえ、特に何も」


「そうか」


 横たわってはいるが寝顔はとても安らかに見える。

 傍らに腰を下ろして翼や脚を眺めていると、ピクッと動いて目を開けた。


「目が覚めたか?」


「……」


「安心していい。君たちを救出にきた者だ」


「……魔族?」


「いや、俺は魔族じゃない。とは言え、人間族……とも言えないのかなぁ? まぁ君の味方なのは間違いないから安心してほしい」


「……」


 言い方が悪かったかな? 警戒してるんだろうけど、やっぱり人間族に攫われたうえに自分達を奴隷扱いする魔族に引き渡されたのだから、そりゃ誰も信じられなくなるよなぁ。


「まず一つ聞きたい事があるんだけど、ハルピュイアが奴隷扱いされてるってのは本当なのかい?」


 眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしつつ、小さく頷いた。


「そうか。ハルピュイア以外にも同じ様に奴隷扱いされてる種族はいるの?」


 その質問には首を横に振る。


「体の方はどうだ? 動けるかな?」


 ゆっくりと起き上がり、小さく翼をワサワサと動かすと、コクリと頷いた。


「名前は?」


「……オキピュート」


「よし、じゃあオキピュート。君はこの俺、ターナスが保護するから、一緒に来てくれるかな?」


「……どこ……へ?」


「<不気味な刈手(グリムリーパー)>という俺の仲間たちの処だ」


「……」


 また何処か知らない場所に連れて行かれると思っちゃったかな? 流石にスグには信用してもらえないかぁ。さて、どうしたもんかな。


「ターナス様……」


 この声はハースか。


「どうした、ハース?」


「そちらの方は、どうされたんですか?」


「ああ、彼女はハルピュイアのオキピュートだ。ハルピュイアは魔族から奴隷扱いされてたようでな。俺達のところで保護したいと思ったんだが……」


「奴隷なんて……酷いです! どうして同じ魔族なのに奴隷にするんですか⁉」


「私もハルピュイアは魔族の一員だと認識していましたが、魔族の中では違ったのでしょうか」


 やはり獣人種族もハルピュイアは魔族として捉えてるんだな。アレーシアもグレッグ同様に魔族として認識しているし……そういえばドラゴノイドの奴も俺の事を「下等種の黒魔法使い(ウォーロック)」って言ってたっけ。魔族の中には種族差別が相当あるっぽいな。

 ここは魔族であるレトルスにも聞いておいた方が良さそうだ。


「二人ともオキピュートの傍に付いていてやってくれるか。俺はちょっとレトルスと話をしてくる。レトルス、ちょっと来てくれ」


 レトルスを外に連れてハルピュイアについて知っている事を訪ねてみた。


「ハルピュイアは魔族の特徴でもある魔法が使えず、戦闘能力も無いために劣等種なのだとは聞いていました。ただ、実際ハルピュイアを見たのは私も初めてなので、正直申し上げて少し戸惑っています」


「魔法が使えず戦闘能力も無い……か。だから奴隷扱いされていると?」


「いえ、奴隷扱いというのも知りませんでした。私が聞いたのは『ハルピュイアは不浄な存在。故に汚物処理や屍の処理しか出来ない』というものです。なので、そういった仕事はハルピュイアがしていると聞いた程度で奴隷だとは……」


 追い出されたとはいえ元々は貴族の令嬢だったのだから、俗世間の低俗な話は知らなくて当然と言えば当然か。


「なるほど。因みに、魔族の中では種族差別ってのはどの程度あるか分かるか?」


「種族差別ですか? 魔族は力が全てと考える者が多いので、戦闘力に劣る種族は軒並み差別されているかもしれません」


「俺も『下等種の黒魔法使い』と言われたんだけどな」


「――なっ! 誰がそんな事を!」


「ああ、そんな大声出さなくてもいい。死んだドラゴノイドのクディアードだよ。ヤツが俺を黒魔法使いだと勘違いした時に『下等種』って言ったから、魔族の中にも差別があるんだなぁ~って思ったのさ」


「タナトリアス様に対して、誠に申し訳ございません」


「レトゥームスの立場だとしてもお前が謝る事じゃない。そんな顔をするな。俺は俺、何も気にしてないから」


 自分のせいじゃないのに落ち込んでしまったレトルスを落ち着かせて、取り敢えずはオキピュートを他の魔族から離して、俺達が保護者である事を知らしめておくか。

 あとはオキピュート自身がどうしたいかを聞かないとな。


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