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第44話 懐疑心

 アトーレの街中は多くの冒険者が闊歩していた。


「おかしいですねぇ。こんなに冒険者で溢れることなんて、今まで無かったんですけど……」


「門番の兵士も、ガットランド訛りの者に亜人種族の冒険者が襲われたという話をしていたが、それと関係あるのかどうか……だな。取り敢えずはギルドに行ってみるか」


 パイルが怪訝な顔をして辺りを見渡しながら呟くと、グレッグがそれに答えた。

 

 アトーレの冒険者ギルドは街の中心部よりも正面門寄りに位置し、ギルドの前でも複数の冒険者がたむろしている。

 その中の一人にパイルの知り合いがいたようだ。


「ハミス! ハミスじゃない」


「あらパイル、久しぶりね。いつアトーレに?」


「さっき着いたところよ。ところで聞きたいんだけど、アトーレ(ここ)っていつからこんなに冒険者が多くなったの?」


「十日くらい前かなぁ、兎獣人族の若い冒険者が人間族に襲われてね。その襲った人間族は逃げたそうなんだけど、どうも兎獣人族の子をガットランドに連れ去ろうとしたらしいのよ。それを聞きつけた冒険者たちが、報復してやろうと集まってきちゃったみたいなの」


「なるほど……」


「ところでパイル、そちらの人たちはパーティーメンバー?」


 ハミスと呼ばれていた羊獣人族の女が、俺達を見てパイルに訊ねた。


「ええ、私が所属してる<宵闇の梟>のメンバーと、理由(ワケ)ありで一緒に行動してる仲間よ」


「……理由あり?」


「アハハ、別に怪しいものじゃないわよ。どっちかと言えば、私が頼み込んで一緒に行動させてもらってる感じだから」


「俺はターナスと言う。<宵闇の梟>には色々と世話になってるが、彼女たちを危険な目に遭わせる気は無いから安心してくれ」


 怪訝な視線を向けられたので、一応は「怪しい者じゃない」と説明したつもりなのだが……言葉足らずのせいか、あまり印象は変わってもらえなかったようだ。

 眉間に皺を寄せて睨みを利かせるハミスという羊獣人族の女に、俺は勿論だがパイルも些か戸惑っている。


「俺はグレッグ。<宵闇の梟>のリーダーであり二等級冒険者だ。パイルの言葉を信じられないのなら、このターナスという男の顔を良く覚えておけ。近く必ず今の態度を後悔する時が来るからな」


「その通りです。ターナス様が如何に人外であろうとも、亜人種族を救う為に日夜――あ痛っ!」

「止めろって……」


 アレーシアが何か良からぬ事を言い出しそうだったので、慌てて頭を軽く叩いて言うのを止めさせた。

 グレッグも随分と俺を買ってくれているみたいだが、あまり煽るんじゃないよ。


「パイル、いったいどういう事なの?」

 

 そらみろ。余計に疑心暗鬼になったじゃないか。


「う~ん、ハッキリ言っちゃうとターナスさんは私たち亜人種族の救世主様なのよ。それに、私個人にとっても魔法術の師匠でもあるから――」

「パーイールゥ~!」


 徐にパイルの頭を掴んで話を止める。

 ホント、アレーシアもパイルも何を言い出すんだか……。


「ま、まぁ、兎に角、グレッグの言う通り。ターナスさんの顔をよく覚えておくといいわ。私たちがターナスさんを信頼してる理由が、すぐに分かるはずだから」


 怪訝な顔から疑問の顔に変わったハミスに別れを告げ、パイルは馬車を動かした。


「ターナス様、そろそろご自身が救世主として宣告されたらどうでしょうか?」


「言ったところで誰も信じないだろう。それに、面倒事になりそうな気もする」


「既に私たちは、その面倒事に巻き込まれてるのですが?」


「ちょっと待て! だいたいアレーシア(おまえ)は自分から俺に着いてくるって言ったんじゃないか。つまりは自分から面倒事に顔を突っ込んだってことだ」


「煩いです。ターナス様が『俺は亜人種族の救世主だ、人間中心主義をぶっ壊すぞ』とかなんとか宣言しちゃえば、もっと堂々と立ち回れるかもしれないじゃないですか」


「……」


「まあまあまあ、それくらいにして。――とはいえターナスよ。これからユメラシアに入ったら、アレーシアの言う通り『亜人種族の救世主』もしくは『死神タナトリアス』って宣告しちまった方が行動しやすいかもしれないぞ」


「どういう事だ?」


「ユメラシアの国王である現魔王は、ランデールなどの友好的な人間族とも関係を結んでいるが、国民である魔族の中には『人間族』というだけで敵愾心を燃やすヤツも少なからずいる。そんな中へ亜人種族であるパイルやシーニャ、ハースちゃんが一緒とはいえ、アレーシアなんかは危険な目に遭う可能性も大きいだろう。そこでターナスが『死神タナトリアス』だと宣告すれば……」


「見る目が変わるとか?」


「ああ、少なくとも死神の仲間に手出しをする魔族はいなくなる……と、思う」


「なんだよ、確実じゃないのかよ」


「そりゃあ、俺は魔族じゃないからな。実際のところは分からないさ」


 それにしても、アレーシアやグレッグの言うように死神である事を宣言して、完全にガーネリアス教への宣戦布告と、亜人種族の救済者である事を知らしめるとしたら、ユメラシアでは行動し易くなるかもしれないが、逆にランデールのような人間族が主権を持った領土では動きにくくなってしまわないだろうか。


「俺が『死神タナトリアス』だと宣言したとして、グレッグやアレーシアたちが死神の仲間であるとなったら、人間族国家でマズイ事にならないか?」


「それはないさ。考えてもみろよ。今までだってランデール領は人間族と亜人種族が一緒に活動していただろう? そもそも亜人種族を迫害してるのはトラバンスト聖王国やガットランド王国のような『人間中心主義』を掲げたガーネリアス教を国教とした国なんだ。それ以外の国や地域ならば、逆に死神の仲間として歓迎してくれる……と、思う」


 自信満々で語るワリには、さっきから必ず最後に個人的な推測で締めてるし。


 暫し考え込んでいると、のそのそとハースが近寄ってきて、俺の前で姿勢を糺して口を開いた。


「ターナス様は救世主様なんですから、ハッキリと言っていいと思いますよ。えっと……死神でもいいんです。私にとってターナス様は救世主様ですから、死神だって神様じゃないですかぁ」


「ハース、あなた良い事言ったわ! そうよ、死神だって神様なのよ。だからこれは聖戦なの! 悪しき『人間中心主義』を打倒して、全ての種族が平等に暮らせる世の中を作るための聖戦なのよ!」


 アレーシアに変な火が点いちまったじゃないか! そりゃラダリンスさんも『死神も神です』とか言ってたけど、聖戦なんて言ったらまるっきり宗教戦争じゃないか。

 ……でもまぁ、見方によってはガーネリアス教vsラダリア教の戦争って見方も出来なくはないのか……な?


「ヨシッ! こうなったらターナスを中心としたこのクランに名前を付けようじゃないか。例えば―― <死神の星>とか」


「「「「「却下!」」」」」


 グレッグには名付けのセンスが皆無だと分かった。


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