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第54話 死神顕現と畏怖

 ガットランド王国の人間が亜人種族を拉致した後、ユメラシア魔王国の傭兵ギルドに身柄を委託している事が判明した。

 これで魔族の傭兵ギルドとガットランドが繋がっているのは確定だ。


「ビンゴだな」


「ビンゴって何ですか?」


「大当たりって意味さ」


 不思議な顔をして訊くパイルには悪いが、ゲームの内容まで説明するのは面倒なので割愛させてもらおう。


 続けて、男たちに質問をしていく。


「ガットランドに『死神からの宣告』があったと聞いてないか?」


「死神からの宣告……? いや、知らない」


「そうか」


「まだ王国に戻ってないんでしょうか?」


「トラバンストを経由したとして……馬車だとどの位の日数が掛かりそうだ?」


 ガーネリアス教会への最後通告を伝えた伝令役を放ったのが、四、五日前になるか。あの時は連中を走らせて行かせてしまったが……どの程度日数が掛かるか考えてなかったな。


「馬車なら、そうですねぇ……最短で四日。遅くとも六日あればガットランドには入れますね。まぁ、王都まではどのくらい掛かるか分かりませんけど」


「そうなると、まだ着いてない可能性も考えられるな」


「ええ。まぁ、徒歩だとその倍掛かるかもしれませんが……全行程を徒歩で行くのは考えにくいですから」


「どうしてだ?」


「だって、徒歩なら絶対に誰かと喋っちゃうじゃないですか。死にますよ?」


「……確かに」


 時間が掛かれば掛かる程、自滅するリスクが高くなるワケだし、そうなるとなるべく他人と係らず短時間でガットランドに戻る手段を取るのが吉。ならば早馬か馬車で移動したと考えるべきか。


 以前、ランデールで亜人種族の拉致、及び殺害を実行していたガーネリアス教会の中央聖騎士団員と、その予備軍を捕らえた後に行った“死の伝令”についてパイルと話していると、それを聞いていたガットランドの男が慌て出した。


「さ、さっきから何を話してるんだ⁉ 『死神からの宣告』とか『喋ったら死ぬ』とか……」


「えっと、ガットランド王国が亜人種族を捕らえて集めているのを私たちは知っています。それに関してガーネリアス教会が中央聖騎士団を使っているのも、把握してます。それで、少し前にランデールの中央城塞内で実行犯を捕らえた私たちは、彼らを亡き者にしたのですが……。その時に二人だけ生かしておいて、ガーネリアス教会へ『人間中心主義を殲滅する』旨を伝えさせる為、王国へ向かわせたんです。ただし、その伝令役には死神が『宣告以外の事を喋ったら死ぬ。宣告を伝えた後も死ぬ』と呪術を掛けたんですよ。つまり……『人間中心主義に関わる者は死神が殲滅する』って事ですね。……分かりました?」


 男たちに分かり易いようにか、パイルはゆっくりと嚙み砕いて説明するが、それを聞いている男たちの顔は「何言ってるんだ?」といった感じで、パイルの説明を冗談とも本気とも取れずにいるように見える。


「ターナスさん、全然理解出来てないみたいですし、死神を怒らせたって事……分からせられませんか?」


 死神である事を分からせる……か。

 それなら、ガーネリアス教典に書かれてる死神の姿になるのが手っ取り早いかな。

 確か……黒い羽根に鋭い爪、それと赤い目だったか。死神って言うよりも前世での悪魔っぽい姿だけど、まぁいいか。


 転がりながら俺とパイルの話を恐々聞いている男たちの目の前で、俺は自分の姿を変化させつつ、抑え込んでいる力を僅かに放出した。


「……うっ、うわあぁぁぁぁぁ‼」「し、しに、死神……タナトリアス‼」


 パイルに耳を切り落とされた男だけは、言葉にもならず目を剝いて愕然としているが、他の二人は顔面蒼白になり絶望感の形相が見て取れた。

 そして、俺は耳を切り落とされた男に向かって腕を延ばすと、例によって何も無い空間を握りしめる。――と同時に、男の頭がグシャリと潰れて弾けた。


「お前たち人間中心主義者は『死神タナトリアス』の怒りに触れた。死神の名に於いてガーネリアス教を消滅させる」


「お、俺達は魔族に引き渡すだけだったんです! その後どうなるかなんて知らないんです! どうぞお許しください! お願いです! どうか、どうか――!」


「タナトリアス様……」


 この場での状況を考量したパイルは、跪き、タナトリアスの名で呼ぶ。


「この者共も『伝令』にしてはどうでしょうか?」


「例のヤツか?」


「はい。ですが、万が一途中で死ぬことのないよう……“王都へ帰れる程度”の呪術を掛けるのがよろしいかと」


 なるほど。途中でうっかりにせよ不可抗力にせよ、余計な事を喋って爆死されたら伝令の意味がないもんな。

 となると……先に行かせた伝令役も、死んだ可能性が高いかもなぁ。


「タナトリアス様、この者共の心臓を預かるなんてのは……如何でしょう」


「ふむ」


 心臓を預かる? どうやって? 何言ってんだパイルめ。

 心臓を抜き取ったら、その場で死ぬじゃん。心臓の代わりに何か入れるとか?

 何を入れる? 無理だろ。

 心臓を抜いても機能を接続させたままにするとか……出来るか?

 

 ――やってみるか。


 心臓を機能させたまま、“素通し”の結界で包み込むイメージをする。

 そして――生かしたまま心臓を俺の手に転移させる。


「あ……ああああああ……あれ、あれは……俺の、俺の心臓……なのか……」


 既に顔面蒼白だった男たちだが、もう蒼白を通り越して白いぞ。死んでるんじゃないだろうな。ゾンビか?

 ま、男たちがそうなるのも当然だ。俺の両手には、結界で包み込まれた二つの心臓がある。ドクドクと脈打ってますよ。ちゃんと成功しました! パイルの無茶振りを克服しました!


「タナトリアス様が御手に持たれているのは、あなた達の心臓です。あなた達は王国へ戻り、タナトリアス様の怒りに触れた事を伝えなさい。人間中心主義を終え、亜人種族への迫害を止めるのであれば、タナトリアス様もお考えになると。ですが、それを無視するのであれば……人間中心主義者全てをこの世から殲滅するでしょう」


「伝えます! 必ず伝えます! そうすれば、我々は助けていただけるのですね?」


「考慮しましょう」


 考慮しましょう……か。約束はしないんだな。

 パイルもなかなか芸達者じゃないか。


「よし、ではこの者等を連れて向こうと合流するとしようか」


「はいっ」


 呪縛で動けないままの男たちを魔法で浮かせて馬車の荷台に放り込み、死体は見せしめとしてその場に放置する事にする。

 ふとレトルスを見ると、膝を付いて畏まった姿勢のまま固まっていた。


「レトルス、もう終わったから立っていいぞ」


「……は、はい」


 跪いたままガタガタと震えているレトルスを見かねて、パイルが声を掛けて肩を抱き立ち上がらせる。

 初めてのレトルスには怖過ぎたか。


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