第55話 為せば成る
拷問慣れ……は、したくないものだが、目的が目的だけに人間中心主義に係わる者には容赦しないのが<不気味な刈手>流。
――などと言うワケではなく、どうにも拷問には容赦しないパイルと俺の所業が残酷非道で恐ろしく感じてしまったのか、レトルスは震えが止まらなくなってしまったらしい。
パイルが落ち着かせているのだけれども……そのパイルに対してもかなり印象が変わっちゃったんじゃないかな?
取り合えず馬車に乗り込んでグレッグたちの下へ向かう。
荷台に転がされた襲撃者二人は……こっちはレトルス以上に恐怖を味わっているせいか、目をガッチリ固く閉じたまま震えている。もう幾らでも喋れるようにしてあるのだけども、傍から見ても歯を食いしばって恐怖に堪えているのが分かる。
ま、人間中心主義に関わった報いだからな。自業自得よ。
グレッグたちに合流すると、こっちはこっちで例によって、身ぐるみ剥がした男たちの上にシーニャが跨り鉤爪を素肌に突きつけていた。
勿論、既に切り付けられた痕がアチコチに付いているんだけどね。
「こっちの連中はどうだ? 何か吐いたか?」
「ああ、こいつ等はガットランドの地方にあるハジクという所の自警団だと言ってる。中央騎士団から委託されて亜人種族集めをしていたらしい。やはり攫った亜人種族はユメラシアに連れて行き、そっちの傭兵ギルドへ引き渡す手はずになってるそうだ」
「合致するな。予め口裏合わせの算段をしていたとも考えられるが……嘘を吐き通すだけの度量は無さそうだ」
「そうなると、あとはどうやって傭兵ギルドに引き渡すか……だな。それも聞いておくとするか。パイル、シーニャ、ちょっと頼む!」
二人がグレッグに呼ばれると、反応したのは二人だけではなかった。
ガットランドの男四人、そしてレトルスもビクッとしている。また拷問が始まると思ったのだろう。ガットランドの連中は兎も角、レトルスはトラウマにならないか心配だな。
グレッグに言われて傭兵ギルドとの接触方法を聞き出すパイルとシーニャだが、二人の冷徹振りを知った為か否か……男たちはあっさりと白状してくれた。
手間が掛からなくて良かったのは勿論だが、レトルスに余計な思いをさせずに済んだ方が何よりも良かったかもしれない。
「ユメラシアとの国境検問所から少し離れた所に、レンダという村があるそうです。そこは川を挟んで国境に接している村だそうで、船で川を渡ってユメラシアに入り、そこからほど近い所にある傭兵ギルド所有の建物に連れて行くとの事です」
「なるほど。それにしても、そんな簡単に密入国出来るのなら国境検問所なんて意味無いな」
「そうとも限らんさ。ユメラシアは検閲が厳しい分、密入国とバレれば例え女こどもでも牢獄入りは免れん。だからこそ傭兵ギルドという後ろ盾必要なのさ」
なるほど確かに、グレッグの言う事も尤もだ。
「そうと分かれば、例の二人は伝令としてガットランドへ向かわせるとして、残りの二人を連れて俺達も……だと、俺達まで密入国になっちまうか」
「ターナス、その『伝令としてガットランドへ』って……何の話だ?」
すっかりグレッグたちに言うのを忘れていたので、俺達が尋問した二人は魔法で心臓を取り上げて預かっていることを伝えた。その上で、以前にガーネリアス教会に向けて行かせた連中と同じ様にガットランドへ『死神からの宣告』を伝える役目をやらせる事を説明した。
「……酷ぇ」
「心臓抜き取るとか、本当に悪魔の所業ですね。ああ、悪魔じゃなくて死神でした」
あれ? グレッグとアレーシアに引かれるって、どういう事?
「なぁパイル、お前からも言ってくれよ。提案したのは自分だって」
「テヘッ」
テヘッじゃねぇよ、テヘッじゃ! お前だって躊躇なく耳削ぎ落しただろ!
「まぁ兎に角だ。前の伝令がまだガットランドには着いてないようだし、もしかしたら途中で死んでるかもしれんからな。今度は方法を変えてみたってワケだから」
「そういう事ですよ。ターナスさんなら出来るだろうと思って言ってみたら、出来ちゃったんで」
傍から見れば「ちょっと悪戯しちゃいました。ゴメン!」的な軽い会話に見えそうだが、実際に傍で見聞きしているレトルスが「この人たち何なの?」って顔をしてるのを皆は分かってないのだろうか。
「レトルス、こういう事に慣れてないお前には少し酷かもしれんが、これも亜人種族を道具としてしか思っていない人間中心主義に与する者の成れの果てだと思え。慈悲は無用。一切合切容赦するな。少しずつで構わないから慣れていくんだ」
「はい。正直言って、驚きましたが……。ですが、私も必ずお役に立てるよう頑張ります。次に機会があれば、私にもやらせて下さい」
自ら望んで俺達に付いて来ると決めたワケだし、レトルス自身も役立たずとは思われたくないだろう。
ただ、レトルスは見た目がまだ十代半ばくらいにしか見えないからな。パイルは勿論だが、出来ればハースやシーニャとも仲良くなってほしい。そうすれば、レトルスとしてのクラン内の立ち位置も出来て来るだろう。
「それで、ターナス。どうするんだ?」
「ああ、まずこの二人はスグにガットランドへ戻って貰おう」
心臓を預かった二人は、このままガットランドへ向かわせた。今回は言葉に関して特に何もしていないので、道中で何を喋ろうが死ぬ事はない。
とは言え、もたもたして親玉に報告が遅れれば『我慢出来なくなった死神が心臓を潰す』……かもしれないのだ。出来る限り全速力で伝えに行ってくれるだろう。
「そしてこっちの二人だが……。お前等は俺達の“持ち物”としてユメラシアに持ち込むとするから、ユメラシアに入った後は傭兵ギルドへの案内をしてもらうからな」
「持ち物って、どうする気なんだ?」
「何かに偽装して持ち込もうって思ってな。『呪縛』で身動き出来ない状態にしたうえで見た目を丸太か石ころにしてみようかな……と」
この時点で既に男たちの顔から血の気は引いて、今以上に恐ろしい目に遭わされるのではないかと怯えた目をしている。
「はあ~っ、また妙な事を思い付いたな。それが出来るって事なんだよな?」
「……多分。出来なかったら門番に催眠魔法でも掛けてみるか」
「せめてそこは『俺に任せておけ』って言ってもらえると、安心なんだが」
「大丈夫。為せば成る、為さねば成らぬ何事も……ってな」
「何だよソレ? 知らねぇ……」
兎も角、俺達は正規のルートで入国しなければ、その後の行動に支障がでるはずなので、密入国は避けたい。さりとて、ガットランドの男たちを連れていては検問で引っ掛かってしまうだろうから、こいつ等は積み荷の“物”として運び入れ、入国してから案内役として解除するという手段を取るしかない。
実に面倒臭いが、ユメラシアにさえ入国しちまえばコッチのもんだからな。




