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第35話 ジスターク森林

 未明にワイニー山を出発した俺達は、空が紫色に染まり始めた頃、ジスタークの森に到着した。

 街道は森の中に向かって延びているが、街道沿いの木々は間引かれているし、左右に広がる森の奥を見ても、陽の光が差し込んでいるので薄暗さは感じられない。

 野獣やら魔物やらの言葉さえ聞かなければ森林浴でもしたくなる様な雰囲気だ。


 取り敢えず、グレッグの提案で森林狼(ヴァルトウルフ)赤鹿(レッドディア)を標的とする事になったのだが、馬車を残して全員で狩りに出て行くワケにもいかない……という事で、誰かが留守番として馬車に残る事になる。


「ターナス様が残って下さい」


 留守番の話が出るや否や、アレーシアが挙手して俺を指名してきた。


「なぜ俺なんだ?」


「出来れば此処で皆の気配を感知していて欲しいんですよ。万が一誰かに危険が及んだ場合、ターナス様ならすぐに援護に行けると思うので」


「そういう事なら……そうするか。まぁ、だからといって無茶はするなよ?」


「分かってます」


「そういう事なら、グレッグもターナスさんと一緒に残ったらどうです?」


 パイルに言われたグレッグがニヤリと笑う。


「俺もこのショートソードを使って見たいんだよ」


「フフフ……」「フフン」「クックックッ……」


 <宵闇の梟>三人衆、お前等その顔は悪巧みしてるようにしか見えねぇぞ。


 結局、俺が一人で留守番――兼、緊急時の待機要員って事で決まってしまったが、仕方がないか。


「分かった。俺は馬車で待ってるが、もし危険を察知したら駆けつけるからな」


「分かりました」「お願いします」「ああ」「はい」「……(コクリ)」


 三者三様の返答の仕方で応えると、揃って森の中へと足を踏み入れた。

 そんなワケで、俺は御者台に座り込んで彼らの姿が小さくなっていくのを見つめながら、五人が何処にいても気配を感じられる様に、索敵範囲を数キロメートルにまで広げて待機する事にした。





 探索範囲で動き回っている五人は、それぞれ二人一組が二つと単独が一つ……と、三つのグループに分かれたようだ。

 動き方からすると、ちょこまかと動いては止まり、またちょこちょこ動いて止まるという二人組は、おそらくハースとシーニャだろう。

 二人は猫獣人族特有の狩り方があるのかもしれないな。シーニャの様子からしてハースに色々と教えているかもしれないし、ハースにとっても良い経験になるだろう。


 もう一つの二人組はグレッグとパイルかと思ったが、単独で動いているのがグレッグの様だ。という事は、アレーシアとパイルが組んだのか。

 グレッグは【神速】と呼ばれるほど素早い動きが出来るというが、確かにこの単独での動きは普通の人間が為せる動きじゃない。10メートルの間を反復横跳びしているような感じだな。

 

 アレーシアとパイルは……片方が前を歩いて、もう一人が後ろで止まっているという事は、どちらかが斥候しつつ、獲物が見つかり次第、後方にいるのが合流するって感じだろうか。

 二人の前方200メートルほどに一体反応があるものの、アレーシアは索敵能力が無いし、確かパイルもそういった話は無かったよなぁ。

 どの辺りで気が付くか……それとも獲物の方が先に二人を察知するか。赤鹿だとしたら先に察知されると逃げられてしまいそうだな。


 う~ん、他に近いのはグレッグの右前方150メートルほどに二体か。まだどちらも相手に気付いてないみたいだが、二体という事は森林狼の確率の方が高いか。

 山岳狼(マウンテンウルフ)とあまり変わらないのであれば、グレッグ一人で二体狩るくらいは容易いだろう。


 三組の中で一番最初に動きがあったのはグレッグであろう単独行動の気配だった。

 急にピタリと動かなくなると、気配も消える。流石にそのくらいは出来るか。

 二体の獲物はグレッグに気づかない様で、少しずつ近付いているが……こちらもピタリと止まった。おそらく匂いを嗅ぎ取ったのかもしれない。

 刹那、グレッグが【神速】によって飛び掛かったと思しきスピードで瞬時に二体の獲物に近付き、その影が重なると……ほんの2~3秒で二体の気配が消えて、反応はグレッグのみとなった。


