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第5話 人間ではない証拠

 直した幌馬車に乗り込み、アダルへの行商に同行させてもらう事となった。

 御者は勿論、猫獣人の女の子、ハースだ。

 そして俺はハースの隣に座っている。


「ターナス様、本当に御者台でよろしいのですか?」


「ああ。こっちの方が飽きないし、ハースちゃんの事も心配だしね」


「……ッ‼」


 ハースの猫耳がピンッと立ったかと思うと、顔が一瞬で真っ赤になった。


「ハースちゃん、どうした? 顔、真っ赤だけど」


「タタタタタタタ、ターナス様ッ! わわわ私のことなど、ハ、ハースと呼び、呼び捨ててくだしゃい!」


「いやぁ、いくらハースちゃんが歳下だからと言っても、いきなり呼び捨てにするのは無いでしょ?」


「そんなことありません。ターナス様はもっと威厳を持たれても良いと思います」


「威厳?」


 そう言えば……

 異世界って舐められないように、余程偉い人が相手じゃない限りは、例え歳上であってもタメ口で言葉を交わすのが普通なんだとかって、以前読んだ本に書いてあったよな。

 ふとハースの言葉に考え込んでいると、荷台の中からメナスさんも「その通りです。我々に丁寧な言葉を使うのはお止め下さい」と繋いできた。


「そっかぁ。いや、そうか、分かった。ならば今後は少し威厳のある態度をとってみよう」


「はい!」

「ええ、そのようにされてください」


 威厳のある態度――なのかどうかはさておき、ちょっと背筋をピンと伸ばして気を引き締めて返答すると、ハースとメナスが満面の笑顔になった。他の猫獣人たちも笑ってるし、なんかちょっと背中がくすぐったいな。


 途中、何度か休憩を挟みながらだったが、まだ明るいうちにアダルへと着いた。

 村という程には大きくもないし、規模的には小さな集落ってところか。

 木の板で造られた囲いは塀と言うより柵といった方が合ってるくらい簡素な物だし、中に見える家々も率直に言って小屋だ。現代人……地球人? の感覚からすると、裕福というものからは程遠い感じがする。


 街の出入り口と思われる柵……じゃなく塀の開口部まで来ると、守衛なのだろうか槍を持った二人の兎獣人が姿を見せた。

 そのうちの一人が口を開く。


「何者だ」


「セサンのメナスと申します。肉の行商に参りました」


 メナスが丁寧に答えているが、なんだか守衛の兎さんが怒っているように見えるのだけど、気のせいか?

 ……と、そこで兎獣人の守衛さんと目が合った。

 彼の眉間に皺が寄り訝しい面持ちで睨み言葉を放つ。


「なぜ人間族が⁉」


「いえいいえ、このお方は人間族ではありません。見た目は人間に近しいですが魔族の方です」


 慌ててメナスが説明するが、俺は魔族じゃないって言ったはずだけどな。

 などと考えていたら、そっとハースが耳打ちしてきた。


『ターナス様は魔族という事にしておいた方が、都合いいのだと思いますよ』


 なるほどね。確かに見た目は人間そのものだしね(だってもともと人間だしね)

 というか、魔族がどんな姿形してるのかが気になるわぁ。


「私には人間族に見えるのですが……人間族ではない証拠はありますか?」


 かなり疑っているみたいだ。尋常じゃないほど睨んでるし、万が一「人間だよ」なんて言おうものなら問答無用で殺しに掛かってきそうだ。

 そっか、ならば。


「人間ではない証拠か? ならばこれならどうだ」


 俺は徐に両腕を前に突き出すと、自分の両手に気を集中して想像した。

 両手の肘から先を見る間に大きくしつつ、赤黒く無骨な手指に形成し、長く鋭い爪を生やす。瞬く間にそれはまるで魔物のような(・・・・・・・・・)恐ろしくも禍々しい姿となった。

 俺のイメージする魔族の腕――ってワケだ。


「これでも信じられないのなら……」

「いや結構ッ! 失礼しました。魔族の方とお見受け致します」


 兎獣人の守衛さん、顔が真っ青になって凄いビビってるんですけど?

 兎にも角にも俺を魔族だと確認すると、あっさり通してくれたのは良かった。それにしても何であんなにビビったんだろう?




「ターナス様、凄いです! 魔族というよりも、まるで悪魔みたいでしたよ!」


 ハースが猫耳をピコピコさせて、驚きと感動が入り交ざったような顔を近づけてくる。まったく可愛いったらありゃしない。

 でもごめんね、「悪魔みたい」じゃなくて「死神の皮をかぶった悪魔」なんだよ。

 兎獣人がビビったのは「魔族」じゃなく「悪魔」のようだったからなのか。という事は、この世界では魔族と悪魔は全く別なのだろうか。


「なあハース、魔族と悪魔は違うのか?」


「魔族は私たち獣人種族とも交流がありますが、悪魔っていうのは大昔に魔王様を殺して、魔王国を滅茶苦茶にしたっていう伝承がある悪者なんですよ。それに、人間の勇者でも絶対に勝てないくらい強いって、言い伝えられてますから」


「そ、そうなのか。じゃあ魔族と悪魔は仲が悪いんだな」


「う~ん、そうですね。でも魔族とだけじゃなくて、悪魔はどの種族とも仲良くないと思いますよ。やっぱり悪魔は悪魔なんですね!」


 にっこりと笑うハースは本当に可愛いな。

 それにしても悪魔の存在ってのが気になる。

 俺はラダリンスさんから『最強種の悪魔』という能力を授かってる。存在としては死神であるが、人間にとっては悪魔だと。

 じゃあ魔族にとって俺は、どんな存在になるんだろう?


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