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第52話 ユメラシア魔王国へ向けて

※脱字修正しました。

 宿屋でゆっくりと休息を取った俺達は、街が動き出す頃に宿屋を後にしてユメラシア魔王国へ向かう為の準備に取り掛かった。


 まずは食料調達。レトルスによると、魔族と一口に言っても多種多様な種族の集合体であるため、場合によっては人間族や獣人種族が食べられない様な物を主食としている種族もいるのだそうだ。その為、魔族以外の種族がユメラシアに入国する際は、自分たちが食べられる食料を持参するのが普通なのだと言う。

 これについてはグレッグも他の冒険者から聞いた話として知っていた様で、レトルスの言葉を聞いて思い出し「そうだ! 食料は絶対に持って行かないとヤバイんだった!」と、慌て出す始末だ。


 そんな理由で食料調達に奔走するのだが……。

 グレッグは「いつでもスグに食べられる干し肉や保存パン(乾パンの事らしいが見た目はビスケットだ)が必須だ」と言い、アレーシアとパイルは「多品目の食材を持って行った方が良い」と言い、パイルとシーニャは「干し肉とトウモロコシがあれば大丈夫」と言う。因みにレトルスは「皆さんと同じ物しか食べられませんので、お任せします」との事。


「それ、全部持って行けるぞ」


 俺の空間収納に入れてしまえば何の問題も無い。

 だが、俺がそう言ってから思い出したのか、今度は「じゃあアレとコレとソレも」と、普段は食べない様な嗜好品まで買おうとしていた。


「なあレトルス、ユメラシアでも路銀稼ぎは出来るかな?」


「あ、はい。勿論出来ます」


「うん、それを聞いて安心した」


 食べられる物が無いという恐怖を避けたいのは、俺も分かる。だからアレコレと買い溜めしておきたいのも……分かる。

 そして、それらをどれだけ大量に買っても自分で持つ必要が無い(・・・・・・・・・・)という安心感も……分からないでもない。――けど、所持金は無限じゃないんだからな。


 買い溜めした食料は俺の空間収納で保管。飲み物についても同様なのだが、ワインを一樽と水を一樽……空間収納に入れる事にした。水については皆から「腹を壊すから危険だ」と言われたが、魔法をかけて浄化した水を飲ませたところ――「味がしないのに美味しく感じる!」と驚いていた。

 水を浄化して飲むという方法は一般的ではないようで、調理に使うのであれば沸騰させて使うが、沸騰させたのを冷まして飲む――という習慣がない。

 だから「水を飲むくらいならワインやエールを飲めばいい」と言う。それだけ水が飲料に適していない事の表れなのか。


 水の浄化に関しては、パイルとレトルスには魔術や魔法での浄化方法を。グレッグやアレーシア、そしてハースとシーニャにも物理的な浄化である『ろ過』の方法を教えておいた。これならワインやエールが手に入らない場所でも、飲み水を確保できるはずだ。


 取り敢えず、糧食に関しては心配要らないと。

 あとは……。


「レトルスは何か武器を持ってるのか?」


「武器……ですか? 私は魔族なので攻撃魔法が武器と言えば武器ですが」


「ナイフや剣など、物理的な武器は持たないって事でいいのか?」


「はい。ナイフは持っていますが武器として使用する事はありませんから」


「そうか。ならば、そのナイフをちょっと貸してもらえるかな?」


「はい、どうぞ」


 言われるがままに差し出されたナイフを受け取ると、その場で皆のモノと同様に強化魔法を施しておく。


「レトルスさん、そのナイフの取り扱いには十分気を付けてね。手応えなくスッパリ切れるから」


 施術したナイフをレトルスに手渡していると、アレーシアが横から忠告してきた。

 そう言えば、俺は皆の刃物を強化施術してきたけど、俺から『切れ過ぎるから注意しろ』と言った事がなかったな。


「スッパリ……手応えなく……ですか」


「ま、使う時が来たら分かる事だ」


 レトルスの反応を見るに、魔族であっても魔法で刃物の切れ味を高めるって事はしないみたいだ。なんか勿体ない気がするけど、もしかしたら魔族の魔法では出来ないって事なのかな?