 次に動きがあったのはアレーシア・パイル組か。

 後方で反応する気配が、やや強めの魔力を放っている。という事はこれはパイルだな。すると数十メートル先にあった獲物と思しき一体の反応がピタリと止まり、そこへパイルの前方にいたアレーシアが駆け付け、その一体の反応を消した。

 

 暫くしてグレッグが森林狼を二頭、担ぎ上げて帰って来た。なかなかに勇ましいというか、おどろおどろしいというか。

 もし何も知らずに森の中でこのグレッグに出会ったら、きっと悲鳴を上げて卒倒するだろう。


「ターナス、お前が弄ってくれたこのショートソード、切れ味が良すぎて思わず森林狼の首を落としちゃったぞ」


「首が付いてた方が良かったのか?」


「いや、そういうワケでもないけどな。兎に角この切れ味は凄い! 首を刎ねる感覚が無いんだからな。一瞬斬りそこなったかと思って焦ったぜ」


「似たような事をアレーシアにも言われたよ。切れ味が良過ぎて加減するのが難しいってな」


「ははは、分かる分かる」


 そう言って笑いながら森林狼を地面に降ろすと、グレッグはすぐさま解体に取り掛かった。

 頭部は切り落としてしまったので、その場で牙だけは抜き取ったらしい。残る胴体部分は毛皮を丁寧に剥ぎ取り、一枚皮として処理していた。肉は山岳狼(マウンテンウルフ)同様に食肉には向いてないらしい。なので、この森に住む他の野獣や魔物の餌となるべく、街道から外れた森の中に放り込んでしまう。


 そうこうしている内に、アレーシアとパイルも戻ってきたが、二人はその場で解体処理をしてきたと言う。


「赤鹿でした。皮と肉が採れましたが、生憎と雌鹿だったので角が採れなかったのが残念です」


 そう言ってパイルは苦笑いし、アレーシアも肩を竦めて「仕方ないですよね」と笑っている。


「それにしても、このナイフは怖いくらいに切れますね。解体作業があんなにも早く楽に終わるなんて……」


「でしょ? 私も施術して貰ったナイフで初めて解体した時には、本当に驚いたもの」


 最早これは強化施術後のお決まりパターンになってしまったみたいだな。

 それはそうと、ハースとシーニャは……何かを追い立てている反応があったが、それも終わってこちらに向かって歩いている。どうやら何かしら狩ることが出来て戻って来るか。


 結局、ハースとシーニャが狩れたのは、一角兎(ホーンラビット)が三羽だった。

 他の三人が大物を狩ってきたのに、自分たちは小物三体だけなので不満そうだが、路銀稼ぎの為の僅かな時間での狩りなのだし、そうそういつも上手くいくとは限らないのが狩猟ってものだろう……と、二人を労いつつ宥めてやった。


 一角兎は血抜きだけしてきたので、解体せずにそのまま持って行くらしい。

 まぁ、解体したところで体積が大きく変わるワケでもないし、敢えて手間暇掛ける必要もないだろうが……アレーシアがチラチラと俺を見ているんだよな。

 これは俺の「空間収納に入れてしまえばいいのに」という表情にしか見えん。


「あぁ、もしよければ俺が全部持って行くぞ」


「ターナスさんが持って行くって……馬車に載せればいいだけですけど?」


 パイルが不思議そうな顔で首を傾げているが、通常考えれば尤もな話だからな。

 そんなパイルにアレーシアが笑顔で応えた。


「ターナス様は空間収納を持っているので、全部持たせて大丈夫ですよ」


「空間収納が出来るんですか⁉ ふわぁぁぁ……凄い、流石にじんが……」


 パイルは今、流石に人外って言おうとしたな? 段々と言動がアレーシアに似て来てるんじゃないか?

 そして、そんなパイルやグレッグ達の顔を見て、アレーシアがニヤニヤしている。そう、あの笑顔は「あなた達も呆れなさい」とでも言いたげな笑顔だったんだよ。


 こうして、取り敢えず路銀稼ぎ用の狩りを終えた俺達は、これら採取品を買い取ってくれる街……或いは村を目指し、街道を再び進みだした。


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