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第61話 守ってあげたい

 ザーザードが倒れ部屋は歓喜に包まれるが、まだ終わったワケではない。

 『呪縛』で動きを封じられたザーザード配下の魔族が、絶望の様相で俺達を見ている。


「亜人種族の誘拐、殺害、その他諸々の罪でお前たちを罰する。言っておくが抵抗や反抗する者は容赦なくその場で処刑するからな」


 ガイール支部の真の権力者であったザーザードが倒された事で、傭兵たちは抵抗する意思を失っている様にも見えるが、全てが降参したとは限らないので油断はならない。

 そして、これから更に尋問してガットランドとの繋がりを聞き出す必要があるのだから、なるべく生かしておく必要もあるのだ。


 動きを封じられた七人の傭兵たちは、既に中隊の衛兵と<不気味な刈手(グリムリーパー)>によって皮を編み上げて作った縄で捕縛されている。その上から凝固魔法を掛けて縄を強化してから『呪縛』を解除した。


「さて、ザーザードは死んだ。もうお前等を守ってくれる者はいない。これから訊ねる事に関して嘘偽りなく答えろ。もし虚言を吐いたらどうなるか……考えてみるんだな」


 ザーザードと同室に居たという事は、それなりの幹部クラスだとは思うのだが……捕縛されて戦闘意欲を失った彼奴等には、幹部としての威厳や強さ的な貫禄は全く感じられないな。


「まず、ひとりひとり名前と階級を言って下さい」


 パイルが尋問を始めた……が、案の定というか何というか、おそらくは見下しているだろう獣人種族の女からの問い掛けには知らんぷりを決め込んでやがる。


「パイル、気遣う必要はないからな。やり易い様にやっちゃってくれて構わないぞ」


「おお~っ! 了解です。それでは……もう一度聞きますよ? ひとりひとり順番に、名前と階級を言って下さい」


 パイルの方を見向きもせず、苦虫を潰した顔をしてソッポを向く幹部傭兵たち。

 そんな連中にトコトコと近付いたパイルは、一番左端にいた顔の上半分が蜥蜴っぽい男の縄を掴んで引き摺ると、他の連中から少し離して転がし徐に魔術杖(マジックワンド)を取り出して詠唱を始めた。


『闇の光、陽の影、戯れに混じりて大地より離れし結び繋げ……結界!』


 球状の結界に封じ込められて焦りだす蜥蜴幹部。この後何をされるのかと不安になったのだろうが……俺にはパイルが何をするのか分かった。


 球状結界の中でアタフタしている男と、それを「何が起こるのか?」と不思議そうに、且つ不安そうに見つめる六人の幹部傭兵。

 そして――。


『火の聖霊よ焔を業火と化して全てを焼き尽くし地獄へと堕とせ……死絶の業火!デスフレア・デストラクション


 パイルが魔術杖を振るったのと同時に、球状結界の中で炎が渦を巻き蜥蜴幹部を覆う。

 中の音は全く聞こえないが、激しく叫び悶え苦しんでいる蜥蜴幹部の姿を見ているだけで、業火に焼かれていくおぞましいさが分かるというモノだ。


 残った六人の幹部傭兵たちは、業火に焼き尽くされていく蜥蜴幹部を驚愕の様相を浮かべて見つめていた。

 そして、全てを焼き尽くし炎が消えた結界を解除すると……灰燼だけがサラサラとその場に落ちて行く。だがその灰燼さえも、パイルは魔術杖を一振りして風を起こし吹き飛ばしてしまった。


「さて、もう一度聞きましょうかねぇ。端から順番に、名前と階級を言って下さい」


 冷たい笑顔のパイルが問うと、しどろもどろながらも左端の猪みたいな牙を持った男が喋り出す。


「わ、我の名はダンゲイル。階級は……少……佐」

「我はバルマード。階級は大尉」

「我は―― 」


 牙幹部が名前と階級を告げると、残る幹部たちも次々と名前と階級を白状していく。先程まで「獣人種族の女如き」といった目でパイルを見ていた連中だったんだけどねぇ。

 尋問を始めたうら若き羊獣人族の魔術師女子が、「無視されたから」と躊躇することなく拷問をすっ飛ばして被疑者を滅却させてしまうのだからね。助かりたければ言われるがまま従うしかないだろ。