 食料を空間収納に入れてしまえば、あとは普段と変わらない様相だが、一応これで準備万端という事で良さそうだ。


「じゃあ、ユメラシアに向けて出発するぞ」


 パイルとレトルスが御者台に座り、グレッグの掛け声を機に馬車が動き出す。

 

 ユメラシア魔王国との国境検問所までは半日も掛からないらしい。馬車は特に支障も無くのんびりと進みつつ、途中で休憩を兼ねて今日最初の食事を摂る。

 その時に、パイルが干し肉の切り分けをレトルスに頼み、そこで初めて件のナイフを使ったレトルスの驚き具合を見て、皆が「分かる分かる」と頷き苦笑していた。


 ユメラシア魔王国へ行った事があるのは、魔王国が母国であるレトルスのみ。見知らぬ国へ行くのだから少なからず不安が付き纏うもの……と、思うのは俺だけなのだろうか? <不気味な刈手(グリムリーパー)>の面々に緊張感は見えず、いつもと変わらず思い思いに寛いで過ごしている。


「アレーシアやハースは魔族の国に行く事に不安は無いのか?」


「正直なところ、最初は不安もあったんですけどね。アトーレを出る頃には全く気にならなくなってました。多分『どうにでもなる』って気付いたからかもしれません」


 ……それは諦めというモノじゃないのか? 小さく「今更だし」と聞こえたのは、俺の気のせいなのかな?


「私はぜんぜん不安じゃないですよ! ターナス様もアレーシアさんもシーニャ姉さまもいますからね!」


 そういや、ハースは今までも不安なそぶりは見せたことがないな。俺達を信頼してるのは確かだろうけど、ハース自身もいろいろあったからなぁ。自信もついてきただろうし、何よりセサン暮らしの頃には無かったであろう仲間(・・)が増えたってのも影響してるか。


「グレッグも落ち着いてるけど、やっぱり不安を感じるなんて事はないのか?」


「まぁ、魔族自体は何度か見かけた事があるしな。実際に直接魔族と言葉を交わしたことはないが、人伝で聞いた限りじゃ『人付き合いが悪い』って言うヤツもいれば『誰彼構わず馴れ馴れしく接してくる』って言うヤツもいる。でも、そういうヤツなら他の種族だって普通にいるだろ? それなら人間族と変わりゃしないってもんさ」


「そういえば……レトルスは魔法で人間族に変化してると言ってるが、実際の魔族の姿ってのはどんな感じなんだ?」


「レトルスも言ってたが、『魔族』と一口に言っても多種多様な種族の集合体だから、見た目も結構違うもんなんだ。例えば角が有るか無いかなんてのは良い例だな」


「角が無い魔族もいる……?」


「ああ。大きく分けると角を持つのは人間族形体が多く、角を持たないのは獣人族形体が多いと聞く。――とは言っても、人間族形体でもヴァンピール種は角が無いし、獣人族形体でもミノタウロス種は大きな角を持ってるから、それだけでも種別が増えるだろ?」


「……なるほど。あまり考えない方が良さそうだ」


「とは言え……人間族に対して敵意を持つ魔族がいるのも事実だからな。レトルスのように人間族の姿に変化する事も出来るヤツも多い。安心させておいて、実は――なんて目に遭った冒険者もいるから、警戒するに越した事はないってのも本音だぞ。ああ、だからってレトルスにはその心配は必要ないのは、シーニャのお墨付きだからな」


「ああ、分かってる。アイツはもう俺達の仲間だ」


 何気にシーニャの方に視線を向けると、俺とグレッグの会話を聞いてたのか親指を立てて決めていた。


 そんな矢先、御者台のパイルから緊急事態を知らせる強張った声が聞こえた。


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