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第42話 カルゴ村到着

 カルゴ村までの道中は、本当に何事も無く平穏無事に終わった。

 これ程までのんびりと行程を過ごせたのは初めてな気がする。


「何事もなく無事着いて良かったですね」


 アレーシアも今までの事を振り返って思うところがあるのだろう。非常に安堵した表情での一言だから、俺もめちゃめちゃ重みを感じつつ同意したくなる。なるのだが……ハースを見れば特に安堵や緊張といった何らかの感情は表に出ておらず、それが普通であるかのような顔をしているんだよなぁ。

 気概なのか豪胆なのか……ある意味、頼もしい限りだ。


「村人に見えない者も多いな」


 ふと零したグレッグの一言に辺りを見渡せば、確かに冒険者パーティーと思われるグループが幾つも見える。

 彼等もアトーレで宿屋探しをする手間を省く為に、この村に寄っているのだろうか。


「パイル、この村はいつもこんな感じなのか?」


「そうですね。もう少し早い時間だと、ここまで多くないんですけど……時間的に考えて私たちと同じ様に、この村での宿泊で立ち寄った冒険者ですね」


「ならば急いで宿屋を探そう」


 大き目な街が近いのであれば、もっと閑散とした村だとばかり思っていたが、俺達と同じ目的の連中がこれ程多いとは思わなかった。

 早く部屋を押さえる為に、パイルの知る宿屋へ直行する事にした。


 この村には宿屋は三軒あるらしく、その中の【朝の雫亭】という二階建ての宿屋の前で馬車を止めると、パイルが一人で部屋を取りに中に入って行く。

 束の間――。宿屋からパイルが出てきた。


「いっぱいでした。次行きましょう」


 アトーレで宿屋が埋まってしまうのを考慮してカルゴ村に立ち寄ったというのに、思いの外、同じ考えの冒険者が多かったということなのか。

 次の宿屋【緑の若葉亭】に向かうと、馬車を停止するや否やパイルは宿屋に駆け込んでいくが……すぐに走って戻ってきた。


「ここも満室です。次、早く行きましょう」


 既に満室だと言われたパイルは、少し焦り気味に馬車を発信させて次の宿屋【虹の橋亭】に向かった。


 ここでも辿り着くなり駆け足で宿屋に飛び込んだパイルだったが、今度はゆっくりと笑顔で出てきたので皆もホッとする。


「取り敢えず、二部屋取れました」


「ありがとう。慌てさせてすまなかったな」


「いえいえ。全然平気ですよ」


 一旦、パイルと俺の二人で馬車を他の村人が営む繋ぎ場に預けに行き、他の皆は先に宿屋の中に入って貰う事にしたのだが、皆は俺達が戻るまで宿屋の外で待っていると言う。

 そんな気を遣わなくても良いのにと思いつつ、少し離れた繋ぎ場に馬車を預けてから、パイルと一緒に歩いて宿屋へ戻った。


 因みに、繋ぎ場から宿屋まで歩いて5分程度の距離なのだが……パイルはその間ずっと『新しい魔術を創造する』という考えを俺に話していた。

 要は魔法を魔術で再現する『魔法術』というのを目指すのだとか。

 これは<宵闇の梟>と一緒に行動する間は、ずっと付き合わされる事になるんだろうな。まぁ良いけどさ。


 宿屋の前で待っていた皆と一緒に宿の中に入ると、宿屋の娘だというハースよりも少し小さいくらいの女の子が、部屋まで案内してくれた。


「お客さま、お食事は受付のとなりにある扉から、食堂にいらしてください」


 この宿屋は一階も宿泊部屋になっていたので食堂は無いと思っていたのだが、なるほど食堂は別にあったのか。


「ありがとう。もう少ししたら行かせてもらうわね」


 アレーシアの言葉に女の子はニッコリと笑うと、クルッと反転して階段を降りて行った。


「可愛いですね」


「ああ、そうだな」


「ターナス様は、ああいう子が好きなんですか?」


「えっ⁉」


 何を思ったのか、急にハースが変な事を言い出しやがった。俺はただアレーシアの言葉に同意しただけだったのに、ハースは何を考えてるんだ?


「いやいや、別にああいう子が好きとかじゃなくて。アレーシアが『可愛いですね』って言ったから『そうだね』って言っただけだよ?」


「ふぅん、そうなんですかぁ」


「俺はどっちかって言うと、ハースみたいな子が好きだな」


「ホントですか! 私の方が好きですか?」


「ああ勿論だ」


「エヘヘヘヘヘ」


 取り敢えず、機嫌を損ねずに済んだみたいだ……。


「まぁ、そういう事だから。部屋に入ろうか」


 このままだと他の皆に何を言われるか分かったもんじゃない。その場を取り繕って、そそくさと男女に分かれて部屋に入る事にした。


「ターナスもハースちゃんには形無しだな」


「まぁな。なんだかんだとハースには世話になってるし、あいつも俺を慕ってくれてるからなぁ。それに、俺自身が子供に弱いってのもあるしな」


「子供に弱い死神……ねぇ」


 クスリと笑うグレッグに、俺も苦笑するしかなかった。


 それにしても、この部屋は扉を開けると、目の前に窓を頭側にしがベッドが三つ……川の字になって並んでいるという変わった部屋だ。

 いわゆる三人部屋なのだろうが、普通は窓を頭にしてベッドを並べたりしないだろうよ。


「この部屋は三人部屋だけど、女たちも三人部屋なのかな?」


「ああ、そういえばそうだな。パイルが部屋を取ってくれたから、その辺の事は気にしなかったが……」


「ちょっと聞いてくるか。もし三人部屋なら、狭くはなるがこの部屋のベッドを一つ持って行ってやろう」


 言うが早いか、グレッグはサッと部屋を出て隣の女たちの部屋へ向かって行ってしまった。案外そういう所も気にするんだな。

 

 まぁ、待ってるのも何だし、俺も隣に行ってみるか……と思って女たちの部屋に来てみると、確かにグレッグが心配した通りベッドが三つの三人部屋だった。

 ただ……別段それに関して彼女たちは特に問題無いみたいだ。


 腕を組んで突っ立っているグレッグの背後から覗き込んでみると、三つのベッドにはそれぞれ――パイル、アレーシア、そしてシーニャとハースが乗っている。

 ここでもシーニャ&ハースの仲良し義姉妹を見せつけられただけで、何ら心配する必要はなかった。

 

「ターナス様も、グレッグさんと同じくベッドの数が心配だったんですか?」


「ん、まぁグレッグに言われて気付いた程度だったんだけど……余計なお世話だったみたいだな」


「ホント、俺もつくづく自分に呆れちまうわ」


「まあまあ、余裕がある時は別としても、私たちのパーティーは三人で一部屋って事もよくありましたからね。そのうち慣れますよ」


 パイルに揶揄われ……否、宥められたと言うべきか。グレッグも肩の力が抜けてガックリしているが、それだけ仲間思いだってのがよく分かった。


「ああもう、メシだ! メシ食いに行こう」


 居心地悪くなったのか照れ臭いのか。グレッグは頭を掻きながら声を張って、その場を誤魔化すようだった。


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