 次の質問に移ろうとした時、階下からドタドタと駆け上がって来る音と共に張り上げる声が聞こえた。


「レトゥームス様! タナトリアス様! 表に傭兵が集まってきました。外に出ていた傭兵が騒ぎを聞いて戻ってきたようです」


「パイル、シーニャ。それと第一中隊から五名は此処に残って尋問と監視を続けてくれ。他は表の傭兵の対応だ」


 念の為、仲間たち全員に『絶対的身体防護アブソリュート・プロテクション』を掛けておく。


「ハース、アレーシア、レトルス、無理はするなよ。ヤバそうな時は退くのも戦術だからな」


「はいです!」「わかりました!」「承知しました!」


 『絶対的身体防護』を掛けている限りは掠り傷ひとつ負う事はないのだが……それでも万が一の万が一があってからでは遅いからな。


「ターナス、お前は過保護が過ぎるぞ。それと……」


「それと何だ、グレッグ?」


 やけに深刻な顔をしているが、何か不安材料があるのか。


「その『絶対的身体防護』っていう魔法は……どの程度まで防御されるんだ?」


「ん、ああ。“絶対に傷つかない”って思ってくれていい。要は如何なる攻撃も受け付けない完全防御って事だ」


「そっか!」


 一転して満面の笑みになって下に降りて行くグレッグ。あれは無茶苦茶派手に暴れる気だな。何だよ「過保護が過ぎる」って。お前にこそ過保護が過ぎたわ……。


 取り敢えず、一階に降りると第二中隊が捕縛した傭兵が纏められていた。衛兵側には若干負傷した者もいた様だが、特に治療を必要とするほどではない様だ。

 逆に、傭兵側には死傷者が数人出ていた。魔王軍の選考に落ちた落第者が傭兵に多いと聞いたが、それだけ正規の魔王軍は実力ある者しかなれないって事なんだろう。


「外の状況は?」


 先に降りていたグレッグが衛兵に訊ねると、ギルド建物の周囲をおよそ二十名強の傭兵が取り囲んでいると返答した。

 もともと外で最初に傭兵を捕縛していた第三中隊と、万が一の為に待機していた救護班は、捕縛した傭兵たちを奪還されない様に戦闘を避けて建物内に退避している。


「俺とグレッグで戦端を開いて、粗方片付けてから衛兵たちに任せるか?」


「そうだな。まぁ、そうなると衛兵たちのやる事が無くなりそうだけどな」


 うん、お前一人でも十分な気がしてきたよ。


「タナトリアス様、捜索小隊が亜人種族十六名を保護したとの事です。ただ、生命維持の難しい者が数名いると……」


「何処にいる?」


「あちらです」


 そう言って衛兵がフロア左側にある部屋を示した。


「グレッグ、俺は亜人種族の負傷者を診て来るから、あとの事を任せる」


「ああ、任せておけ」


「アレーシア、ハース、レトルス。グレッグの指示に従って無理しない程度にやってくれ」


「はい!」「まったく、子供じゃないんですから……」


 アレーシアはちょっと不満げ? まぁ、怪我する事はないだろうけど……死神は過保護が過ぎるそうなんでね。

 それより――。


 衛兵に案内されて亜人種族を保護している部屋に入ると、獣人種族を主体にドワーフ数人。そして鳥の羽根が生えた鳥人間? らしき者が一人いた。


「危篤状態というのは誰だ?」


「その犬獣人族です」


 グッタリと横たわっている犬獣人族の男に救護班の兵士が付いているが、俺向かって顔を横に振り手の施しようが無いと暗に訴えている。


「ちょっと代わってくれ」


 救護兵に代わり犬獣人の傍らに付き、手を腹部に当てて状態を精査してみると……内臓の機能がほぼ停止しかけていた。

 一番酷いのは食道から胃に掛けてで、人間と同じであれば赤味を帯びているはずが紫色に変色している。他にも腎臓が硬直しているようで、全く機能していない。

 これは何らかの毒物を飲まされた可能性がある。


 毒物の浄化、機能停止している体内組織の修復と復元、壊死した組織を新たに創造――――再生させていく部分が動き出し、機能を回復していく。

 同時に止まりそうな心肺も増強治癒を施し、心拍を回復させる。


「呼吸が戻ってきましたね。凄い治癒魔法です!」


 俺が来るまで彼の治療をしていた救護班の魔族もホッとしたのか、声に安堵した様子が感じられた。


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