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第6話 アダル集落

 アダルの集落は兎獣人族を主体としつつも、猫獣人や羊獣人の姿もちらほらと見受けられるし、豚獣人のようなのもいたな。混合集落みたいだ。

 待てよ。豚獣人ってオークとは違うのか? 

 そもそもオークは魔族? 魔物? もしかして、豚獣人に対して「オークじゃないの?」は禁句だったりして……?


「如何されましたか?」


 キョロキョロとし過ぎたか、メナスが不思議そうに訊ねてきた。


「いやなに、色々な獣人がいると思ってな」


「ははは、我々のセサンも猫獣人族が多いというくらいで、似たようなものです」


 カラカラと笑いながら馬車から降ろした木箱を並べ、商売の準備をしている。

 木箱の中は燻製肉だった。

 肉の行商とは言っていたけど、そりゃあ流石に生肉は無理だよな。


「もっと大きな街に行けば、更に他種族が共存していますし、それこそ亜人種差別に反対している人間族も同じ街に居ますからね」


「同じ街に人間も住んでいると?」


「ええ。先ほどもターナス様を『我々に味方している人間族だ』と言っても良かったのですが、そうすると『本当に味方なのか』『人間族の間者ではないのか』等と執拗に聞いてくるはずなので、つい魔族だと言ってしまいました。申し訳ございません」


「いや、それは問題ないさ。臨機応変、臨機応変な」


「はい。ありがとうございます」


 ニコニコとしているところを見ると、一概に人間嫌いというわけでもなさそうだな。

 それはそうと、燻製肉を見てたら腹が減ってきたぞ。とはいえ俺、金持ってないぞ。どうする俺。


「ハースや、今のうちにターナス様に集落を案内でもして来るといい。ほら、替え札だ」


 俺の気持ちを読んだのか、メナスよ?

 で、その替え札ってのは何だ?


「これは物々交換と同じ役目がある替え札という物です。これで食べ物とも交換出来ますので、ターナス様もお使い下さい」


 俺が替え札とやらに目を向けて、不思議な顔したのに気付いたか。

 ご説明ありがとうございます。


「いや、でもいいのか?」


「勿論ですとも。もっとも、我々が食べるような物がターナス様のお口に合うかどうか」


「いやいや、大丈夫だろう。ありがたく使わせてもらう」


 一瞬「獣人って何食べてるんだ?」とも思ったが、燻製肉を作ってるんだし、此処の集落は農業が盛んだという話だし、大丈夫だろう。 


「ではターナス様、一緒に行きましょう!」


「あ、ああ」


 馬を繋げてひと段落したのか、特に開店準備をするわけでもないハースが飛びついてきた。猫耳がピコピコ動いてる。


「こちらです!」


 無意識なのだろうか、ヒョイと俺の手を取って引っ張っていく。今日初めて会ったばかりで、しかも見た目は人間のおっさんの手を簡単に握るだなんて。

 警戒心が無いのか、それとも俺を信用してくれてるのだろうか。まぁこの様子から察すれば、信用してくれてると思って良さそうだよな。

 それにしてもハースよ、お前も年頃の娘だろう。もう少し気を付けた方がいいんじゃないか。

 もし俺が猫獣人だったとしたら、どう見られるのだろうか。流石に親子には見えないと思いたいけど、ハースは人間で見れば小学校高学年くらいだよな。

 ……ギリ親子でも問題無さそうだわ。


 ハースに手を引かれたままやって来たのは、祭りの屋台の様な造りの出店だった。

 ここは市場的な場所なのだろう。食材や生活用品の様な物を売ってる屋台が並んでいる。


「ターナス様、この野菜肉巻きが美味しいですよ」


 ふむ。見た目はクレープのようだが、具は野菜と肉か。タコスやブリトーに近いのかも。


「おじさん、野菜肉巻き2つください」


「はいよ嬢ちゃん。今日はお兄ちゃんと一緒かい?」


 お兄ちゃんって。異世界でも獣人でも、お世辞は商売人の常套句なんだな。


「えへへ、お兄ちゃんじゃなくて救世主様ですよ!」


 おいおいおいおい、何言ってんだハース!


「救世主様かぁ、そりゃ有難いお方だ! よし、じゃあ救世主様の分は多めにしてやろうな」


 ああ、この兎獣人はちゃんとハースの話に合わせて乗ってくれてるんだな。ホント、まるでお祭りの時に出てる的屋のおっさんと同じだわ。


「悪いな、美味しくいただかせてもらうよ」


「ハハハ、猫獣人族から救世主様なんて呼ばれてんだ。あんた、人間中心主義に反対してる人間族だろう? アダルに入る事を許されてるんだし、そのくらい分かるさ」


 なるほど、そういう理由か。

 この集落の守衛は、俺の見た目が人間そのものだったから敵愾心剥き出しにしていたが、その一方で、獣人と一緒に行動している事で人間中心主義に背いた人間――。つまり、亜人種族に味方している人間だと見る者もいるわけだ。

 やっぱり暫くは人間以外の種族と一緒にいて、味方なんだと浸透させた方が良さそうだ。



 屋台を離れて腰掛けるのに良さそうな石に座り、ハースと二人で野菜肉巻きを頬張った。

 具の野菜はレタスに玉葱、人参、それとスプラウト……カイワレ大根かな?

 意外と馴染みある野菜ばかりだし、シャキシャキしていて新鮮な物を使っているようだ。味も悪くない。

 肉の方は、何の肉だろうか。食感は豚肉に近い。肉そのものは焼いただけのようだが、掛かっているのは……粒マスタードだなコレ。

 巻いてある生地に味付けがしてあるためか、粒マスタードはソースやドレッシングという役目よりも、パサつきを抑えるために掛かっているような感じだな。

 それにしても――。


「美味いな。これは此処の名物なのか?」


「アダルの名物というわけではなくて、獣人族なら誰でもよく食べる物ですよ」


「じゃあセサンでも食べてるのか?」


「はい!」


 ハースの様子では、それほど美味しそうにという風には見えないが、よく食べている物であれば当然と言えば当然か。

 ハンバーガーでもサンドイッチでも、年がら年中食べていれば、いくら好物であってもニコニコしながら食べるなんて無いもんな。

 とは言え、俺にとっては普通に食べられる物があるってのは、ありがたいよ。マジで。

 流石にこればかりじゃスグに飽きてしまうだろうが、食べ物に関してはそれなりに期待しても良いかもしれない。


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