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第43話 アトーレの検閲

 カルゴ村の宿屋【虹の橋亭】は行商などをしている旅人向けだったようで、俺達みたいな冒険者風の宿泊客は、三人組のパーティーらしき者を見かけた程度だった。

 だが、そのおかげなのか食堂も大騒ぎする者など皆無で、ゆったりと食事の楽しむ客ばかりだったし、夜もすぐに静かになったので、ゆっくりと休むことが出来た。


 そして朝。

 支度を整えてグレッグと一緒に部屋を出ると、そのまま一階まで降りて行く。扉で繋がってはいるが別棟にある食堂で、女組と待ち合わせしているからだ。


「おはようございます。モーニングサービスのお茶です。良かったらどうぞ」


「ああ、おはよう。朝から元気だね」


 ハースよりも少し小さい宿屋の娘が、温かいハーブティーを持って来てくれた。


「こういうサービスは、他の宿じゃ経験したこと無いな。またこの村に来る機会があれば、次もこの宿に泊まろうぜ」


 グレッグも気に入ったみたいだ。

 普段利用する宿屋は比較的に冒険者向けが多い。だからこうした余裕のあるサービスを受けられると、次も利用したくなるってのは当然だろう。


 お茶を飲んでいるとアレーシアとパイルが晴れ晴れとした顔でやって来た。彼女等もゆっくり休めたのだと、一目で分かる……のだが。

 ハースとシーニャは、まだ眠そうな顔で目を擦っている。

 聞けば、二人は遅くまでベッドの中でお喋りをしていたそうだ。


「まったく。シーニャもハースちゃんも馬車で寝ていてもいいけど、アトーレまではすぐですからね」


 パイルに軽く怒られて、二人とも力なく返事をしていた。


「じゃあ、行くか」


 グレッグの掛け声で宿屋を出て、馬車を預けた繋ぎ場に歩いて向かい馬車を受け取ると、パイルが御者台に座り、他の者は思い思いに荷台に腰を下ろして寛ぐ。

 パイルはカルゴ村からアトーレの街までを「太陽がココからココに来るぐらいの間に着きます」と、両腕を肩幅より少し広げた状態で空を指差していたから、おそらく二時間程度だと推測する。

 因みに、俺が持ってる腕時計では現在7時15分。9時半くらいには到着するかな。


 馬車の荷台に乗り込むなり、ハースとシーニャはゴロンと横になって寝てしまった。それを見てアレーシアは呆れているが、グレッグは「シーニャがこんな姿を見せるなんて珍しい」と笑っている。


 そして――。

 二時間ちょっとの散歩道……ではないが、風景を眺めながら駄弁っているうちにアトーレの街へ着いてしまった。


 街の出入り口となる場所には衛兵のような人物が立っていて、通行人を一人一人チェックしている。

 今まで各所を周ってきたランデール領だが、主要部である城塞でさえ検閲はゆるゆるだったのに、どうやらアトーレはそうでもないみたいなのでパイルに聞いてみた。


「アトーレの街は入るのにチェックが厳しいのか?」


「基本的には、それほど厳しくもないんですけど……私自身も暫くぶりに来たので、ちょっと分からないですねぇ」


 国境に近い街であれば、検閲が厳しくなるのは必然だとも思うのだけれど、今までがあまりにも緩過ぎがせいか、少し緊張度が増すような気分だ。


 そうこうしているうちに俺達の番になった。


「どちらからですか?」


「ランデール中央城塞を出て、昨夜カルゴ村に宿泊してから来ました」


「ご用件は?」


「ユメラシア魔王国へ向かう準備のための立ち寄りです」


「ユメラシアは今、トラバンストからの侵攻に遭っているので獣人族の方が行くのは危険かと思いますよ」


「それに関しては問題ない」


 パイルと検閲をしている兵士の問答に、グレッグが割って入った。


「二等級冒険者のグレッグだ。ランデール領内で亜人種族が数名、行方不明になってるのを知ってるか? どうやらガーネリアス教会が絡んでるみたいでな。俺達はそれを確認すべくガットランドに向かうつもりなんだ」


「なるほど、そうでしたか。実は数日前にアトーレ(ここ)でも冒険者になりたての亜人種族が襲われる事件が起きまして、その犯人がガットランド訛りのある人物だったと聞いているのです」


「それで、その亜人種族と犯人はどうなったんだ?」


「幸い、近くにいた他の冒険者が騒ぎを聞きつけて助けたので、冒険者の方はちょっとした怪我を負ったくらいで無事だったようです。それから犯人の方は……逃げられたと聞いてます」


「他の街では三等級の獣人種族冒険者が殺されてる。可能な限り注意喚起をしてもらえると助かる」


「承知しました」


「それで、俺達は入っても大丈夫かな?」


「ああ、これは失礼。一応、荷台も見させて頂いてよろしいですか?」


「構わんよ。後ろには仲間が乗ってる」


 グレッグと話を終えた兵士が荷台の中を覗き込んできたのだが、何故か俺達を見て驚いている。


「俺達がどうかしたか?」


「ああ、いえ。お仲間がいると聞いたのですが、こんなに多かったとは思わなかったのと、猫獣人族の小さなお子さんがいるようなので……ちょっと」


「彼女はまだ冒険者登録はしていないが、戦績で言えば巨躯猪(ギガントエーバー)山岳狼(マウンテンウルフ)の討伐、それに野盗討伐もこなしてる」


「それは凄い。――はい、大丈夫です。兎に角、亜人種族の方々には十分気を付けて頂くよう、お願いします」


「分かった。ありがとう」


 無事、検閲を通過してアトーレの街へ入る事が出来たが、この街でも亜人種族の拉致未遂があったとは……。

 もしかするとユメラシアでも、被害に遭ってる魔族がいるかもしれん。

 魔族って、魔法が使えるのに人間族とそれほど戦力的差が無いらしいんだよなぁ


「グレッグ、どう思う?」


「何がだ?」


「ここアトーレでも亜人種族が攫われそうになったという事さ」


「この街で攫っても、トラバンスト経由でガットランドへ行くのはリスクが大きい……って事か?」


「ああ、そうだ。トラバンストとの国境付近ならまだしも、こんなに国境から距離のある場所で攫っても、途中で反ガーネリアス教の者に見つかったり、拉致した亜人種族に逃げられたりする可能性もあるからな」


「だとすると?」


「ユメラシアにガットランドへ向かうルートがあるか、もしくは魔族の中に内通者がいるかもしれない……と、思ったんだよ」


「う~ん……」


「まぁ、思い過ごしかもしれないけどな」


「いや、一応その線も頭に入れておいた方がいいだろう。基本的には魔族もガーネリアス教からは亜人種族扱いされているが、亜人種族が同族を人間族に売る例が無いこともないからな」


「となると……ユメラシアに入っても俺達全員、気が抜けないって事だな」


 魔族の中にガーネリアス教会との内通者がいるとすれば、ハースやシーニャ、パイルたちも安心出来ないって事になる。

 安全にガットランドへ行けるルートだと思っていたが、少し気を引き締めて行く必要がありそうだ。


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